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書籍名

文化政策の現在【全3巻】 第3巻 文化政策の展望

判型など

308ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年4月27日

ISBN コード

978-4-13-003497-5

出版社

東京大学出版会

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文化政策の現在 第3巻

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本書は、『文化政策の現在』というシリーズの第3巻目にあたります。
 
第3巻『文化政策の展望』では、文化政策の実践と研究の課題と可能性を展望的に示すことを目的としました。とくに2000年代以降、文化施設を建設してサービスを提供することが文化行政と考えられてきた現場が、施設を基本としない活動へと広がりをもつとともに、政策を行政が囲い込むのではなく公共的活動が市民やNPOの実質的な参画により実践されるようになっている現状があることをみてきました。ガヴァナンス論にもみられるような、多様な主体による政策の立案や実践が、文化政策の領域においても展開している状況を描き出しています。ただし、それらが注目される事例として論じられながらも、それが実践の現場で拡大していくには現在の制度の運用において限界があります。今後どのような政策や制度が構築されることが望ましいかについて論じた巻にあたります。とくに、東日本大震災以降の日本において再認識された、文化の紐帯的機能、歴史・記憶の継承といった機能に着目した上で、芸術振興を核にしながら拡張されてきた文化政策の再定義および制度の再構築を批判的に検討しています。
 
本書は、第一部「価値の転換」、第二部「実践の深化」、そして第三部の「文化政策の再定義」で構成されています。第一部の第1章では、文化政策と法の問題を「芸術をはじめとする文化をどのように位置づけるか、文化をとりまく社会の制度を考えることそのもの」であると捉えながら、公私の概念も変化が生じている状況の下で、公私両者を調整しつつ文化をとりまく制度を考察していく必要性を説いています。さらに、第2章では「文化財の保存から活用へ」というスローガンの背景にある文化財保護行政における保存と活用の考え方の変遷を追い、保存か、活用かの「ゼロサム的な関係」を問い直すために、文化財の価値の体系という視点を提案しています。さらに芸術振興施策で中核的な支援としての「助成」にも注目します。また、市民が自治体の文化政策の策定プロセスに参加する事例が増えてきている現状において、実効性のある仕組みをつくるためのプロセスと、地方自治体それ自体の地方分権の実質化が重要であるのならば、概念の共有をどのように行っていけばよいかを、ヨーロッパにおける文化政策論の展開に着目をしながら考察しています。それは、行政、市民の変化が必要になっていく実態も明らかにしています。そして、なぜ文化政策領域が拡張してきたかといえば、文化や芸術の政策領域での生き残り戦略だったかもしれないが、それが必然と認識されるにいたった日本ならではの状況、そして世界的な文脈の中での位置づけを明らかにしています。
 
理論的、実践的な考察を重ねてきたシリーズの全体を統括しつつ、文化政策に関心を持ち、現在増加をみせている研究や実務に携わる人に向けて共有したいメッセージをまとめたものです。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 小林 真理 / 2018)

本の目次

第I部 価値の転換
  第1章 文化政策と法 (中村美帆)
    1 「文化政策と法」のアプローチ――文化をとりまく制度のあり方
    2 多岐にわたる「文化政策と法」
    3 文化をとりまく制度の公と私。
    4 「文化政策と法」の課題――社会における文化の位置づけ

  第2章 保存と活用の二元論を超えて:文化財の価値の体系を考える (松田 陽)
    1 はじめに
    2 「文化財の保存から活用へ」というスローガン
    3 新たな文化財活用の考え方の登場
    4 文化財活用による観光振興
    5 文化財の価値の体系という視点
    6 保存と活用の二元論を超えて

  第3章 進化を迫られる芸術文化助成:可能性と諸課題 (若林朋子)
    1 助成とはなにか
    2 芸術文化助成を俯瞰する
    3 芸術文化助成が抱える諸課題
    4 芸術文化助成の可能性と展望

