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書籍名

文化政策の現在【全3巻】 第2巻 拡張する文化政策

判型など

256ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年3月23日

ISBN コード

978-4-13-003496-8

出版社

東京大学出版会

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文化政策の現在 第2巻 拡張する文化政策

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本書は、『文化政策の現在』というシリーズの第2巻目にあたります。
 
第2巻『拡張する文化政策』においては、文化政策の中心的な課題であった国民国家形成や市民社会形成における文化財保護・芸術振興・芸術普及という狭義の文化政策の実践を超え、文化および芸術の機能に着目をするようになっている状況に注目します。たとえば、それは政策の対象がどのように変化してきているのか、また文化や芸術の外部への波及効果に注目をした場合に、それはどのような領域で政策が展開されているのか。さらに、多くの人は政策といえば、それを政府や行政とのみ結びつけて考えますが、政策の関係してくる主体はそれだけではなく広がりを見せています。つまり、政策形成や実践の現場が横断的に拡大と深化をみせている文化政策の諸相があるということです。具体的には、第一部の「領域」では、文化政策の対象が、文化や芸術を社会に提供する専門的スキルをもった芸術家といわれる人たちから、それを享受する国民の側に移っていった例を韓国の文化政策の方針から明らかにするとともに、ロンドン中心・上流階級中心・ハイアーツ中心の芸術振興政策が、地方に広がり対象も拡大していった様子を英国のアーツセンター設置の状況からみます。また、文化施設というものの原点について振り返ります。
 
第二部の「政策概念」では、単一市場形成により国家の境界が曖昧になる中で、都市や地域がアイデンティティの再確認をしながら、文化で都市間の競争力をつけた事例を、フランスの都市を事例に検証しています。また、文化政策の対象や領域を社会的包摂・社会包摂という概念で捉え返しているのが、「文化政策とソーシャル・インクルージョン」です。さらには、最近は外交分野において、文化外交という言葉が使われるようになっていますが、それはそれまでに使われていた国際文化交流とはどのような違いをもって行われているのかを明らかにします。そして、文化や芸術のもつ「創造性」という特徴に着目して展開されてきた創造都市論や、新たな産業分野としての創造産業はこれまでの都市論を越え、既存の産業構造の転換に資することができたのかを考えています。
 
第三部「担い手の多様化」は、まさに、政策をよりよく実践していく上での担い手に着目した部分で、民間企業、文化振興財団、アートNPO、そしてアートNPOを支援するNPO,さらに市民の関わり方と課題について明らかにしています。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 小林 真理 / 2018)

本の目次

第I部 領域の拡張
  第1章 文化政策のパラダイム変化 ─創作者中心から享受者中心へ (李 知映)
    1 はじめに
    2 朝鮮戦争後から軍事政権までの文化政策
    3 金泳三政府から盧武鉉政府までの文化政策
    4 李明博政府から朴槿恵政府までの文化政策
    5 文化政策の新しいパラダイムに向けて

  第2章  文化施設とは何か ─建物と人の距離 (新藤浩伸)
    1 「敷居の高さ」というレトリック
    2 「文化施設」の範囲
    3 歴史の中の「文化施設」
    4 戦前期の文化施設概念が示すもの

  第3章 英国のアーツ・センター・ムーブメント (菅野幸子)
    1 アーツ・センターの始まり
    2 アーツ・センター・ムーブメント
    3 アーツ・センターと現代アート
    4 まとめ
   
  第4章 芸術祭とアートプロジェクトは、新たな制度となりうるか? ――プロジェクトからインスティテューションへ (佐藤李青)
    1 はじめに
    2 「インスティテューション」という視点からの課題
    3 芸術祭とアートプロジェクトの特徴=成果とは何か
    4 おわりに ─「プロジェクト」を超えて

第II部
政策概念
    第5章 地域アイデンティティ再構築 ──フランス都市文化政策の戦略化 (長嶋由紀子)
      1 欧州単一市場と文化政策
      2 都市の魅力と発信力 ─モンペリエ市の事例
      3 地域 / 都市アイデンティティ再構築 ─リール市の事例
      4 多中心的な社会へ ─都市文化政策の空間ナラティヴ

    第6章 文化政策とソーシャル・インクルージョン ──社会的包摂あるいは社会包摂 (中村美帆)
      1 ソーシャル・インクルージョンとは何か ─概念の成り立ちと二つの訳語
      2 「社会的包摂」と「社会包摂」 ──社会政策と芸術文化政策
      3 敢えて「社会包摂」を語ることの可能性 ─芸術文化による社会包摂
      4 現代日本の芸術文化政策におけるソーシャル・インクルージョンの課題

   第7章  国際文化交流と文化外交 ──「アジア」の文化理解を一例として (武田康孝)
      1 はじめに
      2 日本の対外文化政策と「文化交流」概念の変遷
      3 一九七〇 ─八〇年代の「アジア文化理解」事業─国際交流基金とトヨタ財団
      4 福岡市の対アジア文化政策 ─都市政策としての「アジア理解」
      5  おわりに ─「交流」の価値を取り戻す

   第8章 創造都市と創造産業の隆盛 (菅野幸子)
      1 創造都市の原点
      2 創造産業の隆盛
      3 東アジアにおける創造都市と創造産業の広がり
      4 まとめ
   
第III部  担い手の多様化
    第9章 メセナ (企業の文化支援) 論 (伊藤裕夫)
      1 はじめに ──「企業の文化支援」という視点
      2  文化振興における「企業」─企業メセナ協議会設立まで
      3 企業メセナの展開と変容
      4 文化政策における民間セクターの意義と問題
      
    第10章 指定管理者制度時代の文化振興財団の課題と展望 (小林真理)
      1 はじめに
      2 地方自治体による文化行政の展開と混乱 ─教育行政からの分離
      3 自治体出資法人の出現と問題
      4 地方自治体出資法人における専門性の追求
  
    第11章  中間支援の可能性と課題 ──築港ARCとアーツコミッション・ヨコハマ (佐藤李青)
      1 はじめに ──「現場」と「環境」を巡って
      2 「草の根」の「創造」を支援
      3 中間支援事業の展開 ─築港ARCとアーツコミッション・ヨコハマ
      4 おわりに ──中間支援の可能性を拓くために

    第12章 アートNPOの展開と実態 ──公共の新たな担い手として (吉澤弥生)
      1 日本におけるアートNPOの展開
      2 活動実態──「アートNPOデータバンク」調査結果から
      3 「協働」のあり方 ──大阪の事例から
      4 展望──アートNPOは公共の担い手となりうるか
  
    第13章 参加と協働の具現化──市民参加型フィールドワークから博物館建設へ (土屋正臣)
      1 はじめに
      2 博物館をめぐる今日的課題
      3 野尻湖発掘という市民参加のフィールドワーク
      4 市民参加型フィールドワークから博物館建設へ
      5 より良い参加・協働の構築をめざし
 

関連情報

書評:
中川 幾郎 (帝塚山大学名誉教授・日本文化政策学会顧問) 評
貴重な編纂と集積 公共文化政策研究をめぐる達成と広がりを示す (週刊読書人ウェブ 2018年11月16日)
https://dokushojin.com/article.html?i=4577
 
書籍紹介:
(朝日新聞デジタル 2018年4月21日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S13460734.html
 

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