有斐閣アルマ マクロ経済学・入門 第5版
1996年に初版を出版して以降の本書における一貫したテーマは、「一見難しそうなマクロ経済の問題を、日本の読者が自分なりに理解できるようになること」である。このため、本書では、日本経済で何が起こってきたのかを理解しながら、マクロ経済学を勉強するというスタンスをとっている。標準的な理論を勉強するだけでも、日本経済が抱えるマクロ経済の諸問題はかなり理解できるものである。本書では、抽象的な議論や数式の展開を極力避け、マクロ経済理論を直感的に理解するという方法を通じて、日本経済が直面するマクロ経済学の問題を勉強するというスタイルで書き進められている。
海外でも、本書と似たスタイルのテキストは少なからず存在する。しかし、わが国では、海外のテキストの内容を中心にまとめたものが大半であったため、日本経済が抱えるマクロ経済の諸問題を理解するための議論が十分でないテキストが従来は大半であった。本書は、日本経済の抱えるマクロ経済の諸問題を日本の読者が理解するために何を理解しなければならないかという問題意識のもとに、海外のテキストでは議論されることが稀な日本固有のマクロ経済の問題を数多く取り扱っている。
早いもので、本書の初版が刊行されてから20年以上が経った。その間の日本経済はまさに激動の時代であった。かつての日本経済は、世界でも突出した目覚しい成長を達成した。しかし、1990年代初頭にバブル経済が崩壊すると、成長の鈍化が顕著となり、好循環の流れは一変した。成長率はそれまでとは対照的に先進国主要国のなかで際立って低い水準にまで落ち込み、日本経済は「失われた20年」と称される長期停滞を経験することとなった。経済の成熟化や労働人口の減少を鑑みれば、高度成長期のような高い成長を実現することはもはや不可能であることはいうまでもない。ただ、結果的にデフレが20年近く続いた日本の状況は、経済の成熟化や労働人口の減少を考慮しても異常であったといえる。
経済学は、比較的新しい学問である。産業革命が起こる19世紀初めまでは、世界経済の成長は非常に限られたものであった。しかし、産業革命後、生産性は飛躍的に増大し、社会は次第に「豊かさ」を求める社会へと変容していく。その過程で経済活動も多様化・複雑化し、それを理解するためにより進んだ経済学の知識が必要とされるようになっていった。経済が成長する過程では、景気循環をどう考えるかも重要なテーマとなった。産業革命後に生産性が急増したといっても、世界経済が常に順風満帆に成長を続けたわけではなかったからである。成長が低迷する不景気 (不況) 期には、失業が増加し、働きたいのに働けない労働者も生まれるなど、経済にはさまざまな非効率も発生した。本書で取り扱う「マクロ経済学」は、そうしたなかで学問体系を発展させていった。本書を読むことで、そのような「マクロ経済学」の面白さを少しでも学んでいただければ幸甚である。
(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 福田 慎一 / 2017)
本の目次
第2章 消費と貯蓄はどのようにして決まるか?
第3章 設備投資と在庫投資
第4章 金融と株価
第5章 貨幣の需要と供給
第6章 乗数理論とIS-LM分析
第7章 経済政策はなぜ必要か?
第8章 財政赤字と国債
第9章 インフレとデフレ
第10章 失業
第11章 経済成長理論
第12章 オープン・マクロ経済