東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

花やテキスタイル、茶器の写真がすかしで入った表紙

書籍名

歴史のなかの消費者 日本における消費とくらし 1850-2000

著者名

ペネロピ・フランクス (編)、 ジャネット・ハンター (編)、 中村 尚史(監訳)、 谷本 雅之 (監訳)

判型など

367ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2016年3月18日

ISBN コード

978-4-588-32707-0

出版社

法政大学出版局

出版社URL

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歴史のなかの消費者

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本書はペネロピ・フランクス (リーズ大学名誉フェロー) とジャネット・ハンター (ロンドン大学LSE教授) という、2人のイギリス人の日本経済史研究者を編者とする、近代日本における消費と日常生活に関する国際的な共同研究の成果である。参加メンバーはイギリスと日本を中心に、アメリカ、カナダと4カ国にまたがっており、各国における当該テーマに関する研究の第一人者を網羅している。2012年に英語版がPalgrave Macmillan社から出版され、2016年に日本語版が法政大学出版局から出た。本学からは、中村尚史 (社会科学研究所)、谷本雅之 (経済学研究科) が共同研究に参加し、翻訳作業にもかかわった。
 
近年の欧米の歴史学界では、消費や日常生活に着目した研究の発展がめざましい。その背景には文化研究 (cultural studies) やジェンダー論の隆盛があるが、その方法論をとりいれつつ、社会経済史の分野でも、ヤン・ド・フリース (Jan de Vries) など有力な経済史家による、影響力のある研究の刊行が相次いでいる (The Industrious Revolution: Consumer Behavior and the Household Economy, 1650 to the Present, Cambridge University Press, 2008など)。これに対して、伝統的に生産や流通といった財の供給の側面に注目してきた日本の社会経済史の分野では、消費や日常生活といった需要面に着目した研究が遅れており、そのため、一見、隆盛にみえる社会史・文化史からのアプローチによる日本の消費史研究も、その基礎となる経済実態との関連が十分ではない嫌いがあった。
 
このような研究状況を踏まえ、本書では社会経済史的な視角を重視しつつ、経済史、社会史といった分野で精力的な研究を実践している専門家が、自らのディシプリンと研究領域を生かしつつ、「消費」を共通のキーワードとして日本近代史の領域に縦横に切り込んだ。各章は、世帯消費と家事労働の関連、衣服、家電、食料品、医薬品といった財の消費、輸送、通信、レジャーなどのサービス消費の分析を通じて、様々な消費行動とそれにともなう日常生活の変化を論じている。近代日本における消費生活を、これほど多面的に分析した本は、少なくとも日本語では他に類書を見ない。また問題意識が先行しがちな欧米における日本史研究者と、史料に埋没しがちな日本の経済史研究者が、十分に議論を尽くし、互いの弱点を補い、メリットを引き出しあうかたちで一書に仕上げた点でも、希有な共著書である。それは歴史研究における国際的な学術交流の一つの在り方―他国史研究者と自国史研究者の協働―の意義とその成果を、具体的な形で示しているともいえる。
 
1850年から2000年という長い工業化の時代の消費や日常生活の変化を、経済の実態面を重視しつつ、文化研究の視角も加えて検討した本書が、現代消費社会のより深い理解に資するとともに、消費の社会経済史という歴史研究の新たな展開の礎ともなることを、期待している。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 谷本 雅之 / 2016)

本の目次

日本語版へのはしがき
 第1章 日本の消費史の比較史的考察 (ペネロピ・フランクス / ジャネット・ハンター)
第I部 ジェンダー・家計・消費
 第2章 日常生活における家事労働の役割 (谷本雅之)
    もう一つの消費史として
 第3章 雨後の筍のごとく (アンドルー・ゴードン)
    ドレスメーカーと消費者の国の成長
 第4章 蒸気の力、消費者の力 (ヘレン・マクノートン)
    女性、炊飯器、家庭用品の消費
第II部 伝統・近代・消費の成長
 第5章 家計史料からみた消費生活の変容 (中西 聡 / 二谷智子)
 第6章 甘味と帝国 (バラック・クシュナー)
    帝国日本における砂糖消費
 第7章 着物ファッション (ペネロピ・フランクス)
    消費者と戦前期日本における繊維産業の成長
 第8章 甦る伝統 (梅村真希)
    患者と和漢薬業の形成
第III部 消費の空間と経路
 第9章 鉄道に乗る (中村尚史)
    明治期における鉄道旅客利用の進展
 第10章 民衆と郵便局 (ジャネット・ハンター)
    近現代日本における消費活動と郵便サービス
 第11章 戦前期における通信販売の歴史的役割 (満薗 勇)
    大衆市場の勃興に先立つ消費史との関係
 第12章 社用から行楽へ (アンガス・ロッキャー)
    戦後日本における商品としてのゴルフ
 第13章 歴史と消費主義の研究 (ベヴァリ・ルミア)
    西洋史家の見た日本
監訳者あとがき

関連情報

書評・紹介:
『消費と生活』2016年5・6号
『エコノミスト』2016年5月24日特大号
『出版ニュース』2016年5月中・下旬号
英文の原著に対してはEconomic History Review 66巻1号 (2013) にbook reviewが掲載されている。

英文原著:
http://www.palgrave.com/us/book/9780230273665

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