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モノクロの表紙

書籍名

復刻版 会館芸術 第I期 戦前篇 (全11巻) / 第II期 戦中篇 (全13巻) / 第III期 戦後篇 (全17巻)

判型など

B5判、上製、クロス装、カバー

言語

日本語

発行年月日

2016年9月

ISBN コード

第I期 戦前篇 (全11巻) 978-4-8433-5088-1
第II期 戦中篇 (全13巻) 978-4-8433-5225-0
第III期 戦後篇 (全17巻) 978-4-8433-5465-0

出版社

ゆまに書房

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

会館芸術

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1920年代半ば、産業の力と時代の先を行く都市計画を背景に大発展を遂げていた大阪。「大大阪」とも称されていたこのモダン都市は、しかし、大規模な展覧会や音楽会を行うことができる文化施設が不足しており、院展、科展や海外の大物音楽家を招聘した演奏会などの開催に困難をきたしていた。この状況を打開すべく、街の象徴的な中心地たる中之島に1926年 (大正15年) に建設された総合文化施設が、朝日会館だ。「大阪の文化の中心」「文化の殿堂」と呼ばれた会館は、1962年 (昭和37年) に閉館されるまで貸館として機能したほか、母体の新聞社とは一定の距離を保ちながら、独自の公演、上演、展覧会、講演会、文化教室など多彩な活動をも展開し、関西の近代文化史において重要な役割を果たした。
 
本書は、この朝日会館から1931年 (昭和6年) から1953年 (昭和28年) まで刊行されていた雑誌『會舘藝術』の復刻版である。同誌は会館の機関誌として出発したものの、創刊後数年で、音楽、舞踊、演劇、映画、邦楽、美術、写真、大衆芸能の解説・評論記事から、短篇・長篇小説や詩歌などの文学作品、国内外の著名人の随想やインタビュー、各国の文化事情の紹介までを盛り込んだ、総合文化雑誌に発展した。その後様々に名前や規模を変えつつも、戦争を挟み長期間にわたって発行された『會舘藝術』は、「阪神間モダニズム」や労音・労演運動などとも相通じており、東京一極集中ではない近代日本の文化活動の在り方を示す好例と言える。
 
多岐にわたる会館での文化活動および『會舘藝術』の内容を整理・考察することは、一人では到底できない。本書は、本学総合文化研究科の教員三名 (長木誠司、ヘルマン・ゴチェフスキ、前島志保) および様々な分野の若手研究者から成る、朝日会館・会館芸術研究会の会員が各巻の解説を担当した。昭和初期の関西の文化活動において朝日会館および『會舘藝術』が非常に重要な役割を果たしていたにもかかわらずほとんど研究が無く、活動の実態の全貌が見えないことに数名の若手研究者が気付いたのを契機としてこの共同研究会が結成され本格的な活動が始動したのは、2012年春のことだった。それ以来、原本所蔵状況確認・調査、データベース作成、それぞれの専門を活かした資料分析を行い、2015年春には駒場美術博物館での展示と18号館ホールでのシンポジウム開催にまで漕ぎ着け、2018年末には大阪大学でも同様の催しを開催した (詳細は会のHPを参照されたい)。そうした活動を積み重ねていくなかで、資料を大切に保管し公開に賛同してくださった諸機関の協力のもと、幸いにも復刻版出版が実現した。この出版不況のなか、ありがたいことに、日本国内はもちろん、海外の大学や研究機関からの購入注文も少なくないと聞く。
 
共同研究を通じて、与謝野晶子、井伏鱒二、淀川長治ら著名人の全集未収録の作品・評論が見出されたり、不明だった戦時中の活動の一端が明らかになったりと、大小様々な発見があった。私の専門である出版について言えば、近代に入って東京を中心に雑誌出版が展開されていたなかで、『會舘藝術』が1930年代末から1940年代初頭までの一時期、本格的な全国展開に乗り出しつつあったということは、新鮮な驚きだった。その後、戦局の深まりとともに一旦休刊となり、戦時中に地域文化雑誌として再生を果たし、その後は地域に根ざした文化雑誌として新たな展開を見せていく様子も、非常に興味深い。生の資料と対峙することから見えてきた数々の発見と知的興奮が、各巻の解説に反映されているはずだ。
 
