自分で言うのもなんですが、これ、面白いですよ。すべての人にお勧めしたいですね。意外に思われるかもしれませんが、経済学は「まさか」「えっ、ホント?」「目からウロコ!」という気分を存分に味わうことができる学問なんです。
経済というと、「お金儲けの汚れた話には興味がない」「税金だの価格だの、退屈すぎてなるべくなら聞きたくない」と思うと人が多いでしょう。「宇宙の誕生のビッグバン」「遺伝子工学」「最先端のコンピューター」などのカッコいい話題に比べるとどうしようもなく地味~な感じがしますよね。
ところが、一見するととことん地味で、とうていなにか知的好奇心を満たしてくれるようなものが隠れているとは思えないことを深く掘り進んでゆくと、アッと驚くような社会を動かす仕組みが見えてくるのです。
なぜそうなのか? を知るために、ちょっと次のことを考えてみてください。経済を運営するには、誰かがきちんと計画を立てることが必要で、全体がうまく行っているかどうかを確認する司令塔が要るような気がしますよね。司令塔がなくて、みんなが自分勝手にばらばらに好きなことをやったら「めちゃくちゃになる」のは当然だと思いませんか。
ところが! 実際には「司令塔なしで、みんなそれぞれ勝手にやる」やりかたが、何故かうまく働くのです。これが何故か、そしていったいどういう理由でそれがうまく行くのかを、解明してくれるのが経済学なのです。
もう少し知的好奇心をそそる説明をすると、司令塔なしのばらばらな経済の運営 - これを、分権的な意思決定方式と言います - がうまくゆく理由の背後には、ある種の数学的原理が働いているのです。このことを、「経済の予備知識をまったく前提とせず、(必要な数学的な手法も含めて) これだけ読めば必ずわかる」ように書かれたのが、この本なのです。どうです、ちょっと読みたくなってきたと思いませんか。
さらに、数理的な理論と現実の事象が意外にもうまくマッチしていることが十分納得できるような、現実の社会から取った事例をたくさん載せているのも本書の特徴です。「アッと驚くような社会を動かす仕組み」を知ってみたい人、それを知って天下国家を論じてみたい人、また「そんな仕組みあるわけないだろ」と懐疑的な人、すべての人に楽しんで読んでもらえる本になっていると自負しています。
(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 神取 道宏 / 2016)
本の目次
0.1 ミクロ経済学の方法
0.2 事実解明的な問いとミクロ経済学
0.3 規範的な問いとミクロ経済学
第1部 価格理論: 市場メカニズムの特長と問題点
第1章 消費者行動の理論
1.1 合理的行動: 選好と効用関数
1.2 消費者の選好と無差別曲線
1.3 最適消費: 図解による分析
1.4 重要な補論: 数理モデルと現実の関係、およびミクロ経済学の考え方について
1.5 限界分析入門
(a) 限界効用
(b) 消費の微調整と効用の変化
(c) 限界代替率と限界効用の関係
(d) 最適消費の条件
1.6 最適消費の性質
附論 無差別曲線は原点に向かって凸であると考えてよいか
1.7 代替と補完の程度を測る分析道具:補償需要関数
1.8 支出関数
1.9 所得効果と代替効果
(a) 消費の二面性
(b) 価格の上昇による所得の実質的な減少
(c) 価格変化と需要の変化 (スルツキー分解)
1.10 価格弾力性
例題ゼミナール1 効用最大化から需要量を導く
第2章 企業行動の理論
2.1 経済学における企業のとらえ方
2.2 生産要素が一つ (労働) の場合の企業行動
(a) 生産関数
(b) 利潤最大化
(c) 費用関数と供給曲線
(d) 費用曲線の実例
2.3 生産要素が二つ (労働と資本) の場合の企業行動
(a) 規模に対する収穫
(b) 生産要素間の代替と技術的限界代替率
(c) 利潤最大化
(d) 長期の費用関数と供給曲線
2.4 生産要素と生産物がともに多数あってもよい、一般的な場合の企業行動
2.5 利潤と所得分配: なぜ所得格差が生まれるのか
例題ゼミナール2 生産関数と労働者の取り分
第3章 市場均衡
3.1 部分均衡分析
(a) 市場需要と市場供給
(b) 産業の長期均衡
(c) 消費者余剰
(d) 部分均衡分析の応用例
3.2 TPPについて、これだけは知っておこう: TPPとコメの輸入自由化
(1) コメの供給曲線はどうすればわかるのか
(2) 米作農家とはどのような人たちなのか
(3) コメの供給曲線を推計する
(4) 自由化前のコメ市場の均衡
(5) 自由化でコメの値段はどのくらい下がるのか
(6) 自由化でコメの国内生産はどうなるのか
(7) 自由化で得をするのは誰か
(8) コメは自由化すべきか
3.3 一般均衡分析
(a) 経済の全体像を見る: 一般均衡モデル
(b) 労働供給
(c) 一般均衡モデル (つづき)
(d) 超過需要関数の性質
(e) 均衡の存在
(f) 交換経済の分析: エッジュワースの箱
(g) 市場メカニズムの効率性の論証: 厚生経済学の第1基本定理
(h) グローバリズムはなぜ起こるのか?: 市場均衡とコア
(i) 厚生経済学の第2基本定理と効率性のための条件
(j) 厚生経済学の第2基本定理と経済政策
(k) 市場メカニズムの特長とは?: 分権的意思決定と情報・誘因
第4章 市場の失敗
4.1 外部性
(a) 外部不経済下の市場均衡
(b) ピグー税
(c) ピグー補助金
(d) 課税か補助金か?
