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バルザックの自画像

書籍名

Détours littéraires Balzac et la langue sous la direction d'Éric Bordas

著者名

Éric Bordas, Jacques-Philippe Saint-Gérand, Gilles Siouffi, Takeshi Matsumura, etc.

判型など

324ページ

言語

フランス語

発行年月日

2019年

ISBN コード

978-2-84174-922-5

出版社

Éditions Kimé

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

Balzac et la langue

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2019年にパリで出版された本書は、リヨン高等師範学校教授Éric Bordasの編纂になり、19世紀フランスの作家で『人間喜劇』(La Comédie humaine) の作者として有名なバルザックの言語をめぐる15本の論考からなっています。
 
この作家の書いた文章は文法規則を無視しているおぞましいものだと伝統的によく言われてきました。彼を擁護する人たちでさえ、バルザックは執筆に際して大変な苦労をしていたとか、彼はフランス語に通じているがその使い方は独特であると認めざるをえませんでした。本書はそのような評価を再検討し、この作家の言語観はどのようなものだったのかを彼の著作の中に探り、いかなる実践を試みていたかを精査しています。
 
バルザックの言語に対する従来の否定的評価の形成については、クレルモン・フェラン大学、リモージュ大学名誉教授の言語学者 Jacques-Philippe Saint-Gérandの論考が明快な答えを与えてくれます。19世紀末から20世紀初頭の文学者や言語学者たちがいかなるイデオロギーにもとづいてバルザックの言語を評価したか、それがその後の読者や研究者たちの見方にどのような影響を与えたかを彼は明らかにしています。作品への接し方には常に様々な制約が与えられていることがよくわかります。
 
また、ソルボンヌ大学教授の言語史研究者Gilles Siouffiは、18世紀に形成されてきた確固とした静的な体系としての言語をバルザックが作品で使おうとしたのではなく、様々な社会階層や職業や地域差などに起因する用法の違いにもとづいた話し方を登場人物たちそれぞれに与え、言葉の流行も十分に考慮して動的な言語を再現する方向を目指していたことを強調し、この作家の先駆性を言語学史的な観点から再考する可能性を示唆しています。
 
本書に収められた論考の大半は『人間喜劇』を対象にしていますが、筆者はバルザックの『艶笑滑稽譚』(Contes drolatiques) を扱いました。この小話集は、15~16世紀の古い言葉を模倣した文章で綴られていて、作家自身は自分の最高傑作と胸を張って言っていますが、近代フランス語しか知らない読者には難物で、研究も手薄でした。しかし細かく調べてみれば、この作品には多くの貴重な語彙の用例が見つかり、それは『人間喜劇』を理解する手助けにもなりますし、フランス語史の観点からも有益な資料になりえます。その意味では今後さらに研究すべき対象と言えるでしょう。
 
このように、すでに研究し尽くされているように思われる対象であっても、常識を疑い、視点を変え、新たな分野に注目してみれば、思いがけない知見を得られることを本書は示しています。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 松村 剛 / 2020)

本の目次

Éric Bordas, Introduction
Gilles Siouffi, Balzac artisan d’une linguistique barbare
Takayuki Kamada, Le travail de la langue dans les avant-textes de Balzac : le cas de documents « intermédiaires »
Joël Zufferey, La réécriture de La Peau de chagrin : arrêt sur un moment grammatical
Rudolf Mahrer, Dynamique de la phrase balzacienne. Approches textuelle et génétique de la phrase dans La Peau de chagrin (1835-1838)
José-Luis Diaz, Mots nouveaux, mots à la mode : Balzac théoricien et praticien du néologisme
Romain Jalabert, Quand Balzac écrit en vers...
Takeshi Matsumura, Langue drolatique ? Quelques remarques lexicographiques et onomastiques sur Le Péché vesniel
Érik Leborgne, La parole de Gobseck, usurier laconique
Agnese Silvestri, Ce qui se dit par la langue dans Le Cousin Pons
Vincent Bierce, « La Croyance est également une langue » : Balzac et la phraséologie métaphysique
Jacques Dürrenmatt, Flaubert face à Balzac : un problème de déphrasage ?
Jacques-Philippe Saint-Gérand, À Brunot, Bruneau et demi !... Balzac, Madame Honesta et la Doxa
Marie-Christine Aubin, Traduire l’oralité balzacienne : le problème des accents
Takao Kashiwagi, La tentation de la réécriture : traduction et réception de Balzac au Japon

関連情報

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