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白い表紙にダイアグラムの図

書籍名

知識と文化の経済地理学

判型など

302ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年1月12日

ISBN コード

9784772252959

出版社

古今書院

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知識と文化の経済地理学

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生産や消費を中心とした「狭義の経済地理学」の枠を飛び越えて、知識や文化といった不可視的で捉えにくい「インタンジブル」なものを対象に、「広義の経済地理学」をめざした本邦初の著作。
 
本書の前半では、多国籍企業のグローバルR&Dの立地や知識フロー、研究開発集積といった国際的にも注目されているテーマを取り上げるとともに、進化論的な技術軌道に関する研究成果と取り入れつつ、日本の工業地域の再編を論じている。知識の経済地理学では、主として知識フローとイノベーションの空間性に関心が寄せられてきた。本書では、知識のグローバル化とR&D集積に関するレビュー論文と実証研究の成果を並べているが、多国籍企業による研究開発とR&D集積地域との関係については未解明な点も多く、グローバルとローカルな知識フローの結合関係の分析などを通じて、全体像に迫っていくことを試みている。
 
技術に関しては、技術移転や技術伝播の空間的側面や地域的特性などに関する研究は以前からあるものの、進化論的な議論をふまえた技術軌道に注目し、そうした考えを経済地理学に導入する試みは始まったばかりといえる。本章では、日本の造船業、鉄道車両工業、米菓産業を取り上げ、それぞれの産業の技術が特定の場所で蓄積され、継承され、波及してきた点を明らかにし、あわせてそれぞれの工業地域の再編を論じている。そこでは技術の動態が、集積、スピンオフ、サプライヤーシステムと関係づけて論じられているが、相互の関連性についての考察を深めるとともに、「技術の経済地理学」として体系的にまとめていくことが課題となる。
 
本書の後半では、広告や映画などの文化芸術産業の地理的集積を分析することを通じて、あるいはまた、祭りやまちづくりなどの文化的事象を、地方創生という政策的な領域を絡ませることで、文化と経済地理との橋渡しを試みている。
 
広告産業の集積については、ロンドンやニューヨークなどの欧米の世界都市での研究成果があり、本書を通じて、東京や上海との国際比較を可能にしている。パブリックアートや映画についても、海外と比較した日本の特性を明らかにする研究が求められるとともに、芸術家や映画関係者の創造性と受け入れ側の地域との関係性についての考察が重要となる。
 
また、都市祝祭、産業遺産の保存・活用、修景まちづくり、オタク商業空間といった多様な文化的事象を取り上げ、それぞれが日本の地方都市の政策的課題とどのように関わっているかを検討した。そこでは、地方都市中心部の衰退や市町村合併に伴う問題など、日本の地方都市がかかえる問題に焦点が当てられているが、これらの事例を「文化政策の経済地理学」として体系化していくことが今後の課題になっている。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 松原 宏 / 2017)

本の目次

序章  知識と文化の経済地理学
 
第I部  知識のグローバル化と集積
第1章  グローバル知識結合と研究開発の地理的集積
第2章  日系電機企業による研究開発の海外展開
第3章  パリ大都市圏における研究開発集積の変容
第4章  ミュンヘンにおけるバイオベンチャー集積の形成
 
第II部  技術軌道と工業地域の再編
第5章  日本の造船業集積の維持メカニズム
第6章  造船業地域におけるスピンオフと技術波及
第7章  鉄道車両工業の技術蓄積とサプライヤーシステム
第8章  米菓産業集積における技術継承と技術革新
 
第III部 文化芸術産業の集積と地理的環境
第9章  東京における広告産業集積の多極化
第10章  上海における広告産業集積の変容
第11章  パブリックアートの拡散と地域の受容
第12章  映画ロケ地の選定とフィルムコミッション
 
第IV部  文化の多様性と地方創生
第13章  地方経済の変化と都市祝祭の存立基盤
第14章  企業文化と近代化産業遺産の保存と活用
第15章  市町村合併と修景まちづくり事業の継承
第16章  オタク商業空間と中心市街地の活性化
 

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