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白い表紙に渦状の模様

書籍名

ライブラリ 経営学コア・テキスト 14 コア・テキスト経営史

著者名

粕谷 誠

判型など

376ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2019年12月25日

ISBN コード

978-4-88384-303-9

出版社

新世社

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コア・テキスト経営史

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現代企業は原料の購買・製品の製造・製品の販売・研究開発などを自社でおこなう垂直統合と複数の製品・分野を手がける多角化をおこなっており、製品もしくは事業分野ごとに事業部 (購入・製造・販売・研究開発などの機能を営む) をつくる事業部制組織を採用していることをその特徴としている。こうした現代企業は1920年代のアメリカに出現し、やがて普及していったが、日本でも戦後に出現している。ところが1970年代以降のアメリカでは、すべての部品を自社で製造するのではなく、他社から購入する動きが広がるとともに (垂直統合の解体)、収益性の低い製品分野から撤退し、経営資源を高収益が見込める分野に集中する動き (多角化の見直し,選択と集中) が進み、現代企業が変容を受けている。日本でも1990年代以降、こうした動きが徐々に強まっているが、本書はこうした現代企業の生成と変容を日本に即して明らかにしたものである。
 
まず序章において、企業がなぜ垂直統合し、また多角化するのかについて、理論的に説明し、さらに日本において事業部制組織をとる会社が大会社においてどの程度の割合を示すのかを明らかにしている。
 
続く第I部企業経営を支える制度は、株主がどのように経営者を任命し、企業がどのように経営されているのかを明らかにした企業統治、企業がいかに資金を調達し、どのようなルールにもとづいて利益を算出しているのかを明らかにした企業会計と企業金融,企業は独立しているのではなくさまざまなグループを形成しているが、そのグループの変遷を明らかにした企業グループの3つの章からなっている。日本が近代化を開始した際にはアメリカの法制度の影響が強かったものの、ドイツからさまざまな法制度が輸入されてドイツの法制度の影響が強くなったが、敗戦後に再びアメリカの法制度の影響が強くなったことが強調されている。
 
第II部製造業では、繊維・造船・自動車・電気機械・化学の5つの産業を取り上げ、それぞれの産業がどのように立ち上がり、成長し、成熟し、衰退しているのか (いないのか) を明らかにするとともに、それぞれの産業の中で企業がどのように多角化と垂直統合を進め、高度成長の終焉以降その見直しを進めているのかを明らかにしている。繊維では多角化に成功し、繊維部門の比重が非常に小さくなっている会社の成長性が高くなっている。
 
最後の第III部サービス業では、鉄道・商社・小売・金融を取り上げ、多角化がどのように進展しているのかを明らかにしている。日本の鉄道は世界的にも珍しく、デパート・スーパー・不動産などに多角化し、鉄道業でも収益性を保ち、民営化されていることにその特徴があるが、駅前の好立地をいかに収益化するかという課題に立ち向かってきた結果であり、同時にまたそうした多角化を許容した政策的枠組みの結果でもあった。

 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 粕谷 誠 / 2020)

本の目次

序章 多角化と垂直統合
  0.1 現代企業の生成と多角化・垂直統合
  0.2 多角化の進展と事業部制の普及
  0.3 選択と集中
  0.4 本書のねらいと構成
  演習問題

第I部 企業経営を支える制度
第1章 企業統治
  1.1 会社制度の導入とアメリカ型会社設立
  1.2 商法施行によるドイツ型会社設立と変容
  1.3 アメリカ型統治の復活と変容
  1.4 アメリカ型統治への移行
  演習問題

第2章 企業会計と企業金融
  2.1 会計制度の導入と企業金融
  2.2 会計制度の進化と企業金融
  2.3 戦後の会計制度変更と企業金融
  2.4 金融ビッグバン
  演習問題

第3章 企業グループ
  3.1 財閥の形成
  3.2 第一次世界大戦期の拡大と株式公開
  3.3 財閥解体と企業集団・企業系列
  3.4 水平的企業集団と垂直的企業系列の変容
  演習問題

第II部 製造業
第4章 繊維
  4.1 近代的綿工業の勃興
  4.2 綿紡績の発展とレーヨン工業の勃興
  4.3 合成繊維の登場
  4.4 成熟化と多角化
  演習問題

第5章 造船
  5.1 開港後における造船の発達
  5.2 第一次世界大戦期の発展と戦間期の多角化
  5.3 高度成長期の造船業
  5.4 オイルショックと中手の躍進
  演習問題

第6章 自動車
  6.1 自動車生産の開始
  6.2 戦後の急成長
  6.3 1990年代以降の再編成
  演習問題

第7章 電気機械
  7.1 電気機械工業の勃興
  7.2 真空管の登場
  7.3 戦後の発展
  7.4 半導体の登場
  7.5 デジタル化の進展と衝撃
  演習問題

第8章 化学
  8.1 酸・アルカリ
  8.2 化学肥料
  8.3 合成繊維・合成樹脂・合成染料
  8.4 石油化学工業
  8.5 石鹸・洗剤
  8.6 医薬品
  8.7 石油危機以降の変化
  演習問題

第III部 サービス業
第9章 鉄道
  9.1 蒸気鉄道の導入
  9.2 電気鉄道の導入
  9.3 多角化
  9.4 戦時・戦後の再編成
  9.5 戦後の発展と多角化の動向
  9.6 国鉄の分割民営化と民営鉄道との競争
  演習問題

第10章 商社
  10.1 幕末開港から第一次世界大戦までの商社
  10.2 総合商社の発達
  10.3 戦間期の商社
  10.4 戦後の再編成と高度成長期の商社
  10.5 総合商社悲観論とそれへの対応
  演習問題

第11章 小売
  11.1 デパートの発展
  11.2 流通主導のチェーンストアの発展
  11.3 メーカー主導のチェーンストア
  11.4 デパート・総合スーパーの苦境とEコマース
  演習問題

第12章 金融
  12.1 近代的金融制度の導入
  12.2 戦間期の金融危機
  12.3 戦時・戦後の金融再編成
  12.4 高度経済成長と金融
  12.5 金融自由化の進展と金融再編
  演習問題

参考文献
索引

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