東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

頭上にドローンが飛ぶ農村のイラスト

書籍名

日本の先進技術と地域の未来

著者名

松原 宏、地下 誠二 (編)

判型など

384ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2022年2月25日

ISBN コード

978-4-13-046136-8

出版社

東京大学出版会

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日本の先進技術と地域の未来

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「先進技術は、地域をどのように変えていくのだろうか?」
 
最近、さまざまな先進技術が地域の現場に導入され、地域が実証実験の場として活用されることが増えている。こうした先進技術の導入は、人口減少や高齢化、既存産業の衰退、条件不利など、地域が抱えるさまざまな課題に、どのような貢献をすることができるのだろうか。個別の実証実験の成果や課題に留まらず、先進技術の導入が、国土や産業の未来をどのように変えていけるのだろうか、というテーマを扱った書籍は、まだあまり見られない。本書は、こうした視点から、複数の執筆者による論考をまとめたものである。
 
本書の第1部のねらいは、冒頭のテーマを考えるにあたり、日本における地域の現状と課題をまずは理解してほしいということである。この部では、東京大学地域未来社会連携研究機構 (以下、機構) の提供する部局横断型「地域未来社会」教育プログラムの講師陣と、日本政策投資銀行の方々により、人口、産業立地、地域活性化、国土構造、ウィズ・コロナをテーマとした日本の将来展望が論じられている。
 
第2部は、機構と日本政策投資銀行地域企画部 (現地域調査部) が、2019年12月から2021年3月まで開催してきた「地域未来産業研究会」がもとになっている。この研究会では、地域の未来に関わるさまざまな先進技術について、東京大学の理工系の先生方からお話を伺い、その可能性について活発な議論が交わされた。各章においては、ご登壇いただいた先生方に、ご自身の専門とする先進技術と、地域の課題解決との関係性について熱く語っていただいている。
 
第3部では、地域の未来を展望するにあたり、日本の地方創生の新局面としてのDXとGXや、ヨーロッパにおける先進技術の受容について述べられている。紹介者は、経済地理学者としてここに登場しているが、担当した第12章の中で掲げた「未来 (先進) 技術は地域間格差の是正に寄与するのか?」という問いは、本書を読み進める中で、ぜひ念頭に置いておいてほしいと考えている。この問いに答えるためのヒントは、本書の各所に散りばめられている。
 
本書は、多くの執筆者にご協力いただき、充実した内容になっているのであるが、各々の学術的な専門は極めて幅広いため、いわゆる「読みやすい本」ではないかもしれない。少しとっつきにくいな、と思った時は、各章の合間に配置されているコラムに目を向けてほしい。このコラムでは、機構の参加部局の先生方が、自身や所属部局における地域に関わる取り組みを紹介している。研究者が地域の現場をいかに捉え、どのような研究活動を展開しているのかを垣間見ることをきかっけに、本書のテーマである「先進技術と地域の未来」について、皆さんにも考えてみてほしい。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 鎌倉 夏来 / 2022)

本の目次

はしがき(松原 宏)
 
第I部 地域社会の現状と課題
 
第1章 地域別将来人口の見通しとその影響(小池司朗)
 1.はじめに
 2.全国人口の推移
  2.1 過去~現在の人口
  2.2 将来の人口
 3.地域別将来人口の見通し
  3.1 「平成30 年地域推計」の枠組み
  3.2 推計結果の概要
 4.年齢構造が動態率に及ぼす影響
  4.1 地域類型別の標準化出生率,標準化死亡率
  4.2 算出結果
  4.3 将来の地域類型別の自然増減率と社会増減率
 5.おわりに
 
・コラム1 将来のものづくり人材の育成(新宅純二郎)
 
第2章 産業立地の動向と地域社会の活力(加藤 讓)
 1.はじめに 
  1.1 産業大分類別にみた産業立地の現状と推移
 2.工場立地にかかる地域の問題
  2.1 工場立地の動向と背景
  2.2 工場立地に伴う雇用創出力
  2.3 地域における製造業の賃金水準
 3.商業,サービス業の立地にかかる地域の問題
  3.1 産業立地による従業者割合の変化
  3.2 サービス業等の就業構造と賃金水準
  3.3 サービス業等の労働需要の増加による地域経済への影響と問題
  3.4 人口減少社会と地方の商業,サービス業の立地にかかる問題
  3.5 人口減少社会における地方のサービス業の生産性
 4.地域の未来に向けた課題
  4.1 地域資源を活用した国内拠点の確立
  4.2 「ライフロング・ラーニング」の推進と評価システムの構築
  4.3 IT 企業等と地方企業のマッチング促進
  4.4 地方発、地域の課題解決の実現
 5.おわりに 
 
