経済史・経営史研究入門 基本文献、理論的枠組みと史料調査・データ分析の方法
本書は、大学院進学を考えている学部学生と進学初年度の大学院生を主に念頭において、経済史・経営史に関する研究を始める際のガイドブックとして編集されたものである。経済史・経営史という研究分野については、経済学の他の分野と異なって、大学院レベルの標準的な教科書が日本語・英語を通じて利用できない。そのため、この分野の研究者を志す学生は、教員から個別的な研究指導を受けながら、オンザジョブトレーニング (OJT) を通じて研究能力を養成して行くことが一般的である。
このような現状を踏まえて、本書では、経済史・経営史を研究するにあたって身につけておくべき知識と技法を、できるだけ標準化して読者に提供することが意図されている。第一は基本文献に関する知識であり、日本経済史、アジア経済史、欧米経済史について、3人の研究者がそれぞれ独自の視点から基本文献のサーベイを行っている。ここから読者は、研究者がどのような問題を設定し、それをどのように研究して、何を明らかにしてきたかを概観することができる。第二に、経済学の基幹的な分野であるミクロ経済学、マクロ経済学、計量経済学について、それぞれがどのように経済史・経営史研究と関わるかについて、各分野の研究者が解説している。経済史・経営史は、例えば政治史が政治の歴史であるのと同様に、経済の歴史・経営の歴史を研究する歴史学の一分野と見ることができる一方、その対象が経済・経営であることから、本書で述べられているように、それを研究する際に経済学・経営学が有力な道具を提供する。第三は研究の基礎となる史料・データについてであり、日本の企業史料 (大企業・中小企業)、日本の農村史料、海外の企業史料、オーラル・ヒストリー、マイクロ・データについて、6人の研究者が、実例をふまえてそれぞれの収集の仕方と利用方法を解説している。読者はここから研究に直接的に役立つ実用的な知識を得ることができるであろう。
以上のような内容を持つ本書は、世界的にもユニークな経済史・経営史研究のガイドブックである。また、本書にはこの分野の研究者による日常的な研究の営みの一端が記されている。本書を通じて多くの読者に経済史・経営史研究に関する知識・技法、そして研究の面白さを伝えることができれば幸いである。
(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 岡崎 哲二 / 2023)
本の目次
第1章【日本】 家父長制と福祉国家:社会保障の法的経路依存 (中林真幸)
第2章【アジア】「まとまり」としてのアジア経済史 (城山智子)
第3章【欧米】時代と向き合う西洋経済史 (山本浩司)
第II部 経済史と経済学のかかわり方
第4章 ミクロ経済学と気候変動国際交渉
――歴史や制度にかかわる知識を関連づけて「知恵」を持つ (松島斉)
第5章 マクロ経済学を用いて経済史実を理解する (青木浩介)
第6章 計量経済学の経済史研究への応用
――プログラム評価における条件付変数の取り扱いについて (市村英彦)
第III部 史料とデータの使い方・考え方
第7章 日本の企業史料 (1):大企業 (粕谷誠)
第8章 日本の企業史料 (2):中小企業 (谷本雅之)
第9章 日本の農村史料 (小島庸平)
第10章 海外の企業史料 (小野塚知二)
第11章 オーラル・ヒストリー (中村尚史)
第12章 マイクロ・データの利用 (岡崎哲二)
関連情報
http://www.okazaki.e.u-tokyo.ac.jp/
メッセージ:
「経済史はすごい!数千年の歴史を読み解き、貧困に挑む」 (わくわくキャッチ!|河合塾)
http://www.wakuwaku-catch.jp/ouen_pj/message/1137.html
公開講座:
「経済の歴史を測る」 (東大TV 2021年6月19日)
https://todai.tv/contents-list/2021FY/2021spring/09