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レーザー照射により超伝導を増大させる方法を提唱 スーパーコンピュータを駆使して発見

掲載日:2017年11月14日

© 2017 Kota Ido, Takahiro Ohgoe, and Masatoshi Imada.シンボルはレーザー照射下での超伝導の大きさを表している。A0はレーザー光の強さである。赤線と緑破線は、レーザーによって有効的に強められた相互作用の予測された強さでの均一励起状態における超伝導の大きさを示している。黒一点鎖線は初期状態の持つ超伝導の大きさを表す。図上には電子の空間分布の時間依存性を示している。この結果から、超伝導秩序がレーザー照射によって増大されるが、電子の不均一性は大きくなっていないことがわかる。また、超伝導の大きさを時間平均した値が、平衡状態では達成する事の出来ない電荷均一な励起状態の値によく一致している事が明らかになった。

レーザー照射された系における超伝導の大きさの時間依存性
シンボルはレーザー照射下での超伝導の大きさを表している。A0はレーザー光の強さである。赤線と緑破線は、レーザーによって有効的に強められた相互作用の予測された強さでの均一励起状態における超伝導の大きさを示している。黒一点鎖線は初期状態の持つ超伝導の大きさを表す。図上には電子の空間分布の時間依存性を示している。この結果から、超伝導秩序がレーザー照射によって増大されるが、電子の不均一性は大きくなっていないことがわかる。また、超伝導の大きさを時間平均した値が、平衡状態では達成する事の出来ない電荷均一な励起状態の値によく一致している事が明らかになった。
© 2017 Kota Ido, Takahiro Ohgoe, and Masatoshi Imada.

東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の井戸康太大学院生、大越孝洋特任助教および今田正俊教授の研究グループは、強いレーザー光を電子間相互作用の強い物質(強相関物質)へ照射することで、その物質における超伝導性が熱平衡系では達成することができないほど増大することを見出しました。本成果により、超伝導転移温度を光によって制御する研究やそのデバイス応用への展開がより活発になっていくことが期待されます。

物性物理学の夢の一つとして、室温領域における超伝導の実現が挙げられます。これまでの常圧下での最高転移温度は銅酸化物で実現された約-140℃でありました。転移温度を室温領域まで上げようとこれまで数多くの実験がなされてきましたが、常圧下ではここ数十年でほとんど変化していません。転移温度を高くするためには電子間に働く引力を強くする必要がありますが、強すぎる引力は電子を一箇所に集めたがる傾向を持つため、電子の空間分布が大きいところと小さいところに分かれてしまう不均一状態を形成してしまいます。一方、平衡系での閉塞感を打破するために、レーザー照射などの非平衡過程を利用して転移温度を制御しようという試みが近年精力的に行われております。

今回研究グループは、電子間に働く相互作用を高精度に取り扱うことのできる数値計算手法を開発し、それを用いて標準的な強相関電子系における光照射ダイナミクスの数値シミュレーションをしました。シミュレーションの結果、光照射によって電子の間に働く有効斥力が強められると、逆説的に創発的な有効引力が強められ、さらに平衡状態では超伝導を抑えてしまう不均一状態を回避することで、顕著な超伝導をもつ動的に安定な状態が実現できることを示しました。

本研究での結果は、相関電子物質での光による室温超伝導の実現に新たな局面を切り開く成果と言えます。今後は、本研究で得た「よくデザインされた強い光照射によって超伝導性が増強される」という理論予言を実験で検証することが望まれます。さらに、どのような光を照射すれば物質の状態を制御する事が出来るかという指針をシミュレーションから得る研究だけでなく、これに基づいた新奇光デバイス応用への発展にも、はずみがつくことが期待されます。

「これまでの高温超伝導に関する研究では、主に熱平衡の下で行われてきました」と井戸大学院生は話します。「今回の研究のような強相関電子系における超伝導ダイナミクスをシミュレーションすることは非常に難しかったのですが、開発を進めてきた数値計算手法を用いてようやく達成する事が出来ました。今回の私たちの成果は非平衡超伝導に関する研究を大いに活発化させるものと期待します」と続けます。

プレスリリース

論文情報

Kota Ido, Takahiro Ohgoe and Masatoshi Imada, "Correlation-induced superconductivity dynamically stabilized and enhanced by laser irradiation", Science Advances Online Edition: 2017/08/19 (Japan time), doi:10.1126/sciadv.1700718.
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