東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に立体アートの展示写真

書籍名

新時代のミュージアム 変わる文化政策と新たな期待

著者名

河島 伸子、 小林 真理、 土屋 正臣

判型など

274ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年9月1日

ISBN コード

9784623089741

出版社

ミネルヴァ書房

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新時代のミュージアム

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学生の皆さんは、日本にどのくらいミュージアムが存在するか、ご存知でしょうか。皆さんに身近なものは、どんなミュージアムでしょうか。ミュージアムは、「歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等」の資料を扱うものです。歴史博物館、科学博物館はもとより、美術館、文学館、植物園、動物園、水族館などもミュージアムです。大学にミュージアムを備えているところもあります。もちろん東大の中にも、総合研究博物館をはじめ、健康と医学の博物館、農場博物館、近代医科学記念館等があります。日本にはなんと約5700もの様々なミュージアムが存在しています。これほどまでに多くの博物館が存在している国は稀です。多種多様で、一言でミュージアムが何かを語るのは難しいところがありますが、ミュージアムで行われていることは、資料の収集・保管・展示・調査研究です。おそらく皆さんがミュージアムに慣れ親しんでいるのは、「展示」の部分になるかと思いますが、これはミュージアムの一部に過ぎません。ミュージアムの数の多さは、日本はこれまで豊かな博物館文化の土壌を築いてきたことの証明ともいえます。これらの博物館は、戦後に建設されてきたものです。資料の蓄積による未来への継承はもとより、これらの資料の利活用を含めて博物館文化のさらなる普及と展開が求められるようになっています。
 
2021年度に入ってから、これらの博物館に関する法律である博物館法に関する改正する議論が文部科学省文化審議会博物館部会で行われています。1951年に制定された法律で、なんと70年ぶりの大幅改正になりそうです。このきっかけは、博物館に関する行政上の所管が、文部科学省から文化庁に移ったことが契機となっています。これまでに開設されてきたミュージアムが今後も未来に向けて資料を継承していくために、どのような制度や政策を行っていけばよいのか、社会においてどのような役割を担っていけばよいのか、そのことを考えるために、ミュージアムを文化経済学、文化政策学、博物館学の立場から考察したのが、この書物になります。
 
この中で、文化政策学の立場から考察したのが、私が担当した第2章「ミュージアム政策の不在──美術館の公共的価値を問い直す」、第4章「第4章 ミュージアムの管理・運営体制──指定管理者制度と地方独立行政法人の可能性」、第6章「ミュージアムの古くて新しい課題──地域を記録する」です。第6章では、ミュージアムは、資料が先にあることが前提となっているが、資料を作って未来に残していくことに取り組んでいる事例を扱いました。私自身は、広い意味で文化を持続可能にしていく制度や政策の研究をしています。その一環として、本書の執筆に携わりました。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 小林 真理 / 2022)

本の目次

はじめに

 第I部 文化政策の変容とミュージアム運営の新たな課題

第1章 ミュージアムを取り巻く環境変化──文化政策の流れ (河島伸子)
 1 文化政策の変容とミュージアム
 2 行財政改革
 3 日本経済の変化と地方の課題
 4 文化的な変化
  
第2章 ミュージアム政策の不在──美術館の公共的価値を問い直す (小林真理)
 1 ミュージアムは自明のものか
 2 ミュージアム政策はあるか
 3 地方自治体の美術館建設と関連法の整備
 4 国の動向
  
第3章 「文化の価値」とミュージアム──経済・社会包摂・幸福度との関連から (河島伸子)
 1 「文化の価値」とミュージアム
 2 文化政策の根拠と文化の価値
 3 経済的価値、価値の測定
 4 文化の社会的価値
 5 文化と幸福度
 6 文化の価値──手段的文化政策の行きつくところ

 第II部 ミュージアム運営と公共

第4章 ミュージアムの管理・運営体制──指定管理者制度と地方独立行政法人の可能性 (小林真理)
 1 非営利のミュージアムとその統括団体
 2 国の博物館の独立行政法人化
 3 指定管理者制度と公立博物館・美術館の運営
 4 公立博物館・美術館の地方独立行政法人化
 5 自治体のミュージアム政策のこれから
  
第5章 地域に生きるミュージアム──価値提供のあり方 (土屋正臣)
 1 地域とともに歩むミュージアムの姿
 2 郷土博物館の概要と取り巻く社会環境
 3 市民活動の場としての郷土博物館
 4 郷土博物館をめぐるギャップの原因
 5 今後のミュージアムのかたち──誰にとってのミュージアムか
  
第6章 ミュージアムの古くて新しい課題──地域を記録する (小林真理)
 1 あらためて地域内の文化に目を向ける
 2 記憶と記録と資料
 3 地域の美術の記憶を発掘し記録する──あかがねミュージアム
 4 地域を記録し地域から発信する──リアスアーク美術館
 5 人の営みと村の記憶を記録する──高知城歴史博物館

 第III部 新時代ミュージアムの実践的課題

第7章 ミュージアム運営と資金調達──自立した財政基盤の確保に向けて (河島伸子)
 1 ミュージアム運営の資金 
 2 入館者への課金──入館料と値付け戦略 
 3 会員制度 
 4 企業からの資金供与 
 5 ショップやレストランの運営 
 6 収蔵品の除去 
  
第8章 ミュージアムとまちづくり──長野県茅野市内のミュージアム群 (土屋正臣)
 1 まちを創るミュージアム
 2 茅野市における社会教育の展開と文化施設の整備
 3 ミュージアムによる文化財保護から自治体文化政策へ
 4 ミュージアムを起点とした埋蔵文化財によるまちづくりの実像
 5 縄文によるまちづくりの課題
  
第9章 ミュージアムと人々のつながり──来館者の経験を豊かにするための運営 (河島伸子)
 1 ミュージアムと人々との関わり
 2 ミュージアム・マーケティング
 3 ミュージアム来館体験
 4 ミュージアムとまちづくり──地域へ、そしてグローバル社会へ

おわりに/索引

 Column
 1 新たなミュージオロジー (河島伸子)
 2 博物館の理念と使命 (河島伸子)
 3 創造経済 (河島伸子)
 4 美術館の自由と専門家の役割 (小林真理)
 5 子どもたちに開かれたミュージアム:大原美術館の事例 (河島伸子)
 6 美術館の自由と防災 (小林真理)
 7 イギリスにおけるミュージアム入館料問題 (河島伸子)
 8 ミュージアムと都市:世界のトレンド (河島伸子)
 9 来館者の権利憲章 (河島伸子)

関連情報

著者による書籍紹介:
新刊紹介: 土屋正臣 (REPRE Vol.41 2021年3月7日)
https://www.repre.org/repre/vol41/books/editing-multiple/kawashima/
 
書評:
武居利史 (府中市美術館) 評 (『文化経済学』18巻1号p.54-57 2021年3月31日)
https://doi.org/10.11195/jace.18.1_54

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