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書籍名

産業集積地域の構造変化と立地政策

著者名

松原 宏 (編)

判型など

388ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年3月28日

ISBN コード

978-4-13-046122-1

出版社

東京大学出版会

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産業集積地域の構造変化と立地政策

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21世紀に入り、これまでの工業等諸機能の地方分散政策から、地域経済の自立と国際競争力のある新産業の創造、産業集積を柱にした政策に重点が移されるようになった。ただし、産業集積政策の内容は、変化を伴うもので、2017年7月末に施行された「地域未来投資促進法」では、産業集積の業種や地域の枠を外すとともに、非製造業を含む、多様な地域経済牽引事業を支援することになった。
 
こうした政策転換の背景には、産業集積が地域の競争力を支えてきた状況に変化が生じてきたことがある。もっとも、産業集積地域と一言で言っても、随分と特徴は異なっており、変化の内容にも違いがみられる。本書の目的は、日本および広域関東圏スケールで、産業集積地域の俯瞰的分析を行い、類型化を行うとともに、それぞれの類型に対応した産業集積地域を選定し、構造変容の実態を詳細に明らかにし、今後の産業集積地域のあり方を考えることにある。
 
本書は、理論篇、マクロ分析篇、地域分析篇、政策篇の4部、14章から成っている。第I部の理論篇では、欧米における古典的な集積論から1980年代以降の「新産業集積論」を経て、新たな進化経済地理学アプローチにいたる主要な理論が紹介され、集積論の系譜を知ることができる。また、産業集積地域の類型化に合わせて、日本の産業集積研究が整理されており、成果と課題を知る上では便利である。
 
第II部のマクロ分析篇では、工業統計表の「工業地区編」や「メッシュデータ」などを使った産業集積の分析手法が披露され、業種別の産業集積地域の分布状況や出荷額などの変化が日本地図で示されている。また、「工場密度」の低下や集積地域が競争力を失ってきている実態が、豊富なデータで明らかにされている。
 
ところで、本書の中心は、100以上の工場訪問によるインタビュー結果をもとにした地域分析篇にある。広域関東圏における産業集積地域として、相模原、東葛・川口、日立、富士、浜松、太田・桐生、長岡、上田・坂城が取り上げられ、地域の特徴や歴史、産業集積地域の構造変容が、統計資料の分析と詳細な現地調査を通じて明らかにされている。各集積地域での構造変容の内容は複雑かつ多様であるが、共通してみられるのは、産業集積地域内での企業間取引の割合が低下する傾向にあり、取引空間が広域化している点である。集積地域の活力を維持・強化する組織にも変化がみられ、大学などとの産学連携による地域イノベーションをいかに実現するかが重要になってきている。
 
最後の第IV部では、「スマートスペシャリゼーション」に代表されるEUの新しい政策が紹介されており、日本の産業集積政策の今日的位置づけや今後の課題を考える上でも重要である。
 
このように本書は、産業集積の理論、実態、政策を一書にまとめたもので、産業集積を学ぼうとする人の良きハンドブックになりうるものといえる。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 松原 宏 / 2018)

本の目次

はしがき
第I部 理論篇
  第1章 集積論の系譜と新産業集積 (松原 宏)
  第2章 日本の産業集積研究の成果と課題 (松原 宏)
 
第II部  マクロ分析篇
  第3章 日本における産業集積地域の概観 (松原 宏)
  第4章 広域関東圏における産業集積地域 (鎌倉夏来・松原 宏)
 
第III部 地域分析篇
  第5章 内陸工業集積:神奈川県相模原市――都市化の進展と産業集積の縮小 (鎌倉夏来・松原 宏)
  第6章 近郊工業都市:東葛・川口地域――県境を越えた集積間連携の試み (鎌倉夏来・松原 宏)
  第7章 企業城下町型集積:茨城県日立地域――中核企業の機能変化と企業間関係の再編 (森嶋俊行)
  第8章 構造不況産業都市:静岡県富士市――支援センターによるフォーラムの始動 (佐藤正志)
  第9章 複合工業地域:静岡県浜松地域――集積構造の転換と地域イノベーション (佐藤正志)
  第10章 北関東産業集積:群馬県太田市・桐生市――ものづくりネットワークの構築 (岡部遊志)
  第11章 機械工業集積:新潟県長岡地域――グローバル化の進展と生産連関の「離陸」 (古川智史)
  第12章 多核型集積地域:長野県上田・坂城地域――立地分散と取引連関の広域化 (古川智史)
  小 括 (松原 宏)
 
第IV部 政策篇
  第13章  EUにおける産業集積政策 (鎌倉夏来・松原 宏)
  第14章 日本における新しい立地政策と産業集積 (松原 宏)
 

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