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Nathan Road沿い、香港の町並みの写真の表紙

書籍名

広東語初級教材 香港粤語 [基礎語彙]

著者名

吉川 雅之

判型など

240ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2015年5月

ISBN コード

978-4-86398-168-3

出版社

白帝社

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香港粤語

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本書はこの紹介文の執筆者でもある著者が2001年より刊行を続けてきた広東語の教材『香港粤語』シリーズの1冊として、2015年に刊行された。書名が示すとおり本書は語彙集である。初級学習者を主な対象に想定して執筆したもので、基礎語彙1300語の学習を通して、広東語がどの様な言語であるかを実感できる設計になっている。
 
本文の体裁は、細分化されたジャンル毎にページが割り当てられ、毎ページとも左側に10の見出し語「基礎語彙」を掲げ、右側にそれを含む用例「基礎語彙を用いた表現」として複合語や句、短文を配することを基調とする。全ての見出し語と用例には漢字表記・発音表記 (ローマ字)・日本語訳を記し、付属のCD-ROMには広東語を母語とするプロのナレーターによる音声を収録した。また、巻末索引「語彙帳」には、用例にのみ出現する語形も盛り込んであり、それらを含めると2000語以上の学習が可能である。だが、こうした体裁自体は、今日日本で語彙集によく見られるものであり、本書の特色ではない。本書の特色は次の3点にある。
 
一つ目は、発音表記について、『香港粤語』シリーズが一貫して採ってきた方針である、2種類の発音表記法の並記を維持したことである。これは広東語の発音表記法に幾種類もの方式が乱立していることに対応したものであり、より多くの学習者に良質な学習環境を提供するための方策を熟慮した結果である。二つ目は、見出し語として掲げた名詞には可能な限り「量詞」(日本語の類別詞・助数詞に相当) を付記したことである。広東語をはじめとして東アジア大陸部の諸言語では、名詞に対応する量詞が文法面で重要な働きをする。しかし、名詞に対応する量詞を逐一示すという習慣は従来の教材には見られない。本書は初級教材であることを重視し、量詞情報を括弧で括って逐一盛り込んだ。三つ目は、ページ右側に配した用例を、覚えやすいように極力漢字10文字以内の短いものにした点である。市場の稍小さな言語であるとは言え、広東語に接したいと思う動機は様々である。学習者は全ての用例を覚える必要は無く、自己のニーズに沿って学習すればよい。
 
本学教養学部では広東語初級と中級の授業が第三外国語の選択科目として開講されている。履修者の所属は学部前期課程から大学院博士課程までと様々であり、数の上では文系・理系が拮抗している。本書はこの全学向けに開講された授業の参考書としても利用可能なように設計されている。「リベラル・アーツ」という言葉に代表される本学教養学部における教育理念の重責を果たし得るか否かは兎も角として、第一線で活動する研究者が自己の研究成果を教育の場に還元するという試みの体現とはなっていよう。また、市場の稍小さな言語の学習環境を整えるという、著者が取り組んできた課題に対してはその一里程標を為している。本書執筆の経験を生かして中上級教材の開発に繋げることが次の課題である。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 吉川 雅之 / 2016)

本の目次

・序 iii
・凡例 iv
・香港粤語の音韻体系と発音表記法 viii
・文字表記と発音のバリエーション x
・量詞について xii
・本書の構成 xvii
・本文 [数詞・量詞・方位詞] 1~6
[名詞] 7~95
[動詞] 96~113
[形容詞] 114~121
[副詞] 122~127
[その他] 127~132
・語彙帳 ローマ字表記 135~174
・語彙帳 日本語 175~212

関連情報

ちょっと立ち読み:
http://www.hakuteisha.co.jp/books/8-168-3naiyou.pdf

『香港粤語』シリーズも含む本書の著者の著述リスト
http://www.ac.cyberhome.ne.jp/~hongkong-macao/worksTB.html
 
リレーエッセイ「ことば紀行」の第27回。本書の著者による「広東語の広東語たる所以」広東語がどの様な言語かイメージを掴みたい方は併せて一読されたい。
http://www.hakusuisha.co.jp/files/review/2016autumn.pdf
 

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