東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に空から見た町のイラスト

書籍名

知られざる地下街 歴史・魅力・防災、ちかあるきのススメ

著者名

廣井 悠、 地下街減災研究会

判型など

172ページ、A5判、単行本

言語

日本語

発行年月日

2018年3月12日

ISBN コード

978-4-309-22728-3

出版社

河出書房新社

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知られざる地下街

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本書は、通勤・通学・飲食・憩いなど様々な用途で多くの人が絶え間なく利用する、地下の「まち」を考察したものである。現在、わが国には約80箇所の地下街があり、そのほとんどが鉄道駅を中心として地下へ広がる構造を有している。なかでも、大都市部である東京・名古屋・大阪の主要駅には巨大な地下空間ネットワークが広がり、利用者が1日あたり10万人以上となる地下街も多数存在する。一般に、地下街は「道路下型地下街」と「駅前広場型地下街」の2種類に分類されるが、特に前者の場合は通路部分に道路法が適用され、地上の道路と同じ幅になるなど「道路」と同じ扱いとなっている。一般的な商業施設等の通路と異なり、地下街の通路に看板やワゴンなどが置いていないのも、この道路法により規制されているためである。
 
さて本書は、「減災」を切り口として地下街に特化した日本国内ではじめての書籍であるが、必ずしも安全性の向上のみを目指して書かれたものではない。そもそも人類は、トルコのカッパドキアや古代ローマやパリのカタコンベ、日本の穴倉をはじめとして、温度変化が少ないといった恒温性、濡れないといった耐候性のみならず、火山や火災などの災害から資産を守るための空間として、また衛生や混雑といった都市問題を解決するための一助として、地下空間をこれまで利用してきた。わが国の地下街は、地下鉄とともに作られた地下道に付随する形で1930年に整備された上野駅の「地下鉄ストア」がそのはじまりといわれている。このため厳密には、地下鉄以外の収入源確保を目指した経営多角化がその端緒と位置づけられるが、その後、高度経済成長期に急増した自動車と歩行者による道路交通の輻輳を緩和させる目的で、あるいは大都市中心部における地下駐車場のニーズ対応のため、道路や駅前広場の地下に次々と公共用通路と店舗が一体的に整備された。そのためわが国の地下街は整備から40年を迎えるものがほとんどであり、その一部は設備の老朽化などが進んでいる。その一方で大都市ターミナル駅周辺では、大深度法の施行やリニア鉄道の整備もあいまって、多数の管理者のもとで今後ますます大規模な空間が広がりつつあり、これらの地下空間では迷路性に伴い浸水、火災、煙、津波などからの避難もとりわけ困難と考えられる。つまり都市問題を解決し、また災害から資産を守る目的で利用されはじめた地下空間が、現在はその一部で様々な防災上の課題を有した空間となっているという事実がある。
 
ところで、先述した耐候性や地上道路交通の錯綜軽減というメリットのみならず、地下街は勾配が緩やかであり、また自動車を気にしないで歩くことのできる空間である。その他にも、賑わい空間と回遊性の確保、地上土地空間の景観向上、連続的歩行ネットワークによる接続建物の価値向上といった多種多様な魅力を有した都市の資産でもある。大都市中心部のターミナル駅では数多くの利用者が地下空間を通じて出勤し、また帰宅につくことからも、地下街は都市におけるあらゆる活動の起終点と言うことができる。近年はその迷路性を生かし、夜間に脱出ゲームなどのユニークなイベントも行われており、地域の再生やまちの価値向上を目的とした都市再構築のきっかけとなる公共空間のひとつが地下街といっても過言ではない。ただし、このような連続的歩行ネットワークは接続建物の価値を向上させ、都心周辺の開発を促す結果となるが、同時に非常時に迅速な避難を困難とする要因となる可能性もある。このため地下街では近年、これらの魅力や長所、位置づけを踏まえながら、ICTなどの最先端技術を駆使して、災害に対する備えをすすめることで、魅力的かつ災害に強い地下街へと生まれ変わろうとしている。
 
本書「知られざる地下街」を通じて、大都市中心部の将来展望を考察し、ひいては安全と魅力を同時に追求する空間のあり方を考えるきっかけとしていただければと思う。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 准教授 廣井 悠 / 2018)

本の目次

第1章  日本の地下街、意外な常識
第2章  地下街の歴史
第3章  災害から地下街を守る、日本の進化する技術
第4章  地下街のこれから
 

関連情報

書籍紹介:
書籍協力「知られざる地下街 歴史・魅力・防災、ちかあるきのススメ」 (八重洲地下街 2018年3月20日)
http://www.yaechika.com/?p=12355
 
書籍協力「知られざる地下街」出版のお知らせ (MULTISOUP 2018年3月30日)
https://maps.multisoup.co.jp/blog/2877/
 
エキマチぐるりと地下散歩 (東京エキマチ 2018年6月10日号)
http://www.tokyostationcity.com/tokyoekimachi/feature/vol19/2302.html
 

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