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白い表紙に葉から水がしたたる写真

書籍名

東大塾シリーズ 水システム講義 持続可能な水利用に向けて

判型など

312ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年1月26日

ISBN コード

978-4-13-063361-1

出版社

東京大学出版会

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水システム講義

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本書は、平成27年に社会人向けに開講されたグレーター東大塾「持続可能な社会のための水システムイノベーション」の講義内容と質疑を取りまとめたものです。地球の水循環から身近な水環境までを対象とした水の問題とその問題解決に必要な基礎的な科学的な知見とともに、最新の研究成果を紹介しています。水利用という視点から持続可能な社会を支える水の管理と水システムのあり方を議論するために必要な知識や情報が最低限網羅されています。
 
水は、国民の生命・健康及び経済活動の基礎となる最も重要な資源の一つです。我が国では、戦後の産業発展、都市人口の急激な増加と集中及び生活水準の向上を背景として、大都市圏を中心に、深刻かつ慢性的な水不足に直面しました。そして、水資源、水処理・水供給、汚水処理・再生のための施設整備を急速に進めてきたことから、これらの水インフラの急速な老朽化の課題に直面しています。また、気候変動に伴う渇水の頻発や集中豪雨の増加、さらには東日本大震災において経験した長期の断水や衛生問題を契機に、様々な水のリスクに対して全ての国民が安心して安全な水の恵みを享受できる対応を予め整えておくことの重要性も強く認識されてきています。
 
さらに、おいしい水や豊かな水環境に対する国民からの要請も高まり、健全な水循環系の確保の必要性が強く認識されています。そのような背景から、水循環に関する施策を総合的かつ一体的に推進し、我が国の経済社会の健全な発展及び国民生活の安定向上に寄与することを目的とした平成26年に水循環基本法も施行されました。そして、水循環基本計画の策定が推進されています。これらの水を取り巻く状況を勘案し、安全で良質な水資源の確保と持続可能な水利用システムのあり方が改めて問われているわけです。
 
また、世界に目を向ければ、「水」は大きな問題として取り上げられています。国連開発目標として2000年にMillennium Development Goalsが、2015年にはSustainable Development Goalsが採択されていますが、それらの中で「水」は重要なキーワードです。また、地球温暖化に伴う気候変動ゆえに地域によっては水の水不足に対する懸念も広がっています。
 
以上を踏まえると、水問題を俯瞰的に捉えること、問題の特質を地球レベルとともに地域レベルでも理解すること、そして、将来の持続的な水利用のためのシステムを構築することが期待されています。しかし、それは容易なことではありません。したがって、さまざまな水分野の関係者間でそれぞれが有する知識や知見さらには情報を交換して、目指すべき方向性、目標を共有することが非常に重要となってきています。是非、幅広い方々に水についてより深く知っていただき、様々な水に関わるリスクの存在や水事業に関する課題を認識していただければと思います。そして、本書の副題である「持続可能な水利用に向けて」、皆さんにいろいろと考えていただけることを願っています。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 古米 弘明 / 2018)

本の目次

I 水問題と水の科学
  第1講 水の特性から水問題まで (古米弘明)
  第2講 水資源の管理と地下水・地下環境 (徳永朋祥)
  第3講 世界の水問題・水ビジネス (沖 大幹)
  第4講 森林は緑のダム (恩田裕一)
  第5講 水資源環境の持続的利用と生態系の保全 (山室真澄)
  第6講 水と衛生,水のリスク (片山浩之)
II 水利用システムと水事業
  第7講 安全な水――安全な水供給 (滝沢 智)
  第8講 再利用――水の再利用 (田中宏明)
  第9講 上下水道――上下水道の経営システム (佐藤裕弥)
  第10講 雨水管理――雨水管理のスマート化 (古米弘明)
 

関連情報

書評:
大垣眞一郎 評:【東大塾】水システム講義 (『水利科学』No.356 2017年8月)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/suirikagaku/61/3/61_153/_pdf/-char/ja
 

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