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えんじ色の表紙

書籍名

PHP新書 歴史の謎は透視技術「ミュオグラフィ」で解ける 歴史学を変える科学的アプローチ

著者名

田中 宏幸、 大城 道則

判型など

231ページ、新書判、並製

言語

日本語

発行年月日

2016年1月15日

ISBN コード

978-4-569-82978-4

出版社

PHP研究所

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歴史の謎を解くためには、できるだけ多くの情報を集め、それらを多角的に吟味することで情報の最適な組み合わせを見つけることが重要です。これは歴史に限った話ではありませんが、最先端科学技術の活用には主に2つの意義があります。
 
まず1つ目は、情報取得の効率化です。従来の方法でも時間をかければ得られる情報ですが、最先端技術を用いることでこれをより短時間で得られるようになります。一例として、宇宙技術の活用が挙げられます。20世紀の後半には宇宙から地球を観測する技術が発達しました。ペルーにあるナスカの地上絵は数百メートル規模で多種多様な生き物や幾何学文様が地表をキャンバスとして描かれた巨大な人工制作物の一つですが、宇宙に新たな眼を得ることでこれらの発見が容易になりました。
 
2つ目は 新たな情報の取得です。従来の技術では得られなかった情報を最先端科学技術を用いることで抽出できるようになります。例えば、古代エジプト王ツタンカーメンの人物像については、つい最近までほとんど知られていませんでした。そこに決着をつけたのが2005年に実施されたDNA型鑑定でした。鑑定の結果、父親は伝統的多神教世界の古代エジプトにおいて、一神教を唱えたことで知られる異端の王でした。
 
最先端科学技術による新たな情報の取得は過去の不十分な科学技術より得られた誤認を正す役割も持っています。つい最近まで、ツタンカーメンの死因は、「誰かによって後頭部を鈍器のようなもので殴られたことにある」とされていました。この説は当時の最先端技術の単純X線撮影をその証拠としていたことから説得力を持って人々に受け入れられましたが、2005年以降に実施されたCTスキャンとDNA型鑑定によって、「ツタンカーメンは、撲殺ではなく蚊を媒介としたマラリアで亡くなった」という新たな見解が提示されました。
 
21世紀の科学技術「ミュオグラフィ」は宇宙に由来する透過性の強い素粒子ミュオンを使ってレントゲン写真のように巨大物体の透視をする技術です。人類は宇宙から地球を俯瞰することができる新たな眼を得ました。ですが、地球内部を見通す技術はまだ持ち得ていません。歴史遺産は長い時間と共に地中に埋まります。非破壊で構造物の内部を透視できるミュオグラフィを活用することでミュオグラフィが現状を打破する近未来のアカデミック・ツールになり得ることを示したのが本書です。アメリカの物理学者アルヴァレはミュオグラフィを使ってカフラー王のピラミッドの透視を試みました。この試みから始まったミュオグラフィの歴史は、東京大学による火山の透視の成功へとつながり、今まさに次の段階に入ろうとしています。
 

(紹介文執筆者: 地震研究所 教授 田中 宏幸 / 2018)

本の目次

第一章  ミュオグラフィ――ピラミッドや火山を透視する
第二章  宇宙技術を用いた考古学――未発見の古代遺跡はどこにあるのか?
第三章  水中考古学――沈没船から何がわかるのか?
第四章  生物学的技術を用いた考古学――ツタンカーメンとは何者か?
第五章  デジタル・アーカイヴ――過去を復元する
第六章  X線技術からミュオグラフィへ――考古遺物を透視する
第七章  ミュオグラフィで王家の谷を透視する
 

関連情報

MUOGRAPHIX
www.muographix.u-tokyo.ac.jp

Muographers
http://muographers.org/

ビルも火山も透視する可視化技術「ミュオグラフィ」は、社会にどのような恩恵をもたらすのか (NEC Business Leaders Square: wisdom 2017年9月28日)
https://wisdom.nec.com/ja/technology/2017092902/
 
ミュオグラフィとは――歴史の謎を解き明かす透視技術 (PHP Online衆知 2016年2月16日)
https://shuchi.php.co.jp/article/2811
 
地上に降り注ぐ素粒子「ミューオン」は、無限の可能性を秘めています。(at home 教授対談シリーズ こだわりアカデミー 2013年7月)
https://www.athome-academy.jp/archive/mathematics_physics/0000001086_all.html
 

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