Dictionnaire du français médiéval
3520ページ、20x27cm、ハードカバー版
フランス語
2015年11月23日
978-2251445540
Les Belles Lettres
2015年にパリのベル・レットル社から単著『中世フランス語辞典』を出版しました。これは中世フランス語を現代フランス語で説明した辞書で、駒場図書館に所蔵されていますので興味をもった方は閲覧なさってください。日本語には1冊本の『古語辞典』は多数出版されていますが、フランスの中世語 (842年から15世紀末までの北フランス語。ただし、イングランド、イタリア、聖地などで書かれたフランス語も含みます) に関する大部な辞書は存在するものの、1冊本の辞書でまともなものは存在せず、私が2007年末に依頼を受けて5年半で仕上げたものがその欠落を埋めるよう目指して作られたものでした。言うまでもなく一人の力で作るには限界がありますから、拙著をご覧になってもっとよい辞書を作るべきだとお考えの方々もいらっしゃるでしょう。その方々にはぜひ拙著に代わる名著を刊行していただきたいと思います。そのための刺激になれば本望です。10巻本のゴドフロワ、11巻本のトブラー・ローマッチ、25巻本のヴァルトブルクといった既存の辞書を活用しつつ、用例は孫引きせずに校訂版にあたり、必要な場合には底本にされた写本を参照して修正を加えつつ、既存の辞書を批判的に活用するように心がけました。幽霊語は可能な限り排除しましたが、逆に、様々な作品や古文書 (いわゆる文学作品だけではなく、医学、天文学その他、多様な分野の文献を対象にしています) を読みながら、従来の研究者が見落としていた単語や用例を収録することもできました。また、単語や表現がある地方に限定されている場合にはその旨を明記するよう心がけましたが、この点は従来の大部の辞書でおろそかにされていた点ですから、浩瀚な辞書に見当たらない情報が拙著に仮説として提示されている場合もあります。仮説の典拠となる雑誌論文なども指示してありますので、読者は必要に応じて論文にさかのぼって仮説を検証することができます。1巻本ですからおのずと収録語数、用例の数には限りがありますが、3500頁、56212項目の拙著が中世フランス語、さらにはフランス語全体に興味を抱く様々な分野の方々に役立てば幸いです。そもそも、なぜフランスなど欧米の人たちではなく僻地の日本人にこの辞書の作成が依頼されたのかといぶかしく思う向きもあるでしょう。実は最初はフランスの私の師匠の一人であるジル・ロック先生 (中世フランス語語彙研究) が担当したのですが、出版社と契約してから10年たっても先生が原稿を出さなかったため、怒った出版社が契約を破棄し、新たに誰かに依頼することを模索したとき、ミシェル・ザンク先生 (中世フランス文学) が周囲を見渡して私を指名したという経緯です。他にいなかったのかと拙著刊行後に尋ねたら、集団でやらせればできる人はいなくはなかったかもしれないが、短期間に一人でできそうな人は他にいなかったと言われました。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 松村 剛 / 2017)
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