・コラム2 釜石での希望学(玄田有史)
 
第3章 多様な地域資源を活用した地域活性化(清水希容子)
 1.はじめに 63
 2.地域に存在する産業と地域資源 64
  2.1 第一次産業(農林水産業など) 
  2.2 第二次産業(製造業,エネルギー産業など) 
  2.3 第三次産業(生活関連サービス、専門的サービスなど)
 3.地域資源の新たな価値と地域活性化
  3.1 ご当地プレートに見る新たな地域資源
  3.2 地域資源の新たな価値と地域活性化の事例
 4.今後の地域資源の維持と魅力向上
  4.1 食の素材を提供する農地と山林
  4.2 アニメファンが求める地元でのふれあい
  4.3 地域に蓄積された技術や技能の継承とイノベーション
  4.4 大学・公設試験研究機関などの学術研究機関における産学連携と試行錯誤
 5.おわりに
 
・コラム3 猫と人間の未来を構想する猫社会学(赤川 学)
 
第4章 国土政策における先進技術の導入(瀬田史彦)
 1.はじめに 
 2.国土政策の変遷と技術の導入 
  2.1 国土政策の課題 
  2.2 国土政策と先進技術 
  2.3 技術の普及と国土政策 
  2.4 これまでの成果と国土政策の帰結
 3.先進技術の利活用・導入による国土・地域への働きかけ
  3.1 現在の国土政策と先進技術の導入
  3.2 国土政策の目標の変化
  3.3 コロナ禍と国土を変容させる技術の導入
  3.4 デジタルとリアルの融合
 4.事例から見る技術の活用
  4.1 都市と農村の融合と新技術
  4.2 リニア開通を想定した首都圏近傍での実証実験
  4.3 マクロ・ミクロの両面からの先進技術の活用
  4.4 実証実験における技術の活用
 5.おわりに 
 
・コラム4 自然を基盤とした解決策──古くて新しいグリーンインフラ(吉田丈人)
 
第5章 ウィズ・コロナにおける地域創生のあり方(地下誠二・足立慎一郎)
 1.はじめに 
 2.地域における従前からの課題 
  2.1 人的資本──人口減少・高齢化,東京圏への人口流出,女性活躍
  2.2 産業資本──地域所得の域外流出、地域発イノベーションの少なさ
  2.3 社会資本──厳しい財政状況、インフラ老朽化
  2.4 地域間の格差
 3.新型コロナが地域にもたらした影響と「履歴効果」
  3.1 新型コロナがもたらした脅威──交流人口の激減、経済状況の悪化、三密の回避
  3.2 新型コロナによって生まれた機会
      ──テレワークの浸透、DX、人々の意識の変化、SDGs に対する意識の高まり
  3.3 新型コロナを契機とした「履歴効果」 
  3.4 交流人口減少やテレワーク移住等の定量的インパクト
  3.5 テレワークを地域創生に活かす際の着眼点1
      ──受入地域毎の強みを活かしたマーケティング戦略
  3.6 テレワークを地域創生に活かす際の着眼点2
      ──働く場所の選択の自由、「物理的距離」の概念の変化
  3.7 テレワークに関する課題・留意点
 4.ウィズ・コロナにおける地域創生へ向けた検討方向性
 5.住民満足度アンケート等に基づく新たな「地域価値指標」について
 6.おわりに
 
・コラム5 国土・都市づくりの人材を育て活かす多様な取組(瀬田史彦)
 
第II部 未来技術と地域
 
第6章 カーボンニュートラルと地域のエネルギー戦略(瀬川浩司)
 1.はじめに──2050 年カーボンニュートラルとは
 2.気候変動への対応──温室効果ガス排出削減に向けた国際的な枠組み
 3.脱炭素化への具体的な道筋──世界で顕著な再生可能エネルギーの導入拡大
 4.日本の一次エネルギー供給とカーボンニュートラル
    ──再生可能エネルギーの現状
 5.地域のエネルギー戦略に関する日本の政策
 6.おわりに──「セクターカップリング」と「技術のベストミックス」
 
