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ピンクのグラデーションの表紙

書籍名

わかりやすさのための制度設計 ゲーム理論と心理学の融合

著者名

松島 斉

判型など

82ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年3月28日

ISBN コード

9784943852650

出版社

三菱経済研究所

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わかりやすさのための制度設計

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本書は、ゲーム理論に心理学を融合させることによって、新しい社会理論を模索する。ゲーム理論は、プレーヤーを合理的と仮定することで発展した「社会科学のための応用数学」である。しかし、極端に強い合理性を仮定することは、社会の本質を明らかにすることを妨げてしまう。だから、合理性を弱めるなど、アプローチの転換が必要になる。問題は、この転換をどのような方針でおこなうか、である。現実に観察された非合理な行動パターンを、パッチワークのように既存理論に張り付けるだけでは、社会理論の使命を果たせまい。
 
そこで本書は、ゲーム理論が仮定する合理性の中でも特に欠かせない、「仮説的思考」にフォーカスをあてる。仮説的思考とは、観察されていない事象について網羅的に仮説を立てて検証する思考方法のことである。合理的プレーヤーは、「相手の立場に立って考える」ことによって、どの戦略が望ましいかを割り出す。「相手の立場に立って考える」思考は仮説的思考の好例である。だから仮説的思考はゲーム理論に欠かせないのだ。しかし、ゲーム理論が合理性を仮定することに疑問を感じるケースのほとんどは、実際のプレーヤーが仮説的思考を実行できないことに起因している。
 
本書は、仮説的思考を億劫がるプレーヤーの肩をポンと押して、仮説的思考を積極的におこなう動機を提供する方法を模索する。プレーヤーに上手にヒントを与えて正しい推論を導く「心の指南書」をデザインするのである。
 
このような心の指南書は、合理的プレーヤーにとっては不必要だが、限定合理的プレーヤーには必須アイテムになる。心の指南書、つまり、限定合理的プレーヤーのための心理的プロセスを、本書は「フレーム」と呼ぶ。フレームは、心理学用語であるが、本書ではやや異なる意味で使われる。その理由は、複数プレーヤーに共通の指南書を作成しなければならない点にある。フレームをデザインすること自体が、ゲーム理論の新しい問題形式なのだ。
 
筆者は、複雑な資源配分にオークションを適用する可能性について考察を重ねてきた。今日、オークションを単純な売買から、複数財同時配分といった複雑な問題に応用することが、現場レベルで検討されている。また、合理的なゲーム理論によるオークション研究は非常に発展しており、複雑な配分に対しても優れた理論が考案されている。しかし、現場での実施となると、我々はさまざまな現実的困難に直面することになる。実際のプレーヤーが合理的な理論通りに行動してくれないからだ。だから、限定合理的プレーヤーの視点から、理論と実践を地道に開発していかなければならない。
 
このような意味で、本書は、「新しいゲーム理論」のひとつのスタイルを示す。それは、複雑な経済配分が、役人の裁量によって決められるのでなく、優れたルールを開発し、上手に使いこなして解決されるための「メカニズムデザイン・リテラシー」序説である。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 松島 斉 / 2018)

本の目次

第1章  わかりやすさのための制度設計序説
 
1.1  囚人のジレンマ
1.2  仮説的思考
1.3  戦略依存型思考 (Strategy-Dependent Thinking)
1.4  物理的ルールと心理的プロセス
1.5  仮説と観察
1.6  高次元推論 (Higher-Order Reasoning)
1.7  フレームをデザインする
1.8  ニューカムのパラドックス
1.9  わかりやすいオークション・ルール
  1.9.1  せり上げ入札と二位価格入札
  1.9.2  仮説的思考の必要,不必要
  1.9.3  せり上げプロキシ入札
1.10  持続的でない合理性
 
第2章  フレームデザインのゲーム理論
 
2.1  あきらかな優位戦略
2.2  フレームの定式化
2.3  ほぼあきらかな優位戦略
2.4  逐次劣位消去にもとづく限定合理性
2.5  細部から独立なフレームデザイン
2.6  アブルー・松島メカニズム
  2.6.1  社会的選択問題
  2.6.2  アブルー・松島メカニズム
  2.6.3  フレーミング・アブルー・松島メカニズム
2.7  不完備情報への拡張
 
最後に
 
参考文献
 

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