東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に緑とオリーブグリーンの模様

書籍名

Y[igrek]21 日本経済史 近世から現代まで

著者名

沢井 実、 谷本 雅之

判型など

484ページ、A5判、並製カバー付

言語

日本語

発行年月日

2016年12月

ISBN コード

978-4-641-16488-8

出版社

有斐閣

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学内図書館貸出状況(OPAC)

日本経済史

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本書は、日本経済の歴史的な展開過程を、近年の研究成果を踏まえつつ要約・叙述した著作です。大学の講義用概説としての目的も含んでいるため、叙述は多方面にわたっていますが、執筆にあたって著者二人が一貫して意図したのは、日本経済の大きな流れを描き、経済史の視角から、現代日本社会の歴史的位置を考察することでした。
 
本論を構成する6つの章は、近世経済から第二次世界大戦後の高度成長までを扱い、プロローグでは、近世経済の歴史的前提を、そしてエピローグは、高度成長終了から現在までの展望を述べています。近代以降の比重が高いのは、本書が経済発展に主な関心を置いているためです。しかし経済発展の過程には、経済社会を同一方向へ向かわせるベクトルとともに、個々の経済社会に構造的な類型差を産み出す作用も働いています。我々は経済史の文脈の中で経済発展を論ずることの固有の意義は、経済学の希求する経済成長を導く「普遍的な論理」の剔出とともに、地域、時代に応じた経済発展の類型的な特質を把握することにあり、その鍵は、近世初頭の17世紀に成立した「小農社会」が、日本の経済社会の基層として近代以降も持続的に展開した点を見定めることにあると考えました。第1章および第2章で徳川時代をとりあげ、単にそれを近代の前史とする見方を超えた叙述を試みたのはそのためです。確かにこの400年の間に、日本経済史は大小さまざまな「断絶」を経験しました。幕末開港・明治維新、第2次世界大戦の一角である日中戦争・太平洋戦争の敗戦、占領はその中でもとりわけ大きな断絶でした。しかしその基層として、制度としての「家」と「村」に支えられた小農社会の存続が、明治期日本の「産業革命」に、「移植」と「在来」の要素が相互に影響しあう「複層的発展」の特徴を付与し、それが戦間期における大企業の形成・発展と都市での中小零細企業の集積へと連なっていきます。戦後高度成長期における大きな社会経済的変化の下でも、「家」、「村」、「地域」は固有の意義を維持し、重化学工業化の中で自営業、中小零細企業の展開が高度成長を支えました。本書は、近世社会の成立から戦後高度成長までを、固有の論理を孕んだ経済発展の一ケースとして理解し、それを日本と世界の歴史の中に位置づける試みといえます。
 
歴史を学ぶことの大きな効用は、「現代」を超長期的な時間軸の中に置くことによって、現代を相対化する視点が鍛えられることにあります。現代に押しつぶされそうになったとき、綱渡りのような選択の果てにいまがあるという自覚は、いまは変えることができる、未来は与えられるものではなく作り上げていくものであるという意志を喚起してくれるはずです。過去は変えられませんが、何度でも学ぶことができ、過去からの選択の連鎖としていまがあるかぎり、未来も選ぶことは可能です。読者にとって本書が、少しでも過去を振り返り、そしてまた未来を選択する作業の縁となることを願っています。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 谷本 雅之 / 2017)

本の目次

プロローグ  日本の経済発展とその歴史的前提
第1章  「近世社会」の成立と展開 (1600~1800年)
第2章  移行期の日本経済 (1800~1885年)
第3章  「産業革命」と「在来的経済発展」 (1885~1914年)
第4章  戦間期の日本経済 (1914~1936年)
第5章  日本経済の連続と断絶 (1937~1954年)
第6章  高度経済成長 (1955~1972年)
エピローグ  日本経済の課題
 

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