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書籍名

少子化問題の社会学

著者名

赤川 学

判型など

176ページ、四六判、上製

言語

日本語

発行年月日

2018年2月

ISBN コード

978-4-335-55190-1

出版社

弘文堂

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少子化問題の社会学

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本書は、社会問題の構築主義の立場から、少子化問題を分析したものです。
 
社会問題の構築主義とは、社会問題は人々のクレイム申し立て活動によって構築されると捉え、これを経験的手法に基づいて研究する社会学の手法の一つです。日本の命運を左右する深刻な社会問題とされる「少子化」は、この分析に適したテーマでした。
 
少子化が、日本ではじめて社会問題として登場したのは、合計特殊出生率(女性が一生の間に生む子ども数の平均)が当時過去最低の1.57と判明した1990年のことです。これ以降、少子化に歯止めをかけるため、さまざまな少子化対策が実施されましたが、2017年の合計特殊出生率は1.43。少子化対策は効果を上げているとは言い難い状況です。
 
なぜ日本の少子化対策は失敗し続けてきたのか。これを解くためには、少子化の原因がどのようなものと考えられ、そのためにどういう政策が必要とされ、その効果はどう検証されてきたかを検証する必要があります。そうした問題意識に基づき、本書では、以下のことが判明しました。
 
第一に、日本の少子化問題には、「言ってはいけない」タブーが存在します。たとえば日本や他の出生率が低い国では、女性が自分よりも学歴が低い人と結婚する「学歴下降婚」の割合が少ないことです。また国際的には、社会の格差を表すジニ係数が高くなると、翌年の出生率が高くなる傾向があります。さらに日本に限ると、保育サービスの公的支出の増減は出生率と関連しない傾向があります。これらの事実は、これまであまり指摘されてきませんでした。
 
第二に、なぜ、このような事態が生じたのか。それは日本社会における少子化の「論じ方」そのものに原因があるからと考えられます。たとえば日本の少子化言説では少子化のデメリットだけが論じられ、そのメリットが無視されてきました。また少子化対策の切り札として、仕事と子育ての両立困難を解消する男女共同参画やワーク・ライフ・バランスなどの福祉政策が中心を占めた結果、それ以外の政策可能性が狭められました。
 
第三に、歴史的な因果関係をある程度確定できる過程分析を構築主義の歴史分析の手法として導入しました。これに基づくと、仕事と子育ての両立支援や子育ての経済的支援よりも、雇用と収入の安定を目指した政策が実施された翌年には、少子化対策に効果が現れることが確認されました。
 
本書は一般向けの書物ですが、構築主義の方法論は少子化問題に十分応用でき、様々な知見を生み出しうることが確認できました。筆者が少子化問題について書物(単著)を刊行するのはこれが3回目ですが、自分のなかでも、ようやく「少子化問題の社会学」を思う存分、遂行できたと満足感を得られた1冊です。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 赤川 学 / 2018)

本の目次

第1章  少子化問題の「言ってはいけない」
第2章  少子化対策はなぜ失敗するのか
第3章  誰がどんな少子化対策を支持するのか
第4章  社会問題の歴史社会学をめざして
第5章  構築された性から構築する性へ
 

関連情報

書評:
材木和雄 (広島大学教授) 評 (『図書新聞』 2019年9月15日号)
http://www.toshoshimbun.com/books_newspaper/index.php
 

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