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赤茶色の表紙

書籍名

慣習と規範の経済学 ゲーム理論からのメッセージ

著者名

松井 彰彦

判型など

292ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2002年12月18日

ISBN コード

9784492313176

出版社

東洋経済新報社

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慣習と規範の経済学

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人はひとりでは生きられない。同僚、恋人、取引相手など、多くの人間関係の中で人は生きている。人が集まるところではさまざまなきまりができていく。このなかには、慣習とか規範とか呼ばれているものがある。慣習や規範のなかには、経済問題と切っても切れない関係にあるものもある。年功序列制は一種の日本型慣行であるが、このしくみによって中高年の転職市場が活性化せず、若年層の頭も押さえつけられてしまっている。経済学がその分析の中心的な対象と見なす市場――この場合は労働市場――でも慣習や規範の影響力は大きいのである。
 
理想的な市場では、人々はコストなしに市場にアクセスし、市場価格で売ったり買ったりすることができる。市場理論が想定する市場では、「市場」は需要と供給を一致させるように価格を決めてくれるブラックボックスで、その中身は問わない。各人は市場とのみ直接つながっており、他の人とは市場を介して間接的につながっている。
 
一方、ゲーム理論が想定する市場は少し異なる。ゲーム理論の分析単位は個人と個人の交流というゲームである。この一対一のゲームをベースとして大人数からなる市場社会を考える。市場理論は「市場対個人」がベースであったのに対し、ゲーム理論は「個人対個人」がベースになるというわけである。
 
「個人対個人」を分析のベースとするゲーム理論は、その性質上、人々の選択の結果としての慣習の分析に優れている。あいさつでも、みんながおじぎをすれば自分もおじぎをしたほうがいいし、みんなが握手をするなら自分も手を差し出したほうがよい。
 
このような人間関係の性質に着目し、ゲーム理論の観点から経済慣行や経済規範を捉える理論的枠組を提示したのが本書である。
 
本書は大きく、3部から成る。第I部は均衡理論に則る形で、慣習の分析を行う。そして、市場のいくつかの前提、とくに利潤最大化原理を検証していく。
 
第II部は慣性と自然淘汰や合理性とのせめぎ合いによって生じる慣習の変化を進化ゲーム・社会ゲームの理論で捉える。ここでは限定合理的な人間が経験を通じて、その行動をよりよい方向に調整していくような状況を分析する。
 
第III部は筆者が中心に据えている新しい分野である帰納論的ゲーム理論を扱う。ここでは、客観的な世界のあり方をはじめから知っている人間ではなく、経験をもとに自分の社会像を作りあげていくような人間を想定する。差別や偏見といった問題もここで取り扱う。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 松井 彰彦 / 2018)

本の目次

第1章 序論
 
第I部 合理性と慣習
第2章 くり返しゲームとフォーク定理
第3章 結託の経済効果 (1) 自由参入と結託
第4章 結託の経済効果 (2) 大規模装置産業と競争促進的カルテル
第5章 価格競争と慣習
第6章 企業の目的
 
第II部 進化・社会ゲームの理論
第7章 ナッシュ均衡の解釈
第8章 進化論的安定戦略と動学
第9章 社会とコミュニケーション
第10章 異文化との接触
第11章 グローバリゼーションと均衡選択
第12章 通貨危機と合理的パニック
第13章 合理化可能予見動学
 
第III部 演繹から帰納へ
第14章 意思決定理論
第15章 くり返しゲームと満足化理論
第16章 合理的差別
第17章 帰納論的ゲーム理論--差別と偏見
 

関連情報

受賞:
「第46回 日経・経済図書文化賞」受賞
https://www.jcer.or.jp/bunka/pdf/bunka_list.pdf

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