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X線の2光子吸収の観測に成功 数百ゼプト秒の間にほぼ同時に原子を2度打ち

掲載日:2014年3月11日

私たちが目にする色は、光が物質によって吸収されることで生じます。この過程は、通常、原子1つに対して光の粒子(光子)1つひとつが独立に吸収されることで生じ、可視光領域だけでなくX線領域でも同様に起こります。しかし、X線を非常に強くすれば、つまり、X線光子を狭い時空間に大量に押し込むことができれば、数百ゼプト秒(1ゼプト秒は10-21秒)という極めて短時間に2つのX線光子を同じ原子に当てて、ほぼ同時に吸収させることができます。ただし、X線の2光子吸収の確率は可視光領域に比べて10桁以上低いため、実現は極めて困難だと考えられていました。

© 玉作賢治(理化学研究所) X線の強度(パルスエネルギー)が強くなる右側で、実験データ(青)は単純な2乗の予測(緑)より下側にずれていく。X線による試料の破壊過程を組み込んだシミュレーション(赤)を行うと、実験データを正しく再現できる。

東京大学大学院工学系研究科の三村秀和准教授は、理研放射光科学総合研究センターの玉作賢治専任研究員、矢橋牧名グループディレクターと、分子科学研究所極端紫外光研究施設の繁政英治准教授、大阪大学大学院工学研究科の山内和人教授、および高輝度光科学研究センターの大橋治彦副主席研究員と共同で、X線の光子がゲルマニウム原子に2個同時に吸収される「2光子吸収」過程の観測に成功しました。共同研究グループは、理研と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのX線自由電子レーザ(XFEL)施設「SACLA」のX線ビームを約100ナノメートルまで絞り込み、超高強度X線をゲルマニウム試料に照射し、2光子吸収を起こすことができました。また、2光子吸収と並行して、超高強度X線による試料の破壊がフェムト秒(1フェムト秒は10-15秒)の速さで進むことを明らかにし、試料が壊れていく過程をコンピューター上でシミュレーションすることで、壊れる前の物質が本来持っていた固有の情報の抽出に成功しました。

本研究成果はX線領域における非線形光学の重要なステップであることはもちろん、試料を破壊するほど強力なX線で、破壊される前の試料固有の情報を得る方法を示した点でも、XFELを使った微小なタンパク質結晶の構造解析をはじめとする幅広い利用研究を可能にする有意義な成果です。

プレスリリース

論文情報

Kenji Tamasaku, Eiji Shigemasa, Yuichi Inubushi, Tetsuo Katayama, Kei Sawada, Hirokatsu Yumoto, Haruhiko Ohashi, Hidekazu Mimura, Makina Yabashi, Kazuto Yamauchi, Tetsuya Ishikawa,
“X-ray two-photon absorption competing against single and sequential multiphoton processes”,
Nature Photonics Online Edition: 2014/2/16, doi: 10.1038/nphoton.2014.10.
論文へのリンク

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大学院工学系研究科 精密工学専攻

大学院工学系研究科 精密工学専攻 国枝・三村研究室

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