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赤から青系のカラーグラデーションになった表紙

書籍名

New Liberal Arts Selection 国際政治学

著者名

中西 寛、 石田 淳 、田所 昌幸

判型など

492ページ、A5判、並製カバー付

言語

日本語

発行年月日

2013年4月

ISBN コード

978-4-641-05378-6

出版社

有斐閣

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国際政治学

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本書の特色は、類書では別個に論じられがちな外交論 (「第3章 対外政策の選択」) と国際秩序論 (「第4章 国際秩序」) とを、関係主体の同意に着目することによって理論的に架橋している点にある。
 
価値配分の観点から政治をみるならば、政治とは関係者の同意に基づく価値配分として理解できる。利害を異にする二国の間で価値配分の現状をいかに変更するにせよ、同意によらずに戦争によってそれを行うならば、そのような価値配分は不合理である。というのも、戦争は関係両国に人的犠牲、物的破壊、財政支出等をもたらすからである。それならば、何が外交による利害交渉を破綻させ、交渉による解決を頓挫させるのだろうか。
 
平和共存を破壊する不合理な戦争の原因は、関係国間の意図の誤認にある。したがって、この不合理を抜け出すための外交論は、解消するべき意図の誤認の類型によって二分できる。戦争のリスクを軽減するには、第一の抑止論は、現状の一方的変更の試みを断固排除するという威嚇に十分な説得力を確保することが必要であるとする。これに対して、第二の安心供与論は、現状の一方的変更の試みを自制するという約束に十分な説得力を確保することが必要であるとする。
 
本書は、当該国の意図について相手国の認識次第では当該国に利益が生まれる場合には、観察不能な真の意図を、表明された意図から推定できないためその誤認が生じる、ということをゲーム論の分析手法を用いて論じている。ともすれば、一国による個別利益の追求は所期の目的の達成に直結するものではない。なぜなら、そこにはさまざまな「ディレンマ」や「逆説」があるからだが、それらについては本書の索引で逆検索できる。
 
さらに本書は、社会の秩序をその構成員の間において資格基準と行動基準についての同意 (規範の共有) が成立している状態と定義する。まず、国際社会における秩序について、公権力が存在して集権的な国内政治や、分権的な市場経済と比較対照して国際政治をとらえる国内類推論、市場類推論の思考様式を概観する。そのうえで、国際的地平における共存の枠組みの変動と国内的地平における共存の枠組みの変動との交錯を、国際秩序と国内秩序の共振として捉える視座を提供する。とりわけ、いわゆる帝国の解体など、国際社会を構成する国家の統治領域の変更が、特定領域の法的地位をめぐる対立や、当該地域における個人や集団の法的地位をめぐる対立を惹起し、さらに特定領域における自治や個人・集団の権利保障を求める国際的な動きが生じるダイナミクスを二十世紀の歴史を参照しつつ描いている。
 
国際政治学を真に国際的なものとするためには、日本を含む個別国家に固有な歴史経験の理論化こそが必要と考えたうえでのことである。

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 石田 淳 / 2017)

本の目次

はしがき
序章 分析枠組みとしての国際政治学
1章 国際政治学の見取り図
2章 国際政治の歴史的視角
3章 対外政策の選択
4章 国際秩序
5章 安全保障
6章 国際政治経済
7章 越境的世界
 

関連情報

田所昌幸・石田淳・中西寛「鼎談『国際政治学』を語る」『書斎の窓』第629号 (2013年11月)、2-15頁
 

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