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忘却がもたらす驚くべき効果 軽微な忘却は運動指令を最適化することを理論的に証明

掲載日:2012年7月20日

ニューロン1,000個を用いたシミュレーションの結果
© Masaya Hirashima and Daichi Nozaki

AとBは、運動誤差の推移を示している。CとDの各曲線は、各初期条件から開始したニューロン活動の二乗和の推移を示している。忘却が全くない場合には、運動誤差は減少するものの(A)、ニューロン活動度は減少せず、最適解には到達しない(C)。一方、軽微な忘却がある場合には、運動誤差が減少したのち(B)、ニューロン活動度は初期条件に依らず最適解に達する(D)。全ニューロンの活動パターンを示したヒストグラムも、初期条件に依らず最適状態に収束する。また、このパターンは、実験で観察されるパターンを再現している。

忘却というと、記憶を阻害するものとして悪いイメージを持つ人が多いかもしれません。しかし、今回、東京大学大学院教育学研究科の平島雅也助教と野崎大地教授は、運動を学習する場合、その記憶を「少しずつ忘れる」ことは、むしろ、運動制御の指令を最適化する効果があることを初めて理論的に証明しました。また、個々の記憶素子において軽微な忘却が起こることを仮定してニューラルネットワークモデルを構築すると、霊長類の一次運動野神経細胞で観察されるのとほぼ同じ神経活動パターンを再現できることを明らかにしました。これらの結果は、脳の運動学習プロセスにおける軽微な忘却が、運動指令の最適化に貢献している可能性を示唆しています。

本研究成果は、脳における最適化計算の実態が謎に包まれている中、脳に生得的に備わっている忘却という機能が最適化に貢献しうることを示し、生物学的妥当性のある仮説を提唱したという点において学術的に大きな意義を有しています。また、今後、忘却の有効性に関する理解がより深まることで、適度な休息(忘却)を取り入れた効率的な練習スケジュールの開発など、スポーツやリハビリテーション分野への応用につながることも期待されます。

プレスリリース

論文情報

Masaya Hirashima, Daichi Nozaki,
“Learning with slight forgetting optimizes sensorimotor transformation in redundant motor systems”,
PLoS Computational Biology Online Edition: 2012/6/29 (Japan time), doi: 10.1371/journal.pcbi.1002590.
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