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エンドレスエイトの文字デザインとハルヒのイラスト

書籍名

エンドレスエイトの驚愕 ハルヒ@人間原理を考える

著者名

三浦 俊彦

判型など

424ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2018年1月

ISBN コード

978-4-393-33360-0

出版社

春秋社

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「人間原理」という科学方法論の芸術学的応用を模索してきた私にとって、人間原理を下敷きにしたライトノベルSF『涼宮ハルヒシリーズ』は、気になる作品でした。しかも『ハルヒ』のアニメ版は、オタク文化史上最悪とも言える事件を起こしていました。「エンドレスエイト」という同一のエピソードを、ほぼ同じセリフ・同じ展開で、8週繰り返し放送したのです。夏休みの時間ループを忠実に描くという実験的試みでしたが、反復回数が予告されなかったこともあり、ファンは困惑し、ネット実況板は炎上し、視聴率も急落しました。
 
たしかにエンタテイメントとしては非常識でしたが、アニメ全体のクオリティに照らすと、当該8回分だけ失敗作と切り捨てるのは躊躇されます。そこで私は「エンドレスエイト」再評価の道を探るべく、専門とする分析哲学の流儀で考察に取り組みました。
 
物語展開を故意に妨げる演出だったので、モダニズムアート的な「細部の表現」を評価できないか。あるいは、視聴者の反応を含めた「ミニマルアート」や「参加型プロジェクト」として有意義かも。……次々とカテゴリ変換を試みたあげく、各カテゴリの規範そのものを問い直す芸術、すなわち「コンセプチュアルアート」という見立てが最も有望と思われました。作品原物をあえて見ずとも、伝聞によって理屈を把握すれば鑑賞完遂――そういった種類の、意識高い系のメタ芸術。そう、デュシャンのあの便器の仲間というわけです。
 
実際、コンセプチュアルアート視を催促する手掛かりが作品のあちこちに見つかりました。ループ日数がジョン・ケージの音楽の演奏時間をなぞっていたり、キャラクターが自作映画のジャンルを
操作したり。しかしそうした証拠固めのためには、当然ながら作品をよく見て、物語と表現を味わい直さねばなりません。こうして私は、物語→表現→プロジェクト→コンセプト→物語→……というカテゴリループに巻き込まれました。とくに、長門有希という無機的ヒューマノイドが人間的感情に目覚めてゆく有様には「普通の物語アニメへ戻して!」と叱責されたように感じ、『ハルヒ』の鮮烈な自己言及ループ属性に鳥肌が立ったほどです。
 
物語外のカテゴリループは物語内の時間ループと共振し、ループへの解釈を煽り、諸解釈のループを生み出しました。なぜバタフライ効果のない単調な反復になったのか。なぜ長門はシークエンス回数を数え間違えたか。人間原理や諸々の形而上学説を駆使して、謎の多くを解き明かし、関係づけることができたと自負しています。
 
本書の究極の目標は、第10章で粗描した「人間原理芸術学」でした。自意識過剰な前衛演出が古典的萌えアニメに新たな生命を吹き込む顛末を辿った本書は、メタ芸術の歴史的意義を人間原理視点で書き換える大構想の第一歩です。『ハルヒ』の制作陣が登場人物たちとともに抱いたシニカルな誇大妄想こそ、我が芸術学研究のお手本であり続けるでしょう。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 三浦 俊彦 / 2018)

本の目次

まえがき  …………ただの芸術論には興味ありません
第1章  エンドレスエイトの驚愕 (前)  「なにこれ!」
第2章  エンドレスエイトの憂鬱  「やりきれんな……」
第3章  エンドレスエイトの溜息  「やれやれ……」
第4章  エンドレスエイトの退屈  「いいかげんにもう……」
第5章  エンドレスエイトの消失  「どうしてこんなことに……」
第6章  エンドレスエイトの暴走  「やりすぎでしょ……」
第7章  エンドレスエイトの動揺  「いや、まだまだでしょ……」
第8章  エンドレスエイトの陰謀  「この手でどうだ……?」
第9章  エンドレスエイトの憤慨  「その手にのるか!」
第10章  エンドレスエイトの分裂  「それだけじゃないだろ?」
第11章  エンドレスエイトの驚愕 (後)  「まさかこれほどとは!」
あとがき  …………エンドレスエイトの秘話
参考文献索引
 

関連情報

著者インタビュー:
トカナ 全3回  (稲田豊史)
http://tocana.jp/2018/04/post_16508_entry.html
http://tocana.jp/2018/04/post_16522_entry.html
http://tocana.jp/2018/04/post_16547_entry.html
 
鼎談:
ゲンロンカフェ
「『エンドレスエイトの驚愕』の驚愕」 2018/05/29 (坂上秋成 × 三浦俊彦 × 村上裕一)
https://genron-cafe.jp/event/20180529/
当日のスライド資料
http://green.ap.teacup.com/miurat/html/5.29.pdf
 
書評:
ヌートン  新たな情報未発見メディア (ダ・ヴィンチ・恐山)
https://nuwton.com/comic/25846/
 
Book News|ブックニュース (永田 希)
http://blog.livedoor.jp/book_news/archives/52941737.html
 
図書新聞  2018年5月19日 (小池隆太)
 
koratta4545
https://koratta4545.hatenablog.com/entry/2018/06/26/054005
 
節、小見出し入りの詳細な目次:
http://green.ap.teacup.com/miurat/html/haruhid.pdf
 
参考文献表:
http://green.ap.teacup.com/miurat/html/bunken.pdf
 

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