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書籍名

日本のクラスター政策と地域イノベーション

著者名

松原 宏 (編)

判型など

322ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2013年3月27日

ISBN コード

978-4-13-046109-2

出版社

東京大学出版会

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日本のクラスター政策と地域イノベーション

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21世紀に入り、日本の立地・地域政策は大きく転換してきました。地域間の均衡や地方分散に代わって、地域の競争力やイノベーションが重視されてきたのです。2001年からの「産業クラスター計画」(経済産業省) と2002年からの「知的クラスター創成事業」(文部科学省) は、そうした政策転換を具体化するものとして位置づけられ、全国各地で数多くのプロジェクトが進められてきました。しかしながら、2009年の「事業仕分け」により、「知的クラスター創成事業」は廃止と決定され、「産業クラスター計画」も国の予算は投ぜられなくなりました。
 
これに対し、世界に視野を拡げてみますと、クラスターの進化や地域イノベーションの推進を、重要な政策課題としている国や地域は増え続けています。OECDなどが紹介する世界各地の先進的な取組みを知るにつけ、日本でこうした施策をやめてしまってよいのだろうか、こうした疑問が本書刊行の重要な動機になりました。
 
もっとも、日本の政策の混迷は一時的なもので、中・長期的にみれば、産業集積や地域イノベーションを重視する大きな方向性は変わらないとみることもできます。そうであれば、今後の政策を展望するためにも、2000年代初頭の10年間の日本のクラスター政策と地域イノベーションの実態を、詳細かつ多面的に記録しておくことが重要なのでは、と考えました。しかも、クラスターや地域イノベーションは、欧米では最も注目されている研究分野の1つとなっています。そこで本書では、海外の研究成果との国際比較を念頭に置き、日本における産業集積に関する研究蓄積と社会ネットワーク分析などの新しい手法を組み合わせることにも配慮しました。
 
本書の前半では、「知識フロー」に関する膨大な量のデータベースが構築され、それらの社会ネットワーク分析により産学公の主体間関係を可視化する成果が披露されています。こうした計量的な分析に対し、本書の後半では、地域イノベーションの現場でのフィールドワークの成果が収録されています。そこでは、地域の歴史や文化、風土といった地域固有の要因により、また産学官相互の関係と企業間関係、大学内の組織的特徴、自治体間の関係などにより、多様な地域イノベーションの展開が描かれています。
 
このように本書は、社会ネットワーク分析とGIS、政策資料の分析と現地調査を組み合わせ、産学官連携がもたらす知識の地理的流動を可視化し解析するとともに、地域イノベーションシステムの地域差や問題点を明らかにし、今後の政策的課題を提起しています。産業クラスターと地域イノベーションは、産業立地政策や科学技術政策の重点分野にもかかわらず、これまで本格的な学術研究成果は少なく、本書がそうした欠落を埋めるとともに、政策評価に関わる新たな視点や方法を学ぶ上でも参考になればと考えています。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 松原 宏 / 2016)

本の目次

第1章 産業クラスターと地域イノベーションの理論
第2章 知識の地理的循環とイノベーション
第3章 日本のクラスター政策と地域のポテンシャル
第4章 地域イノベーションのネットワーク分析
第5章 クラスター政策の空間構造 - 東北・仙台地域と九州・福岡地域の比較
第6章 産業集積地域におけるネットワーク進化 - 静岡県浜松市の事例
第7章 企業城下町における地域イノベーション - 山口県宇部市の事例
第8章 科学技術型イノベーションの空間 - 長野県カーボンナノチューブと山形県有機ELの研究開発を比較して
第9章 産学官連携の空間的展開 - 筑波研究学園都市の歩み
第10章 日本における地域イノベーション政策
第11章 クラスター・地域イノベーション政策の課題と展望

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