本書は放送大学でのテレビ講義にあわせて作成された印刷教材である。2018年4月からの開講に間に合わせるため、約2年間で執筆と校正、印刷を済ませて刊行された。共著者は水島司先生で、私と同じ講座に所属する教員であった。ここで「あった」と過去形で語るのは、水島先生は2018年3月に退職され、現在は名誉教授であるからだ。そのため、本書は、ご退職前の水島先生と楽しく執筆させていただいた私なりの記念でもある。
何が楽しいのかというと、「グローバル経済史」という科目は一般になじみのない科目だからである。理想的で模範的な教科書がすでに豊富にあるわけではない。経済史系の科目といえば、「日本経済史」や「西洋経済史」はたいていの経済学系の学部で設置されており、日本で長い歴史を持っている。教師は何を語るべきかが、およそ事前に決まっている科目であるともいえる。最近では「アメリカ経済史」や「アジア経済史」といった科目が開講されるような大学が増えたが、「グローバル経済史」という科目はほとんど設置されていない。経済史系の基礎科目にあたる「一般経済史」といった科目とも異なる。ともあれ、新たなことにチャレンジできることは、苦労や不安も多いが、なんとはなしに面白い。
近年、グローバル・ヒストリーという言葉をしばしば耳にするが、それが一体何であるのかはよくわからない。論者や著者によって、グローバル・ヒストリーの意味するところが違う。今回は、グローバル経済史ということで、グローバル・ヒストリーと比べて対象が小さいので、その点は若干、気楽であった。ただ、放送大学では他に経済史系の科目は設置していないので、西洋経済史や日本経済史のエッセンスを盛り込みつつ、経済史一般の要点やアジアなどにも光を当てることに意を注いだ。
本書は全体で15章から構成されている。水島先生は理論的あるいは総論的な章を担当され、私はどちらかといえば具体的な事柄がテーマとなっている8つの章の執筆を担当した。アメリカ大陸を含めたグローバル化の進展を、商品の生産・流通・消費というモノからのアプローチを試み、各地の経済の世界的連鎖について記すことにつとめた。くわえて、経済のグローバル化は決して単線的な発展ではなかったことを強調した。
もっとも刊行後、後悔がないわけではない。例えば、もう少し、人の顔が見える教材にしてもよかったのではないかと思う。顔の見えない歴史叙述は無味乾燥に思われるのではないかと感じるのだ。自著が出版されたり、あるいは論文が印刷公表されたりしたのちは、いつも、この種の後悔に襲われる。とはいえ、不完全だから読まないでくださいと言えば、この科目を履修する学生に失礼であろう。むしろ、多くの批判を得て、次なる著作執筆への意欲を沸き立たせなければならない。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 島田 竜登 / 2018)
本の目次
1. グローバル経済史入門-世界の構造変動をめぐって-
2. アジアとヨーロッパ-経済発展の国際比較-
3. 銀と大航海時代
4. 近世グローバル経済と日本
5. アジア経済とイギリス産業革命
6. 世界商品の登場
第2部 一体化
7. 開発と人口
8. グローバル経済の緊密化
9. 開発の進行と人の移動
10. 国際金融と金本位制
第3部 深化
11. グローバル経済の深化とライフスタイル
12. エネルギー
第4部 展開
13. 経済発展の多径路性
14. 20世紀後半の展開
15. リオリエントへの展望