(e) いくつかのコメント
(f) 交渉による外部性の解決とコースの定理
4.2 公共財
(a) 公共財の最適供給: 部分均衡分析
(b) リンダール均衡
(c) 公共財の最適供給: 一般均衡分析
第5章 独占
5.1 独占企業の行動
5.2 独占の弊害
5.3 自然独占と価格規制
第2部 ゲーム理論と情報の経済学: 経済理論の新しい流れ
イントロダクション: なぜゲーム理論が必要なのか
第6章 同時手番のゲームとナッシュ均衡
6.1 ゲームとは?
6.2 ナッシュ均衡
6.3 ナッシュ均衡が実現する理由
6.4 個人の利益追求と社会全体の利益の関係
6.5 寡占への応用 (I): 数量競争と価格競争
(a) 数量競争 (クールノー・モデル)
(b) 価格競争 (ベルトラン・モデル)
6.6 不確実性と期待効用
6.7 混合戦略均衡とナッシュ均衡の存在
第7章 時間を通じたゲームと戦略の信頼性
7.1 例: 銀行の破綻処理
7.2 部分ゲーム完全均衡
(a) 展開型と時間を通じたゲームの戦略
(b) 部分ゲーム完全均衡とは?
7.3 寡占への応用 (II): タッケルベルク・モデル
7.4 コミットメント
7.5 長期的関係と協調
第8章 保険とモラル・ハザード
8.1 効率的な危険分担と保険の役割
8.2 モラル・ハザードとその対策
第9章 逆淘汰とシグナリング
9.1 逆淘汰とは?
9.2 シグナリングの原理
9.3 労働市場のシグナリング均衡
終章 最後に、社会思想 (イデオロギー) の話をしよう
10.1 社会問題に対する意見の対立の根本にあるもの: 同体の論理 対 市場の論理
(1) 共同体の論理とは
(2) 市場の論理とは
(3) 社会主義の失敗と共同体の論理の限界
(4) 二つの論理の役割
10.2 市場の恩恵を受けるのは誰か: 補償原理と社会正義
補論A 最小限必要な数学の解説
A.1 関数
A.2 直線の傾き
A.3 微分
A.4 多変数の関数の微分
A.5 確認の練習問題
補論B 条件付最大化問題とラグランジュの未定乗数法
B.1 内点解の場合
B.2 内点解でない場合
B.3 凹関数と準凹関数
補論C 補償変分と等価変分: 価格変化が消費者に与える損害や利益を、需要曲線から推定する
C.1 補償変分
C.2 等価変分
C.3 まとめ
補論D 厚生経済学の第2基本定理の証明は難しくない
D.1 まずは、いくつかの準備をしよう
D.2 証明の大筋
D.3 一目でわかる証明の流れ
D.4 細かい注意
D.5 定理の正確な記述
D.6 多数の消費者と生産者がいるなら、厚生経済学の第2基本定理はほぼ成り立つ
附論 補題の証明
経済学でよく使う数理の道具箱
凸集合 22
凹関数と凸関数
凹関数の式による定義
集合の足し算A+B
事例一覧
事例0.1 価格転嫁と常識的議論の問題点
事例1.1 政策評価:老人医療費補助制度の問題点
事例1.2 TPPと農家への所得補償
事例2.1 部品組み立て工場
事例2.2 東北電力の費用曲線
事例2.3 要素価格の国際比較
事例2.4 日本の所得分配
事例3.1 自社ビルでのレストラン経営
事例4.1 ピグー税の実例 ロンドン混雑税
事例4.2 地球温暖化と排出権取引市場
事例4.3 公共財の実例としての街灯
事例5.1 原油価格の高騰と価格転嫁 再考
事例5.2 東北電力の規制価格
事例7.1 リニエンシー制度
事例7.2 新技術の業界標準
事例7.3 二大政党のマニュフェスト
事例7.4 道路交通量の予測
事例7.5 エスカレーターの右空け
事例7.6 サッカーのペナルティ・キック
事例8.1 金融危機と銀行破綻処理
事例8.2 ユーロ危機
事例8.3 ガソリンスタンドの協調
事例9.1 保険における「免責」の役割
事例10.1 MBA
関連情報
2014年10月 日経ヴェリタス
2014年12月 毎日新聞
2014年12月 日本経済新聞
2014年12月 日本経済新聞
2014年12月 週刊ダイヤモンド
2015年01月 週刊ダイヤモンド
2015年02月 美人百花
2015年03月 城西現代政策研究
2015年03月 京都大学新聞
2015年04月 読売新聞 (夕刊)
2015年08月 東京グラフィティ
2016年01月 財界