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富士山と噴火の写真

書籍名

富士山噴火に備える

著者名

『科学』編集部 (編)

判型など

160ページ、B5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2023年2月21日

ISBN コード

9784000063425

出版社

岩波書店

出版社URL

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富士山噴火に備える

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本書は雑誌「科学」の掲載論文選であり、カルデラ噴火の話題を集めた2014年の特集号と富士山噴火の話題を集めた2022年の特集号の論文が大部分を占めている。対象としている噴火がカルデラ噴火と富士山噴火という違いもあるが、原稿が書かれた8年間の時間差も内容に大きく影響している。2014年9月の御嶽山の噴火災害を契機に、火山研究はより防災・減災の観点から広範に取り組まれるようになる。その結果、様々な観測技術の進歩やデータの蓄積があって噴火現象への理解が深まるとともに、それらに基づく噴火対策といった現実的な内容が「第一部:富士山噴火に備える」に盛り込まれている。そうしたことにも注目して本書を手に取ると、火山研究の方向性も読み取れて本書の面白さが増すに違いない。
 
「噴出物から読み解く富士山のマグマ供給系」では、円錐形の高い山容を持つ富士山が特別な火山であることを地下に存在するマグマ供給系から説明している。ではマグマ供給系の実体は噴出物からどのように読み出されたのだろうか。噴出した岩石やそこに含まれる結晶だけではなく、結晶に捕獲されたメルト包有物と呼ばれる地下深部のマグマ、さらには噴火に伴って得られた火山深部の岩石など、様々な情報源からマグマ供給系に迫る。(地震研究所 准教授 安田 敦)
 
「桜島のリアルタイム透視」では、透過力の強いミュオンという素粒子を用いて火山内部を観測する技術とその最新成果を紹介する。ミュオンは銀河系の遥か彼方から到来する宇宙線が地球の大気と反応することで生成される素粒子でキロメートルを超える岩盤を透過する能力を持っている。この透過力を使って火山などの巨大物体のレントゲン撮影する技術をミュオグラフィと呼ぶ。ミュオグラフィの技術は観測装置の技術の発展と共に進化してきたが、今では軽量高解像度のミュオグラフィ撮影装置が桜島に展開されている。本書では、まずこの軽量高解像度のミュオグラフィ撮影装置について簡単に解説する。次にこの軽量高解像度のミュオグラフィ撮影装置が撮像した桜島内部のマグマ動態と火山噴火の関係について説明する。(地震研究所 教授 田中宏幸)
 
「世界初の多方向3次元透視が明らかにした大室山の内部構造」では、前の記事で紹介されたミュオグラフィによる火山内部の透視技術を多方向から行う事によって、伊豆大室山の3次元密度分布の可視化を試みた報告が記されている。従来の研究では2~3方向からの観測が限界だったが、電源が不要で軽量な原子核乾板を用いることで11方向からの多方向観測を実現し、高い3次元空間分解能を達成している。可視化された3Dイメージからは、中央の主火道から山体に貫入したマグマが西麓の溶岩流や南山腹の小火口を形成したことが読み取れる。この観測手法はより大きな山体を持つ活火山に対してただちに応用できる段階ではないが、溶岩流を伴う火山噴火活動に対する防災対策への貢献が将来期待される。(地震研究所 助教 宮本成悟)
 

(紹介文執筆者: 地震研究所 准教授 安田 敦、教授 田中宏幸、助教 宮本成悟 / 2023)

本の目次

はじめに
火山専門家の育成・確保が急務〔2022年7月〕………藤井敏嗣
 
I 富士山噴火に備える
 
[概論]
富士山噴火に備える〔2022年7月〕………藤井敏嗣
富士火山の噴火史〔2022年7月〕………山元孝広
 
[地下構造]
富士山のモニタリング――地下では何が起こっているか?〔2022年7月〕………藤田英輔
電磁気的観測で地下構造を探る――マグマ性ガスの上昇と電気比抵抗構造〔2022年7月〕………相澤広記
富士山の地下構造を地震波から探る〔2022年7月〕………中道治久
 
[噴火史]
宝永山は降り積もってできた火砕丘である〔2022年7月〕………馬場 章
噴出物から読み解く富士山のマグマ供給系〔2022年7月〕………安田 敦
富士山の景観〔2014年1月〕 ………小山真人
 
[地下構造を探る新手法]
桜島のリアルタイム透視〔2022年7月〕………田中宏幸
世界初の多方向3次元透視が明らかにした大室山の内部構造〔2022年7月〕………小山真人・宮本成悟・長原翔伍・鈴木雄介
 