言うまでもなく、この復刻版は、朝日会館および『會舘藝術』研究の端緒に過ぎない。戦前から戦後にかけての様々な分野の展開に関する貴重な資料でもある本書を手に取った一人一人が、それぞれの関心に沿って新たな発見を重ねていってくだされば、幸いである。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 前島 志保 / 2018)

本の目次

第I期 戦前篇
  第1巻:1931年 (前島志保)
  第2巻:1932年 (茂木謙之介)
  第3巻:1933年 (白井史人)
  第4巻:1934年1月~6月 (高山花子)
  第5巻:1934年7月~12月 (高山花子)
  第6巻:1935年1月~6月 (白井史人)
  第7巻:1935年7月~12月 (李 賢晙)
  第8巻:1936年1月~6月 (白井史人)
  第9巻:1936年7月~12月 (李 賢晙)
  第10巻:1937年1月~6月 (佐々木悠介)
  第11巻:1937年7月~12月 (佐々木悠介)
 
第II期 戦中篇
  第12巻:1938年1月~6月 (山上揚平)
  第13巻:1938年7月~12月 (山上揚平)
  第14巻:1939年1月~6月 (高山花子)
  第15巻:1939年7月~12月 (高山花子)
  第16巻:1940年1月~3月 (中尾 薫)
  第17巻:1940年4月~6月 (山本美紀)
  第18巻:1940年7月~9月 (白井史人)
  第19巻:1940年10月~12月 (前島志保)
  第20巻:1941年1月~3月 (井口 俊)
  第21巻:1941年4月~6月 (井口 俊)
  第22巻:1941年7月~9月 (茂木謙之介)
  第23巻:1941年10月~12月 (紙屋牧子)
  第24巻:1941年~1944年 (紙屋牧子)
 
第III期 戦後篇
  第25巻:1945年1月~12月 (前島志保)
  第26巻:1946年1月~6月 (白井史人)
  第27巻:1946年7月~12月 (中尾 薫)
  第28巻:1947年1月~6月 (山本美紀)
  第29巻:1947年7月~12月 (山本美紀)
  第30巻:1948年1月~6月 (中村 仁)
  第31巻:1948年7月~12月(中村 仁)
  第32巻:1949年1月~6月(中村 仁)
  第33巻:1949年7月~12月(中村 仁)
  第34巻:1950年1月~6月 (岡野 宏)
  第35巻:1950年7月~12月・1951年1月 (合併号) (岡野 宏)
  第36巻:1951年1月~6月 (山本美紀)
  第37巻1951年7月~12月 (山本美紀)
  第38巻1952年1月~6月 (中尾 薫)
  第39巻:1952年7月~12月 (中尾 薫)
  第40巻:1953年1月~6月 (岡野 宏)
  第41巻:1953年7月~10月+補遺 (『厚生文化』1944年9月号) (岡野 宏、前島志保)
 

関連情報

朝日会館・会館芸術研究会
http://fusehime.c.u-tokyo.ac.jp/gottschewski/kaikan/
 
モダニティの複数性と大大阪 ─展覧会・シンポジウム「會舘の時代─中之島に華開いたモダニズムとその後」後記─ (東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部 教養学部報 第575号 2015年6月3日)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/575/open/575-01.html
 
トピックス > シンポジウム (REPRE Vol. 25 2015年9月16日)
「會舘の時代 中之島に華開いたモダニズムとその後」
日時:2015年3月14日(土)・15日(日)
会場:東京大学駒場Iキャンパス18号館ホール
https://repre.org/repre/vol25/topics/02/
 

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