東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に五角形のマークのパターン

書籍名

市場って何だろう 自立と依存の経済学

著者名

松井 彰彦

判型など

208ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2018年7月5日

ISBN コード

978-4-480-68324-3

出版社

筑摩書房

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市場って何だろう

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人はひとりでは生きられない。自分は一匹狼だと思っている人でも、あるいは引きこもりがちの人も、何かを食べて生きている。その食べ物のほとんどは、いろいろな人が作り、運んだものだ。自給自足を標榜する人ですら、ひとりで家を建て、鍬や鋤を作った人はまずいないであろう。私たちは他の人と関わりあいながら生きているのである。
 
もちろん、そのなかには親と子どもの縁のように切っても切れない関わりあいもあるし、会社の同僚といったもう少し緩いものもあるであろう。いずれも顔の見えるつながりである。
 
逆に顔の見えないつながりもある。現代社会では、私たちは市場を通じて世界中の人とつながっている。あなたが買った靴に使われているゴムはインドネシアで採れたものかもしれない。そのゴムを採集した人はそれとは知らずにあなたとつながっているわけだ。そのゴムを使い作られた靴は米国でも売られ、大統領も履いているかもしれない。
 
顔の見える関係から顔の見えない関係まで、様々なつながりを読み解く学問こそ、経済学だ。つながり方には様々なものがある。力づくで相手から奪う社会、それを防ぎつつ、顔の見えるつながりを中心に据える社会、そして顔の見えないつながりが中心となる社会。そういった社会を考えていきたい。
 
僕が「障害と経済」というプロジェクトに関わっていることもあって、障害問題がそこここで取り上げられている。障害は社会の歪 (ひず) みを映し出す鏡のようなものである。社会に不具合があると、真っ先に被害を被るのが「障害者」と呼ばれる人々だからだ。例えば、大震災のとき、車椅子利用者はエレベータが止まったことによって、移動が健常者以上に困難になってしまった。知的障害者たちは避難所で迷惑がられて避難所を転々とせざるを得なかった。
 
障害者の問題を吟味していくことで、社会の姿が見えてくる。とくに市場の問題を考えるとき、障害者の視点は欠かせないものとなる。本書において障害者が直面する問題がそこここで取り上げられているのもその辺りに理由がある。
 
もちろん、生きづらさや息苦しさを感じているのは障害者だけではないだろう。子供からエリートビジネスパーソンまで何らかの形で社会に自分を合わせて生きる過程で生きづらさ・息苦しさを感じることもあるだろう。
 
その生きづらさ・息苦しさは、もしかしたらあなたに必要な市場が欠けているせいかもしれない。市場の欠如は選択肢の欠如でもあるからだ。
 
さあ、あなたのための市場を探しにいこう。なければ創ればいい。まずはいっしょに探検だ。いざ、市場の旅へ!
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 松井 彰彦 / 2018)

本の目次

第一部  市場とは何だろうか
  第1章  共同体と市場
  第2章  広がる市場――グローバル市場
  第3章  政府も市場のプレイヤー
  第4章  市場の失敗を克服する
  第5章  市場を守る

第二部 みんなのための市場
  第6章  「ふつう」の人のための市場
  第7章  市場は差別を助長するか
  第8章  自立と市場
  第9章  みんなを輝かせる市場
 

関連情報

書評:
市場という発明 熊谷 晋一郎 評 (2018年8月6日 ちくまweb)
http://www.webchikuma.jp/articles/-/1439
 
慶應大教授 経済学者 坂井豊貴 評 (2018年8月19日 読売新聞)