[防災]
富士山ハザードマップの改定〔2022年7月〕………吉本充宏
宝永噴火の降灰シミュレーション〔2022年7月〕………萬年一剛
都市が火山灰で覆われたらどうなるか〔2022年7月〕………久保智弘・石峯康浩
火山灰で覆われた道路を車両は走れるのか〔2022年7月〕………西澤達治
富士山噴火の降灰が首都圏のインフラに及ぼす影響〔2022年7月〕………伊藤哲朗
富士山噴火と防災情報〔2022年7月〕………地引泰人
富士山での突発的噴火の可能性と登山者対策――地域の火山防災力をいかに高めるか〔2014年12月〕………小山真人
桜島2022年7月噴火と火山防災の課題〔2022年10月〕………井村隆介
 
II 大噴火・巨大噴火を知る――巨大噴火がつくりだした日本列島
 
大噴火の溶岩流・火砕流はどれほど広がるか〔2014年1月〕………中田節也
私たちは本当の巨大噴火を経験していない――噴火予知の現状と課題〔2014年1月〕………藤井敏嗣
カルデラとは何か:鬼界大噴火を例に〔2014年1月〕………前野 深
阿蘇4巨大噴火のマグマ発生と噴火推移〔2014年1月〕………金子克哉
超巨大噴火は予知できるか〔2014年9月〕………高橋正樹
焦眉の急,巨大カルデラ噴火――そのメカニズムとリスク〔2014年12月〕………巽 好幸・鈴木桂子
7300年前に破局噴火を起こした鬼界カルデラに巨大溶岩ドームが成長〔2018年5月〕………巽 好幸
九州を南北につらなるカルデラたち〔2014年1月〕………小林哲夫
北アルプスをつくった大噴火――槍穂高カルデラとは〔2014年1月〕………原山 智
北海道東部,阿寒~屈斜路火山群の成り立ち――小型カルデラが複合した大型カルデラの形成〔2014年1月〕………中川光弘・長谷川健・松本亜希子
謎の箱根カルデラと過去に秘められた巨大噴火――列島中央の特異なテクトニクス場におけるカルデラの形成〔2014年1月〕………高橋正樹
大規模噴火データベースと噴火推移データベースで噴火の詳細情報を明らかに〔2022年11月〕………宝田晋治・池上郁彦・金田泰明・下司信夫
日本の火山データベース――火山の活動史を一覧〔2014年1月〕………石塚吉浩・中野 俊
噴火と原発〔2014年1月〕………守屋以智雄
 

関連情報

特集号:
富士山噴火に備える (『科学』Vol.92 No.7 通巻1079号 2022年7月号)
https://www.iwanami.co.jp/kagaku/KaMo202207.html
 
巻頭エッセイ:
火山専門家の育成・確保が急務 藤井敏嗣 (山梨県富士山科学研究所所長・東京大学名誉教授) (『科学』Vol.92 No.7 通巻1079号 2022年7月号)
https://www.iwanami.co.jp/news/n47916.html
 
書評:
おすすめ本レビュー: 鎌田浩毅 (京都大学名誉教授) 評「『富士山噴火に備える』「噴火スタンバイ状態」の富士山はどうなっているのか?」 (HONZ 2023年11月14日)
https://honz.jp/articles/-/54177
 
本の時間 新刊書評: 鎌田浩毅 評 (『プレジテント』 2023年6月16日号)
https://presidentstore.jp/category/MAGAZINE/012311.html
 
書籍紹介:
【瀬田ミニ展観:1/9~1/28】防災とボランティア週間 展示資料 (龍谷大学図書館 2024年1月9日 – 1月28日)
https://library.ryukoku.ac.jp/bbses/bbs_articles/view/117/9e3b812920d437da87d0f3a5e27d1495
 
山の本 - 類書紹介: 山を知る、山に祈る、山を楽しむ (『有鄰』第587号 2023年7月10日)
https://www.yurindo.co.jp/yurin/32317/6
 
関連記事・関連動画:
富士山噴火は南海トラフ地震と連動も! 備え遅れる火山対策   (ちいきのなかに防災ニッポン+ 2023年10月17日)
https://www.bosai.yomiuri.co.jp/biz/article/11433
 
もういつ噴火が起こっても全然不思議ではない――研究の第一人者に聞く、「富士山リスク」への向き合い方 #災害に備える (Yahoo!ニュースオリジナル特集 2023年4月8日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/c08b5964a008638c12c80fc687fc004ed3250977
 
いま目の前にある富士山噴火という危機:
企業が富士山噴火に備えなければならない理由 - いつ起きる? そのとき何が起きる?
山梨県富士山科学研究所所長・東京大学名誉教授 藤井敏嗣氏に聞く(リスク対策.com 2022年5月1日)
https://www.risktaisaku.com/articles/-/68090
 
火山の仕組みを知る(3)富士山の噴火はあるか? (藤井敏嗣)
富士山の噴火はいつ?予想される被害や影響とは (テンミニッツTV 2018年6月1日)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2182
 

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