PRESS RELEASES

印刷

建物周りの多様な再生可能エネルギーを利用する高効率熱供給システムを開発研究成果

建物周りの多様な再生可能エネルギーを利用する高効率熱供給システムを開発

平成25年3月19日

東京大学生産技術研究所

1.発表者:
日野 俊之(東京大学生産技術研究所 特任教授)
大岡 龍三(東京大学生産技術研究所 教授)

2.発表のポイント:
 (1) 成果
太陽熱や地中熱など、建物周りの多様な再生可能エネルギーを複合的に利用して、空調や給湯の大幅な省エネルギー化を実現する高効率ヒートポンプシステムを開発した。

 (2) 新規性
地中熱交換器とソルエアヒートポンプ(注1)を結ぶ水ループを構成し、その循環水をヒートポンプ(以下、HP)(注2)の採熱と放熱に利用して、高効率に温熱と冷熱を供給する世界初のシステムである。

 (3) 社会的意義/将来の展望
再生可能エネルギーを利用した熱供給設備は社会のニーズが高く、建物用途、規模、気候などへの適用性にも優れるため、国内外へ広く技術展開したい。

3.発表概要:
建物の周囲には、太陽熱、地中熱、空気熱、長波長放射、風、雨など、ヒートポンプを用いれば有効に活用できる様々な再生可能エネルギー資源が存在します。東京大学生産技術研究所の日野俊之 特任教授、大岡龍三 教授らは、これらのエネルギー資源を有効利用するために、地中熱交換器とソルエアHPを水ループで結び、循環水を空調HPや給湯HPの熱源に用いる熱のネットワーク利用システムを開発しました。

このシステムでは、暖房や給湯には、地中熱、太陽熱、空気熱などの集熱、冷房には、地中熱、自然通風、夜間放射などの放熱を利用します。さらに、風は外気との熱交換能力を改善し、雨水は放熱能力を強化し、冷房排熱は給湯に回収利用できます。用途では、冷凍や循環水温度を直接利用した予熱等も考えられます。適用は、住宅からビルまで幅広い規模が考えられ、寒冷地にも対応します。

実験システムの試作開発では、従来技術と比較して、地中熱交換器の敷設面積を5分の1以下に削減し、空調HPや給湯HPの成績係数(注3、COP)は8前後と約2倍の効率を得ましたが、さらなる改善の余地も残しています。

今後は、実用化を通して改良とコストダウンを進め、普及段階でのライフサイクルコスト経済性は高くなることを見込んでいます。

4.発表内容:
民生部門のエネルギー消費が高止まりするなか、その大半をなす冷暖房や給湯の負荷低減と運転効率の向上が求められ、地中熱利用HPや太陽熱利用など、需要サイドの再生可能エネルギーが注目されています。地中熱は、その地域の年間平均温度として土壌に蓄えられた熱のため、安定ではあるものの利用可能量には限界があります。太陽熱は間歇的なため、補助熱源が必要になります。空気熱も再生可能エネルギーであり、HPの簡便な熱源として広く利用されています。しかし、暖房負荷が大きくなる寒冷時には採熱能力が低下し、屋外の空気熱交換器に着霜すると一層の能力低下が避けられません。逆に、酷暑日には、冷房の電力消費の増大が問題になっています。建物周囲には、この他にも、風、長波長放射、雨など、HPの集放熱に利用可能な気象要素が存在します。今回、東京大学生産技術研究所の日野俊之 特任教授、大岡龍三 教授らが新しく開発したシステムは、こうした再生可能エネルギーを複合化して、利用上の課題を解決しました。

新開発のシステムは、地中熱交換器、ソルエアHP、および空調や給湯などの熱供給を行う個別分散型水熱源HPを水ループで結んで構成されます。水ループの循環水温度は、土壌との熱交換とソルエアHPの集放熱運転によって地中温度±5℃程度に保たれるため、各々の熱供給HPはこれを集放熱源として安定な高効率運転ができます。例えば、東京地域の深さ10mの地中温度は17℃前後であり、これを基準に循環水温度を12~22℃程度の範囲に維持すれば、HPの加熱運転と冷却運転のいずれにおいても高いCOPが得られます。

地中温度はその地域の平均気温に近いため、北国では10℃以下、南国では20℃以上になりますが、それでもより変動の大きな外気を熱源とするよりも、はるかに有利な運転ができます。

次に具体的な運転を説明します。空調HPの暖房運転や給湯HPは水ループから集熱するため、循環水温度が地中温度よりも下がって地中熱を吸収します。これを継続すると循環水温度が下がり過ぎるため、ソルエアHPの集熱運転で循環水を加熱して地中温度近くまで回復させます。他方、空調HPの冷房運転では、水ループに熱を捨てるため循環水温度が上昇して地中へ放熱が生じます。これを継続すると循環水温度が上がり過ぎるため、ソルエアHPを夜間に放熱運転し、循環水温度を冷却して地中温度まで下げます。これは、冷房電力の一部を夜間のオフピーク時間へ移行させる効果があります。ソルエアHPの放熱は20~30%が長波長放射のため、ヒートアイランド現象の緩和効果もあります。