  第4章 自治体文化政策策定プロセスにおける文化デモクラシー: 共治の実現に向かって (長嶋由紀子)
    1 はじめに
    2 デモクラシーを問う文化政策の論点
    3 能動的参加を促す文化政策の性質
    4 「協働」に向かう自治体文化政策
    5 市民参加型社会をつくる文化ガヴァナンス論
    6 おわりに

  第5章 自治体文化行政論再考:文化行政が目指すもの (小林真理)
    1 はじめに
    2 自治体文化行政論の革新性
    3 文化ホールはまちをつくったか
    4 市民協働・パートナーシップのために必要な触媒
    5 自治体文化行政の役割とは何か――判断のための場づくりと環境整備

  第6章 参加と協働のゆくえ: 草の根市民参加型発掘調査の文化財保護行政化 (土屋正臣)
    1 はじめに
    2 戦後自治体史編纂事業の担い手の変遷
    3 市民の手による地域史編纂の拡がり
    4 調査・研究・叙述の今後の展望

第II部 実践の深化
  第7章 予測不可能性のなかに眠る可能性を:小金井アートフル・アクション! のこころみ (宮下美穂)
    1 小金井アートフル・アクション! はどのようにして生まれたか?
    2 事業を進める二つの車輪
    3 考えなければいけないこと――強みと弱点
    4 出来事を評価するということ
    5 協働とは?
    6 これから

  第8章  芸術家の福祉政策:韓国の事例を中心に (李 知映)
    1 はじめに
    2 フランスとドイツにおける芸術家の福祉政策
    3 韓国における芸術家の福祉政策
    4 おわりに

  第9章 カルチュラル・リーダーシップ:文化セクターを担う人材の育成 (菅野幸子)
    1 マネジメントからリーダーシップへ
    2 カルチュラル・リーダーシップの創設経緯と背景――リーダーシップの危機
    3 関係性を作り上げるリーダーシップ

  第10章  市民文化活動の拠点とその支援:EU諸国の事例から (新藤浩伸)
    1 文化の担い手としての市民をどう支えるか
    2 EU文化政策
    3 地域ベースの活動を支えるアーツセンター
    4 アン・トーバーアーツセンター (An Tobar)
    5 コミュニティでの活動を支える中間支援組織
    6 市民文化活動の支援体制の構築にむけて

第III部 文化政策の再定義
  第11章 地域の文化拠点としての文化施設:東日本大震災後のミッションの再定義を目指して (佐藤李青)
    1 はじめに――「災間」の社会の知見として
    2 地域の文化拠点としての文化施設
    3 プラットフォームとしての文化施設
    4 「機構」としての公立文化施設――理念から実践へ,実践から理念へ

  第12章  都市の記憶、生活の記憶の場所:公共ホールにおけるアーカイブ活動の可能性から (新藤浩伸)
    1 都市のなかの記憶の場所
    2 公共ホールという場所の性質
    3 記憶の場所としての公共ホール
    4 アーカイブ活動の実践
    5 アーカイブ活動の意義と課題
    6 おわりに――歴史が編まれる場所とその編み手

  第13章 デジタル化時代の文化政策 (松永しのぶ)
    1 はじめに
    2 文化を記録する
    3 繋がる
    4 保存,そして共有
    5 最後に

  第14章 二つの震災を節目とした文化と社会の関係性の変化 (大澤寅雄)
    1 はじめに
    2 公立文化施設
    3 アートNPO
    4 東日本大震災
    5 これからの展望
    6 おわりに
 

関連情報

書評:
中川 幾郎 (帝塚山大学名誉教授・日本文化政策学会顧問) 評
貴重な編纂と集積 公共文化政策研究をめぐる達成と広がりを示す (週刊読書人ウェブ 2018年11月16日)
https://dokushojin.com/article.html?i=4577
 
書籍紹介:
(朝日新聞デジタル 2018年4月21日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S13460734.html
 

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