16歳からのはじめてのゲーム理論 "世の中の意思決定"を解き明かす6.5個の物語
「ゲーム理論」という言葉を聞いたことはありますか?
これは、「人の行動を数式で記述する」という学問です。
といっても、細胞の働きや筋肉の伸縮を数式化するというわけではありません。
ルールや法律、お金に応じて、社会の中で人々がどのように行動を決めていくのか、それを数式で分析するのがゲーム理論なのです。
法律のことは法学部、お金のことは経済学部で勉強しますよね。でも、「数式を使う」というのは理系っぽい。だから、ゲーム理論は、「文系が扱うような事柄を、理系的に考える」学問なのです。
なぜ数式を使うのか?
それは、「社会」というのが複雑だからです。複雑なものを考えるときには、言葉だけで考えるとどうしてもその言葉の解釈次第で結論が変わってしまったりして、議論がうまくできない。だから数式を使って議論を整理しよう、というわけです。
では、「社会」のいったい何が複雑なんでしょうか?
社会には、人がたくさんいます。そのそれぞれの人が、それぞれに意思決定をしています。その意思決定がたくさん集まって、社会がどこに進むのかが決まります。だから、社会で何が起きることを知るためには、各々の人間がどのような意思決定をするかを知りたくなる。でも、各々の人間はどのように意思決定するのでしょうか?
あなたが意思決定をするとき──たとえばテスト勉強をどれくらい頑張るかを決めるとき──に考えなければいけないのは、他の学生がどのような意思決定をするか、つまりどれくらい勉強するか、です (とりあえず、あなたも他の学生もいい成績をとるために勉強をするが、勉強はあまりしたくない。そして成績は相対評価である、と仮定しましょう)。あなたとしては、他の学生がたくさん勉強するなら自分もたくさん勉強しておきたいし、他の学生があまり勉強しないなら自分もあまり勉強したくない。つまり、あなたがどのような意思決定をすべきかは、他の学生の意思決定に依存するのです。そしてよく考えると、その「他の学生」がどのような意思決定をすべきかも、あなたを含むその他の学生の意思決定に依存している。だからあなたは、他の学生があなたがどれくらい勉強するかについてどう考えるかについて、考えてやらなければいけないわけです。もちろんここで話は終わりません。あなたは、他の学生があなたが他の学生についてどう考えるかについてどう考えるかについて、考えてやらなければいけない…。これがこの「学生社会」の複雑性です。そしてこのような複雑性は、意思決定者が複数存在するどんな社会にもあります。複数の企業が競合する市場、複数の政党のある政治、などなど。このような込み入った話を、数式を使って一挙分析するのが、ゲーム理論なのです。
さて、「数式を使う」などというと、それだけで嫌気がさす人は多いのではないでしょうか。
「数学が嫌いだから文系にしたのに」
という人もいるかもしれません。
「数学などという苦痛を強いずに、社会のことを教えてくれ」
「ゲーム理論で学べることが面白そうだと分からないと、その数学とやらを勉強する気にならない」
「数学はいいから、とりあえずゲーム理論のエッセンスだけを学べないか」
などと言う人は、多いのではないでしょうか。
そんな (もっともな) 意見を持つあなたに、朗報です。この『16歳からのはじめてのゲーム理論』では、数式を一切使わず、ゲーム理論のエッセンスをお届けします。物語形式にしてあるので、堅苦しくなく楽しく学べますよ。イラストレーターの光用千春さんのかわいらしいネズミの絵と一緒に、お楽しみください。
(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 グローバル・フェロー 鎌田 雄一郎 / 2021)
本の目次
プロローグ
第1章 どうやって、皆の意見をくみ取るか T家の場合
全会一致
確率の話
集会所
皆の意見をくみ取る木箱
賛成、賛成、それから賛成
私の票は、いつ関係あるか
19票の持つ情報
Fさんみたいに考えてみる
計算は合っている
バック・ステージ その1
第2章 なぜ人は、話し合うのか H家の場合
同じ意見
最初はうまくいっていた
オーディション
王様の試験
東の賢者と西の賢者
自分のものではない
五分五分で一致
『なぜ』を共有する時間
よく話し合って
バック・ステージ その2
第3章 相手がどうするかを、読む Eケーキの場合
チーズケーキ
相手の店を、意識する
売れども売れども
ちょっとくらい高くたって
やっぱり2店とも
共倒れ?
値下げしない、と思っている
もし値下げしたらどうなるか
ルール違反
ちょうど半分ほど
バック・ステージ その3
第3.5章 ナップ・タイム
バック・ステージ その3.5
第4章 物事のバランスの決まり方 O交番の場合
夕方の交番
スピード違反
ネズミ捕り
100軒の家と、フラフラネズミ
ちょうどいい数
ランダムに取り締まり
善良な市民は見逃す?
高速で走り抜けた車
猫にご注意
バック・ステージ その4
第5章 沈黙が伝えることとは? R家の場合
通知表
成績次第
食卓に届くか、届かないか
沈黙は金なり?
『もし』を考える
頭の中の、頭の中
穴?
評点が10かどうか
まだ話の続きがある
全体としては、納得いかない
無言
通知表を見せる時
バック・ステージ その5
第6章 相手の行動を見て、考える Y家の場合
待てど暮らせど
気まぐれ
何か理由があった
そんな簡単なこと
人が何かするのには、理由がある
つと動き出す
よく考えなきゃいけないのは私の方
自分のことを傍から見てみる
世の中、簡単でも複雑でもない
バック・ステージ その6
エピローグ
これから ~もう一歩進んで勉強したいあなたへ~
おわりに
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著者インタビュー:
経営者が知るべきゲーム理論 気鋭の経済学者が語る「コロナ禍の行動」と「部下の育成法」 (ITmediaビジネスオンライン 2020年9月10日)
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2009/10/news084.html
大データ活用時代に「ゲーム理論」が必要な理由 (ZUU online 2020年9月8日)
https://zuuonline.com/archives/220895
今週の本棚・著者に聞く 鎌田雄一郎さん 『16歳からのはじめてのゲーム理論』 (毎日新聞 2020年9月5日)
https://mainichi.jp/articles/20200905/ddm/015/070/021000c
関連記事:
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書評:
【BookReview】『16歳からのはじめてのゲーム理論』鎌田雄一郎 (共明塾ブログ 2020年9月6日)
https://www.kyomei-kids.com/blog_detail?actual_object_id=7757
行動のウラにはワケがある 16歳から学ぶ「ゲーム理論」 (日本経済新聞 2020年8月29日)
https://style.nikkei.com/article/DGXKZO63164610Y0A820C2MY5000/
大竹文雄 評「人の思いを理解して論理的に考える」 (毎日新聞 2020年8月22日)
https://mainichi.jp/articles/20200822/ddm/015/070/019000c
書籍紹介:
目利きが選んだ「3冊」はこれだ! 回顧2020 サイエンス作家 竹内薫 (日本経済新聞 2020年12月26日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFG027370S0A201C2000000/
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67687110V21C20A2MY5000/
鎌田雄一郎「16歳からのはじめてのゲーム理論」 物語通じてエッセンス伝える (朝日新聞 2020年9月5日)
https://book.asahi.com/article/13704535
鎌田雄一郎『16歳からのはじめてのゲーム理論』ダイヤモンド社 (経済研究ネットワーク 2020年8月30日)
https://econ-edu.net/2020/08/30/3007/
イベント:
ダイヤモンド社「The Salon」『16歳からのはじめてのゲーム理論』 刊行記念セミナー (ダイヤモンド社 2020年8月19日)
https://thesalon20200819.peatix.com/?lang=ja