東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

地震と津波を描いた大昔の絵

書籍名

歴史のなかの地震・噴火 過去がしめす未来

判型など

260ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2021年3月19日

ISBN コード

978-4-13-063716-9

出版社

東京大学出版会

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歴史のなかの地震・噴火

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近代の機器による地震観測が始まってから150年であるが、日本では100年以上の時間をおいて繰り返される地震があることが知られている。そうした地震を知り、将来の予測に生かすには過去の史料に基づいた地震研究が必要である。東京大学では、2017年に地震研究所と史料編纂所が協力して地震火山史料連携研究機構を立ち上げ、近代以前の地震史料の収集と調査に取り組んでいる。2019年度からは、教養学部の学術フロンティア講義「歴史史料と地震・火山噴火」を開講し、文理二つの研究所の教員2名ずつが交互に授業を担当している。本書はその講義内容を書籍化したものである。
 
日本では最古の歴史書である『日本書紀』以来、多様な史料に地震の発生を伝える記述が残されている。それらを編纂した地震史料集が、現在までに35冊刊行されている。これを活用した近代以前の地震研究も進んでおり、日本の地震史を概観した一般書も少なくない。そうした研究・出版の状況の中において、本書の特徴は、近代以前の地震を年代順に取り上げるのではなく、地震が発生する仕組みごとに検討している点である。
 
すなわち (1) 日本海溝での太平洋プレートの沈み込みによる地震 (東北地方の地震)、(2) 南海トラフでのフィリピン海プレートの沈み込みによる地震、(3) 日本列島上の活断層による地震 (内陸地震)、(4) 太平洋プレートとフィリピン海プレートの二つが沈み込む首都圏直下で起きる地震の四つに分けて、それぞれの地震の起こる仕組みについては地震学の研究者が、歴史上の大地震の具体的な様相については歴史学の研究者が記述するという形をとっている。それによって巨大地震のタイプごとに、どのくらいの被害をもたらした地震が、どのくらいの頻度で発生してきたのかを理解しやすくしている。また巨大地震と関係の深い9世紀と18世紀の富士山噴火についても、その経過を具体的に解説している。
 
各章では、最初に近年に起きた地震を取り上げて、読者の興味を誘うように工夫した。また歴史に関する記述では、煩雑にならない範囲で根拠史料を掲げて、歴史学の手法を示した。揺れや被害が具体的にどう表現されているかも紹介して、史料のもつ生々しさを伝えられることを心がけた。コラムを多く設けたのも特徴で、地震の大きさや津波の速さのような地震学の基礎知識や、前近代の時刻表現や暦など歴史研究の前提となる事柄に簡単な解説をつけて、分野外の読者への便宜をはかっている。
 
本書は地震学と歴史学の研究者が執筆したが、説明に過不足はないか、一般読者にとって簡明な記述になっているかについて、相互に忌憚のない意見を交換した。地質や火山など、執筆者陣の専門からやや外れる箇所については、互いに協力して執筆した。共著といっても往々にして分担執筆になりがちだが、本書は文字どおり歴史、地震の両分野の執筆者四人による共著である。地震火山史料連携研究機構での史料調査による最新の成果も取り入れているので、御一読願いたい。
 

(紹介文執筆者: 史料編纂所 教授 榎原 雅治、地震研究所 准教授 加納 靖之 (地震火山史料連携研究機構)  / 2021)

本の目次

はじめに――過去の地震・噴火を読み解く (加納靖之)

1章 東北の地震 (佐竹健治、榎原雅治)
1-1 東日本大震災の地震と津波
1-2 平安前期の火山噴火と地震
1-3 三陸地方の歴史地震

2章 南海トラフの地震 (佐竹健治、榎原雅治、杉森玲子)
2-1 南海トラフの巨大地震―その繰り返しの歴史を概観する
2-2 古代・中世の南海トラフの地震
2-3 宝永の地震と富士山噴火
2-4 安政の地震
2-5 地震発生の長期予測と被害予測

3章 連動する内陸地震 (加納靖之、榎原雅治)
3-1 熊本地震と兵庫県南部地震
3-2 天正地震
3-3 文禄畿内地震
3-4 文禄豊後地震

4章 首都圏の地震 (佐竹健治、榎原雅治、杉森玲子)
4-1 関東地方の地震のタイプと大正関東地震
4-2 中世の相模トラフの地震
4-3 元禄関東地震
4-4 安政江戸地震
4-5 関東地震の繰り返しと長期評価

5章 歴史地震研究の歩みとこれから (佐竹健治、榎原雅治加納靖之)
 

関連情報

自著解説:
榎原雅治『歴史のなかの地震・噴火―過去がしめす未来―』の刊行 (『画像史料解析センター通信総目録』第92号 2021年4月)
https://doi.org/10.15083/0002001098
https://www.hi.u-tokyo.ac.jp/gazo/centernewslist
 
放送大学番組:
BSキャンパスex特集 歴史から地震を考える (前編) (放送大学YouTubeチャンネル 2022年6月26日)
https://bangumi.ouj.ac.jp/v4/bslife/detail/01B09006.html
 
BSキャンパスex特集 歴史から地震を考える (後編) (放送大学YouTubeチャンネル 2022年7月3日)
https://bangumi.ouj.ac.jp/v4/bslife/detail/01B09007.html
 
書評:
天野真志 評 (『歴史評論』第868 2022年8月号)
http://www.maroon.dti.ne.jp/rekikakyo/magazine/contents/kongetugou.html

小山真人 (静岡大学教授) 評 (『地震ジャーナル』72号 2021年12月)
http://adep.or.jp/public/img/72.pdf
 
鎌田浩毅 (京都大学特任教授) 評「10月の地震と噴火に驚いた人は『歴史のなかの地震・噴火』を読め」 (HONZ 2021年10月27日)
https://honz.jp/articles/-/46129
 
佐藤善輝 (産業技術総合研究所地質調査総合センター地質情報研究部門主任研究員) 評 (『第四紀研究』Vol.60, No.3 2021年9月)
http://quaternary.jp/journals/backno.html
 
佐藤信 評 (読売新聞 2021年8月1日)
 
2021年上半期の収穫から:木村玲欧 (兵庫県立大学環境人間学部教授) 評 (『週刊読書人』 2021年7月23日号)
https://dokushojin.com/reading.html?id=8300
 
七山太 (産業技術総合研究所地質調査総合センター地質情報研究部門) 評 (『GSJ地質ニュース』Vol.10, No.7 2021年7月)
https://www.gsj.jp/data/gcn/gsj_cn_vol10.no7_p168-169.pdf
 
鎌田浩毅 (京都大学特任教授) 評 (公明新聞 2021年6月28日)
 
ブックウォッチング「良書を誇る大学出版部特集」 (毎日新聞 2021年5月12日)
https://mainichi.jp/articles/20210512/ddm/015/070/009000c
 
Book Review (『週刊東洋経済』 2021年5月15日号)
https://str.toyokeizai.net/magazine/toyo/20210510/
 
郷土の本棚 (岩手日報 2021年4月25日)
 
話題の本 (『週刊エコノミスト』 2021年4月13日号)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210330/se1/00m/020/072000d
 
書籍紹介:
気象と防災マメ知識!: 665回「末の松山」2022年2月12日OA (IBC岩手放送 2022年2月12日)
https://www.ibc.co.jp/radio/684/kisyobosai/archives/category/jishin
 
シンポジウム:
国際シンポジウム「デジタル化する歴史災害研究」 (国立歴史民俗博物館 2019年7月20日)
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z0202_00013.html
 

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