崩壊国家と国際安全保障 ソマリアにみる新たな国家像の誕生
本書は、ソマリアのあり方を崩壊国家として定義した上で、そこで生起している様々な現象を捉え直し、21世紀における国際関係における多様な主体のあり方と、それらをめぐる国内外の様々な力学を明らかにすることを目的としている。その際に留意したのは、「交渉を通じた国家性の実現」がある程度行われ、比較的自律的な政府の樹立が行われたソマリランドやプントランドといった地域に個別に焦点を当てるのではなく、その前提としてこうした動きがみられるソマリアという国家 (全体) の文脈を加味した議論を行い、各章で扱う問題がきわめて有機的に連関することを確認する必要があるという点である。こうした作業を通じ、ソマリアにおいて生起する諸現象が、その内と外の交錯するきわめて複雑な環境の下で生起していることを確認し、これらの諸現象が現代国際関係の「共時性」に支えられる空間において創出されてきたことを検証する作業をおこなっている。
第I部では、崩壊国家ソマリアの誕生と持続、そして崩壊国家として機能している諸側面に関する議論を展開し、そこから現代国際関係を構成する多様な主体の存在の可能性を改めて導出する作業を行った。そこには本書で区分した「国家」の実現度合いにおいても、「政府」の実現度合いにおいても、きわめて多様な国家のあり方が浮き彫りになったほか、理念型としての主権国家が実現できないいくつかの制約についても、本書で扱ったソマリアに関する事例を下にした確認がなされている。第II部では、北西部ソマリランド、北東部プントランド、そして中・南部におけるイスラーム主義勢力の動向を中心に、それぞれの地域における自生的な統治制度の形成とそこに生じる諸課題を提示した。第III部では、崩壊国家と国際社会の関わりを「海賊」問題とディアスポラという2つの問題領域として検討した。崩壊国家の下で領海管理も不十分となった状況下で、これもまた国際安全保障上の重大な課題となったソマリア沖「海賊」問題について、ソマリアの歴史的文脈を踏まえた観点からこの現象をとらえ直す作業がなされている。
ソマリアは、個別のローカルな地域の域内秩序には部分的に成功してきた面は持っているものの、理念型としての主権国家 (国民国家) に近づく見通しは立っていない。また、ソマリアにおいて、現地の様々な条件を等閑視した形で行われる外部関与型の国家建設の試みは、再び「国家のあり方を交渉する」枠組みに回収され、(期待される) 安定的な国際秩序の形成とは齟齬する、新たな (そして全く意図されていない) ソマリアの自生的な政治秩序や経済利益を実現しようとするダイナミズムを生み出す結果につながるとも予想される。その意味において、崩壊国家のあり方に近い類型の国家は、21世紀における1つの国家の類型として明らかな形で立ち現れているということを考える必要に迫られる段階に来ている可能性を示唆している。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 遠藤 貢 / 2016)
本の目次
第1部 主権国家概念の再考
第1章 「崩壊国家」概念をめぐって
第2部 崩壊国家ソマリアの誕生と展開
第2章 崩壊国家への軌跡 - シアド・バーレ政権期のソマリアを中心として
第3章 崩壊国家ソマリアにおける「紛争」の展開 - シアド・バーレ体制崩壊後の混迷
第4章 機能する崩壊国家ソマリアの課題 - 政府なきガバナンスの実態
第3部 崩壊国家ソマリアの諸相
第5章 国家なき政府 - ソマリランドの形成
第6章 「境界領域」をめぐる政治 - プントランドの形成
第7章 イスラーム主義勢力の興隆 - 中・南部ソマリアを中心に
第4部 崩壊国家ソマリアと国際社会
第8章 「海賊」問題の展開 - 国際的なネットワークの形成
第9章 崩壊国家とディアスポラ - 国家形成への外部関与の一類型
終 章 新たな国家像 - ソマリアの事例からみえてくるもの
関連情報
第2回日本防衛学会猪木正道賞 (正賞)
http://www.imaf.jpn.org/index.php?key=bbajqk4j0-52#_52
書評:
有斐閣 『崩壊国家と国際安全保障 – ソマリアにみる新たな国家像の誕生』
http://www.yuhikaku.co.jp/static/shosai_mado/html/1603/06.html
IDE-JETRO アフリカレポートNo.54 2016年 資料紹介: 崩壊国家と国際安全保障 – ソマリアにみる新たな国家像の誕生 --
http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Periodicals/Africa/2016_10.html