東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

うす山吹色の表紙に若草色で分割された枠に書名や出版社名、著者名

書籍名

国際主義との格闘 日本、国際連盟、イギリス帝国

著者名

後藤 春美

判型など

344ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2016年5月25日

ISBN コード

978-4-12-004854-8

出版社

中央公論新社

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国際主義との格闘

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国際主義 (internationalism) とは、ナショナリズムと対になる概念で、異なった国々の協力や相互理解に基づく国際社会を考えることを言う。第一次世界大戦後に設立された国際連盟は、国際主義を基盤とする機関であった。
 
ところが、国際連盟は設立の際の第一の目的であった平和の維持に失敗したため、あまり関心を持たれてこなかった。連盟に関して、日本が満洲事変をきっかけとして脱退した国際組織という以上の認識を持っていない人は多いのではないだろうか。しかし、近年、保健衛生、アヘンなどの麻薬や人身売買の取り締まり、難民の救済、ユネスコにつながる知的国際協力などの社会人道面では連盟がかなりの業績を上げていたことに目が向けられるようになってきた。
 
この側面における連盟の活動は東アジアにまで及んでいた。本書は、国際連盟が保健衛生分野をはじめとする専門的、技術的側面で中華民国の国家建設に協力したことに注目し、このような活動が当時の東アジアの国際関係にどのような影響を及ぼしたかについて検討している。
 
「協力によって東アジアには平和友好の時代が到来した」と書ければ良いのだが、事態はそのようには展開しなかった。第一に、東アジアの状況は第一次世界大戦前とあまり変化してはいなかった。本書第一部で検討するように、日本は、帝国秩序の残存する中で自らの権益を維持拡大することを望み、国際主義の東アジアへの到来、その理想主義的な、現状を変革しようとする動きに反発を強めていった。では、協力を受ける中国は、国際主義を全面的に歓迎していたのであろうか。第二部では、主として国際連盟およびイギリスの外交史料を用いて、国民政府の中には協力が国内への介入につながると危惧する人々も存在したことに光を当てる。
 
第三部では、まず、第二次世界大戦を経て、国際連盟の社会人道面での活動が国際連合、とくにその経済社会理事会に引き継がれていったことを示す。次いでアヘンの取り締まりを事例として、国際機関を生み出し支える側にあったイギリスですら、帝国という側面においては国際主義と格闘せざるを得ず、最終的に帝国秩序は変容を迫られていったことを描く。
 
以上のように、本書では、国際連盟が国際主義を体現するアクターとして、戦間期東アジアで意外にも活発に活動していたことを示す。そしてその活動は、必ずしも平和友好、協調のみをもたらすものではなく、日本、中華民国、イギリス帝国のすべてが対処のため苦闘していたのである。国際連合は連盟期の経験を踏まえ、経済社会的活動を切り分ける構造を採用した。最後に、本書での検討から何か教訓をくみ取るとすれば、国際主義やその担い手が完全無欠ではないからといって、それを全面否定するのではなく、あくまでも国際社会の中に踏みとどまり、全体にとっても自分たちにとってもより良いルールを生み出せるよう、力ではなく言葉を用いて交渉すべきということではないかと考える。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 後藤 春美 / 2016)

本の目次

 序章
 第一章 国際主義と帝国
第一部 国際主義と日本の格闘
 第二章 国際連盟の思惑と中国の引力
 第三章 満洲事変期の連盟、イギリス、日本
 第四章 日本の連盟脱退通告と天羽声明
 第五章 中国にとって連盟とは
第二部 国際主義と介入
 第六章 日中戦争勃発後の連盟と中国
 第七章 ビルマロードとイギリス帝国
第三部 戦後への継承と帝国の変容
 第八章 国際連盟から国際連合へ -- イギリスの演じるべき役割
 第九章 国際社会の要請とアヘン問題 -- 桎梏としての帝国
 終章

関連情報

書評:
西山喬貴 評 (『西洋史学』264巻、p.243-245 2017年)
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/shsww/264/0/_contents/-char/ja

2016年8月28日『読売新聞』12面に掲載
(インターネットでは2016年9月5日付けで下記に掲載)
http://www.yomiuri.co.jp/life/book/review/20160829-OYT8T50030.html
 
2016年11月16日『東京財団』に掲載
http://www.tkfd.or.jp/research/political-review/zl3ayp
 

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