従来の地中熱利用は、暖房期は土壌から一方的に採熱し、冷房期は土壌へ一方的に放熱するため、大きな熱容量を必要とし、地中熱交換器の間隔を5m程度離す必要がありました。本システムでは、ソルエアHPで補うことで地中熱交換器を高密度小型化でき、敷設面積は5分の1以下になります。さらに、高密度地中熱交換器を深さ10m程度に埋設する場合は、アースオーガー(注4)等を用いた低コストな掘削工法が使えます。

建物負荷を低減したうえで、本システムのような高効率設備を導入して太陽電池を追加すれば、ゼロエネルギー建築(ZEB, ZEH)に近づくことができます。

技術開発は、東京大学生産技術研究所千葉実験所に設置した実験システムを用いて行い、以下の成果を得ました。

1) Uチューブ地中熱交換器を高密度(1m間隔、深度50m)設置し、相互の熱影響は生じ
ないことを検証しました。また、新たにヘリカル型高密度地中熱交換器(深度12m)を開発しました。
2) ソルエアHPの試作モジュールを運転試験し、雨天でも所定の熱出力(5kW)が得ら
れ、晴天日は高い効率で太陽熱利用することを確認しました。太陽電池を一体化したPVソルエアHP、および放熱能力を強化する節水型散水ノズルの開発を進めました。
3) 水熱源空調HPについては、既製品の熱交換器と諸設定を変更して性能を検証し、
COP を10前後に高める改良指針を得ました。さらに、水ループで再熱する除湿外調機の試作実験を行い、有望な見通しを得ました。
4) 水熱源瞬間給湯HPを試作しました。冷房の排熱を給湯に回収利用する運転では、給
湯温度40℃でCOPは約8を得ました。
5) 実験データに基づく性能計算モデルを用いた運転シミュレーション手法を開発しまし
た。

要素技術を改良すれば運転効率を更に向上できます。例えば、温度リフトが10K未満の運転条件でCOP 20を得るには、低圧縮比に適した冷媒圧縮機が必要になります。膨張機構では、制約の多い膨張弁に換えて、独自のドレーナ方式を開発しました。

HP機器は空調や給湯に広く普及していますが、温度変化が大きな外気を熱源とするため、性能向上には限界がありました。本システムは、多様な再生可能エネルギー利用による安定した温度の水を熱源とし、水ループによる熱のネットワーク利用で多用途に対応し、排熱も回収できます。こうした分散ネットワーク型の熱利用技術は規模の自由度が高く、小規模な住宅用から大型ビル、さらには未利用エネルギーを取り入れた地域熱源まで拡張できるものと考えられます。様々な気候への適用性も高いと思われることから、世界へ向けて本システムを提案していく予定です。

この技術開発は、環境省の平成22~24年度「地球温暖化対策技術開発・実証研究事業」として、鹿島建設株式会社、株式会社LIXILと共同実施したものです。

5.発表雑誌:
  雑誌名:「産業と環境」, Vol. 40, No. 12 (2011), pp.29-32
  論文タイトル:再生可能エネルギーを利用する水ループ式ヒートポンプシステムの開発
  著者:日野俊之

6.問い合わせ先:
  東京大学生産技術研究所 特任教授 日野 俊之

7.用語解説:
(注1)ソルエアヒートポンプ:冷媒循環式の屋外パネル(ソルエアパネル)を特徴とする日本独自の技術である。加熱運転では太陽熱と空気熱を集熱し、冷却運転では夜間に長波長放射と自然通風を利用して放熱する。風は大気との熱交換性能を改善し、雨水の蒸発で高い放熱性能が得られる。ソルエアパネルに太陽電池(PV)を一体化した、PVソルエアHPも研究開発されている。
(注2)ヒートポンプ:動力(通常は電力)を用いて、熱を低温部から高温部へ移動させる技術である。そして、両者の温度差(温度リフト)が小さくなるほど、動力が減少して運転効率(COP、注3)が上がる。ヒートポンプの加熱運転には集熱源(低温部)が必要であり、冷却運転には放熱源(高温部)が重要である。
(注3)成績係数(coefficient of performance, COP):ヒートポンプから得られた熱量(温熱または冷熱)を動力で除した値。COPが高いほど運転効率が高く省電力になる。
(注4)アースオーガー:スクリュー状の回転刃を地中にねじ込んで穴を掘る建設機械。

8.参考資料:
こちらをご覧ください。

アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる