日本の会計基準 第II巻 激動の時代
日本の会計基準は、どこからやって来て、いまどこにいて、これからどこへ向かおうとしているのか。本書は、日本の会計基準の正体を動的に解明しようとするものである。会計基準は、一定の会計規制の枠組のもとで形成されるものであるから、会計基準のあり方は会計規制の影響を強く受けている。それゆえ、会計基準の動きを捉えるためには、会計規制の構造という静的要素の本質をあきらかにしなければならない。それと同時に、会計基準の変化がいかなる要因によって生じたのかという動的要素をあきらかにする必要がある。会計規制と会計基準の組み合わせからなる会計制度という「場」において、その静的要素と動的要素がいかに登場し、絡み合い、消滅するのかを記述することが、本書の主題である。
この第2巻は、1980年代の半ば以降に始まったディスクロージャーの充実策から、今世紀初頭の会計ビッグバンまでを対象としている。会計制度 (会計規制と会計基準) にとって、まさに激動の時代である。この時代に、会計規制と会計基準をめぐる日本に独特の構図が顕著に現れる。その全体像については、巻末の補章にまとめた。この補章は第1巻から第2巻にわたる議論の「中間取りまとめ」となっている。
日本においては「会計の政治化」は日常茶飯事であり、政治家が会計規制や会計基準について口を出すことは、前世紀までは日常風景であった。それがわかったときの筆者の衝撃はそれなりにおおきかったが、この第2巻で登場する数々の出来事は、もっともっと大がかりな政治的騒動である。対米交渉、不良債権問題、省庁再編などが会計基準の形成に重要な影響をあたえた。この時期の出来事について、会計基準が自然成長的な発展を遂げると理解するひとはほとんどいないであろう。
この第2巻において読者に注目して欲しいのは、「会計規制→会計基準→会計理論」という方向性をもった経路である。すでに第1巻の各所の議論においても、その経路の存在は例示されていたが、もっとも明瞭に観察することができるのは、会計ビッグバンにおいて作成された会計基準である。なかでもわかりやすいのが、減損の会計基準と企業結合の会計基準である。新しい会計基準が、会計理論を変容させたり、新たな理論的発見を生み出したりする。それら2つの会計基準の作成に、筆者はかかわったという原体験をもっている。そのバイアスがあることは承知しているが、会計基準によって会計理論は発展したり、衰退・崩壊したりする。
(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 大日方 隆 / 2023)
本の目次
7 開示情報拡充の時代
8 COFRIの時代――不良債権問題
9 会計ビッグバン
10 会計ビッグバンの会計基準
補章2 歴史に現れた三角関係