・コラム6 地域イノベーションエコシステムの醸成
       ──種子島における地域産業×科学技術×教育の連関(菊池康紀)
 
第7章 情報通信技術と産業のスマート化(中尾彰宏)
 1.はじめに
 2.情報通信の進化と5G 
  2.1 5Gとは
  2.2 5G大容量通信の実証実験 
  2.3 超低遅延性とエッジコンピューティング 
  2.4 超低遅延性を利活用する自動運転と協調運転
 3.ローカル5G
 4.地域創生への適用・一次産業のスマート化 
 5.自治体におけるDX の課題と必要な政策
 6.おわりに──地域創生のDXを成功に導くために 
 
・コラム7 地域林業のスマート化によるビジネス産業化(仁多見俊夫)
 
第8章 IoT・AI・データによる地域課題の解決・地域活性化(越塚 登)
 1.はじめに
 2.なぜ地域活性化・地域課題の解決か?
 3.AI、IoT とは?
 4.IoT・AI・データの利活用事例
  4.1 データ駆動型スマート農業
  4.2 IoT Smart 水産業
  4.3 Smart Logistics、フレイル自動検出
 5.スマートシティ
 6.おわりに──スモールDXのビジネスモデル
 
・コラム8 地域安全システム学(加藤孝明)
 
第9章 人の移動とデジタル空間(関本義秀)
 1.はじめに
 2.人の流動に関する研究の経緯
 3.都市のデジタルツインに向けて
 4.おわりに──三次元的な都市のデジタルツインへ
 
・コラム9 GISとリモートセンシング(小口 高)
 
第10章 ドローン・空飛ぶクルマと地域の未来(鈴木真二)
 1.はじめに 
 2.無人航空機がもたらすイノベーション 
  2.1 ドローンは老人の生活を助ける 
  2.2 ドローンは災害を調査する 
  2.3 COVID-19とドローン 
  2.4 無人飛行機の歴史 
 3.小型無人機の国内制度
  3.1 日本における制度の整備状況
  3.2 ドローン活用のためのロードマップ
  3.3 アメリカでの小型無人機制度
  3.4 日本での自治体の取組
  3.5 無人機の運用に関する技術開発と制度設計
 4.「空飛ぶクルマ」への期待
 5.おわりに──新技術の社会実装の課題
 
・コラム10 ドローンによる地形学(須貝俊彦)
 
第III部 地域の未来の展望
 
第11章 二重のパラダイムシフトをチャンスと捉えた地方創生(坂田一郎)
 1.はじめに
 2.二重のパラダイムシフトの時代
 3.ニューノーマルと2つのパラダイムシフトの複合
 4.パラダイムシフトに対応した新学習地域
 5.おわりに
 
・コラム11 リビングラボ(小泉秀樹)
 
第12章 海外での未来技術と地域の取組(鎌倉夏来
 1.はじめに 311
 2.EUおよびヨーロッパにおけるインダストリー4.0と地域
  2.1 インダストリー4.0への期待と対象範囲の拡大
  2.2 インダストリー4.0関連技術の地理的分布
 3.EU 内におけるインダストリー4.0関連技術の受容
  3.1 先進国内の伝統的な産業地域におけるインダストリー4.0の受容
  3.2 中所得国におけるインダストリー4.0の受容
 4.未来技術は地域間格差の是正に寄与するのか?
 5.おわりに
 
・コラム12 リモートセンシングを用いた農業による環境負荷の軽減(吉野邦彦)
 
終 章 本書の総括(松原 宏・地下誠二)
 1.各章のまとめ
 2.日本における先進技術と地域に関わる政策
  2.1 未来投資戦略0
  2.2 地域におけるSociety 5.0の推進
  2.3 国土交通省による「国土の長期展望」
 3.地域の未来についての考察
 
あとがき(地下誠二)
 

関連情報

東京大学地域未来社会連携研究機構
https://frs.c.u-tokyo.ac.jp/

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