東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

書籍名

Spatiotemporal properties of multiple-color channels in the human visual system (jov July 2016, Vol.16, Issue 9)

著者名

Daisuke Kondo、 Isamu Motoyoshi

判型など

13ページ

言語

英語

発行年月日

2016年7月

出版社

Journal of Vision

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人間は色をどのように知覚しているのでしょうか。多くの研究から、その基本的な仕組みはいくらかわかっています。まず、網膜にある錐体と呼ばれる受容器が映像から赤・緑・青の三原色の成分を取り出します。続いて、これら三つの信号は、網膜の神経細胞などでの情報処理を経て、赤 vs. 緑、青 vs. 黄、の対をなす反対色と呼ばれる信号に変換されます。ここまでの二段階の色の情報処理は古くから知られていて教科書にも載っています。しかし近年、サルの脳の一次視覚野で、この二次元の反対色信号がさらに紫やオレンジといった数多くの「色相」の信号へと細分化されることがわかってきました。例えば、オレンジという特定の色相だけに反応する神経細胞がいるのです。これらは多重色チャンネルと呼ばれています。ところで、一次視覚野は網膜像から形や運動の情報を取り出すことでも有名ですが、多重色チャンネルは形や動きを無視して純粋に色だけを処理しているのでしょうか、それとも色・形・動きを同時にまとめて処理しているのでしょうか。私たちは、この問いに対する洞察を得るため、マスキングという心理物理学の実験手法を用いて、人間の視覚系の色相に対する感受性が形や動きに選択性を示すかどうかを調べました。DKLという色空間のなかで色信号のみで定義された縞パタンを作り、その縞パタンに対する人間の視覚検出感度が様々な色ノイズのもとでどのように変動するかを精密に計測したのです。その結果、特定の色相を選択的に処理する多重色チャンネルは形に対しても同時に選択的だが、動きに対してはほぼ選択性がない、ということがわかりました。これは、多重色チャンネルの多くが、特定の色相と方位をもつ画像成分 (例えばオレンジの縦線) を動きの方向によらず検出し処理していることを示唆しています。これは言い換えると、人間の脳は色相という高次の「色」の情報を「形」とカップリングして処理しているが、その処理は「動き」の処理とはかなり独立していることを意味しています。人間の視覚システムが色・形・運動の情報をこのように組み合わせているのは、複雑な自然界の映像を処理するときに、それが最も効率的だからであると推察されます。もうそうだとすれば、今回の発見は、ますます高精細で大規模になる画像や動画を圧縮し効率的に伝送する技術につながるかもしれません。

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 本吉 勇 / 2016)

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