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ブルーグリーンの表紙

書籍名

西洋美術の歴史1 古代 ギリシアとローマ、美の曙光

著者名

芳賀 京子、 芳賀 満

判型など

632ページ、B6判

言語

日本語

発行年月日

2017年1月31日

ISBN コード

978-4-12-403591-9

出版社

中央公論新社

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西洋美術の歴史1 古代

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ギリシア・ローマ美術と聞いて、まず思い浮かぶのは「古代ギリシアの理想の美」という感動的な謳い文句だろうか、それとも「西洋美術の源流」といったような伝統的な評価だろうか。もちろんどちらの見方も誤りではないのだが、それでは1500年にもわたる古代ギリシア・ローマ美術のダイナミックな歴史のほんの一部を、近代以降の西洋文明の視点から眺めていることにしかならない。これらの言葉は古代美術の魅力を十分に伝えてはいない。それどころか、「西洋美術の古典」というレッテルのせいで、「教養」に退屈さを感じる若者たちに、かえって古色蒼然とした面白味のないものという先入観を抱かせているように思えてならない。
 
しかし古代美術は、実は西洋美術のなかでも (現代美術を除けば) 最も「新作」が多い時代なのである。世界各国の発掘チームが、地中海各地で今も活発な発掘調査を進めており、美術的に価値の高い作品も含め、未知の遺物や遺構が毎年数多く出土している。重要なのは、20世紀初頭までの宝探し的な発掘とは異なり、現在の学術的発掘では (運が良ければ) 作品が古代においてどのような場所に置かれ、どのように使用されていたのかまでが明らかになることだ。ここ数十年は、そうした発掘成果を利用し、古代の「美術」作品が当時の社会においてどのような機能を有していたかを探る研究が、さまざまな時代や地域の作品を対象として進められてきている。
 
本書の執筆は、通常の「ギリシア・ローマ美術」を扱っている序章から第5章を芳賀京子が、東洋とギリシア・ローマをつなぐ第6章を芳賀満が担当した。作品をじっくり観察するだけではなく、出土状況や碑文を考慮し、古代文献の記述と照らし合わせ、さらに背景となる空間や社会状況なども交えて考察することで、作品が古代においてどのようなコンテクストに置かれ、どのように眺められたかが浮かび上がる。美術館や博物館に置かれている「美術品」が、かつては見る者を畏れさせ、驚嘆させ、奮い立たせる力をもっていたことを感じ取ってもらいたい。
 
この『西洋美術の歴史』全8巻のシリーズは「美術を見るだけでなく読む愉しみ」と銘打って、2016年から2017年にかけて刊行された。実際、美術品の色やかたちを鑑賞するのであれば、最近ではどんな大全集のカラー図版よりも高解像度の画像を簡単に (例えばGoogle Art & Cultureなどでは、ものによっては美術館で実際に目にするよりもはっきりと) ネット上で眺めることができるのだから、書籍という形態は美術品の画像を伝える手段として、もはや最適とはいいがたい。その一方で、ネット情報から得られる知識は、細切れの断片を継ぎ合わせたものになりがちで、ひとつの領域に対する総合的な視座を得ることは難しい。西洋美術の長い歴史を理解するためには、やはり腰を据えて、掌におさまるサイズだがずっしりと厚みのある (このシリーズのような) 本を、じっくり読むことをおすすめしたい。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 芳賀 京子 / 2018)

本の目次

序  章  エーゲ海文明の記憶
 
第1章  ギリシア美術の曙
1  美術様式と時代
2  神々を祀る
3  絵画のはじまり
4  神話を眺める
5  生けるが如く
 
第2章  ギリシア美術の栄華
1  アテネにおける政治と美術
2  信仰のかたち
3  カノンの美と感覚の美
4  人々の生活と美術
5  周辺地域とギリシア美術
 
第3章  ギリシア美術の変容
1  マケドニアの美術
2  アレクサンドロスの後継者たち
3  ペルガモンの美術
4  ヘレニズム時代の神域と礼拝像
5  美術の多様化と国際化
 
第4章  帝国美術の形成
1  ヘレニズム世界と共和政ローマ
2  ローマ人の肖像彫刻
3  アウグストゥスとローマ
4  皇帝と大衆
5  私邸と壁画
 
第5章  帝国美術の拡大と変容
1  戦争と歴史浮彫
2  娯楽と美術
3  古代ローマの葬礼美術
4  古代末期の皇帝美術
5  キリスト教時代の「異教」美術
 
第6章  東方のヘレニズム美術
1  ヘレニズムの定義とアレクサンドロス大王東征の意味
2  イランにおけるヘレニズム美術
3  中央ユーラシアにおけるヘレニズム美術
4  ガンダーラ地方
5  ギリシア美術と中国
 

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