東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

古い山の絵、現在の早川町の写真

書籍名

山村は災害をどう乗り越えてきたか 山梨県早川町の古文書・民俗・景観を読み解く

著者名

中央大学山村研究会 (編)、 白水 智 (編集代表)

判型など

388ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2023年2月13日

ISBN コード

9784909782137

出版社

小さ子社

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

山村は災害をどう乗り越えてきたか

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「脆弱で貧窮に見えがちな山村は、実はしたたかで大きな活力を持った地域であった――。」
 
本書は、私 (紹介者) も参加している中央大学山村研究会が、設立から30周年をむかえるにあたり企画された書籍で、山梨県早川町をフィールドとして30年にわたって実施してきた調査活動の一端をまとめたものである。私は数年前から参加した新参者ではあるが、30年ものあいだ、多くのメンバーが参加しながら活動が継続されてきたことに敬意を表したい。
 
同会は、歴史資料の調査やその読み解きだけにとどまらず、現地の方への聞き取り調査や景観観察など、幅広い調査活動をおこなってきている。また、資料の所蔵者の方をふくむ住民の方に向けた講演会や古文書講読会も開催してきた。学期中は毎週例会を開催し、継続的に史料講読や目録作成、情報交換をおこない、また、実践を通じた若手育成、知識伝達の場ともなっているのも特徴といえるだろう。なお、これまでの活動は、『中央大学山村研究会報告集』(現時点で第33集まで発行) や『中央大学山村研究会古文書調査報告書』にまとめられている。
 
同会では、2011年の東北地方太平洋沖地震・東日本大震災の発生を機に、史料講読のテーマを災害に設定した。それ以降、災害といういわば非日常の危機を切り口として、早川町の各集落に伝来した歴史資料の読み解きを進めてきたのである。史料講読で読み解き、議論してきた文書が、本書にも多数登場する。
 
同会には、分野の異なる研究者が、いわゆる文系、理系の枠を超えて参加している。さらには、職業的研究者や学生、卒業生、市民、住民といった多様な立場の人々が参加しているのも特徴的である。知識体系や考え方のまったくちがうメンバーが、同じ古文書を読み、一緒に地形を眺めながら対話し、山村や地域についての理解を深めていくようすに、知的好奇心や探究心の発露を感じ、そのような場にいられることを心底ありがたく感じる。メンバーによる探求や思索の過程を、本書で追体験していただきたいし、関心を持たれた方にはぜひ研究会の輪に加わっていただきたい。
 
さて、過去の地震を研究テーマとしている私は、「山村と地震」というコラムを担当した。歴史資料を残した早川の人々はどのような地震の揺れを感じたのかを検討し、地震という自然現象を通して、早川という場所で過去と現在が地続きであることを説明することをめざした。
 
2024年の元旦、「令和6年能登半島地震」が発生した。土砂災害が発生し、それにより道路が不通になるなどしている。早川の歴史資料からは、1707年の宝永地震をはじめとするいくつかの地震によって同じような状況が発生し、もたらされた困難に対して、人々はさまざまな手段で対処してきたことがわかる。能登半島でも、今後、緊急的、応急的な対応から、復旧、復興へと進んでいくことだろう。現在、あるいは将来発生する災害や、それへの備えや対応をよりよいものとするために、歴史資料に書き残された災害の様相や、それを乗り超えようとしてきた人々の営みからまなぶという側面もあるのではないだろうか。
 

(紹介文執筆者: 地震研究所 准教授 加納 靖之 / 2024)

本の目次

カラー口絵
はじめに
 
序章 フィールドから探る山村の歴史像――災害の視点と本書の立ち位置|中央大学山村研究会
 
I 早川の自然条件と災害
第1章 早川の災害と地形|長谷川裕彦・佐々木明彦
第2章 古文書に描かれた森林の様相から災害リスクを考える|小山泰弘
 
II 災害と技術
第1章 水害への対応と治水技術|西川広平
第2章 災害復旧にみる往還の御普請と利用|高野宏峰
 
III 災害と社会
第1章 災害をめぐる山村と領主|白水 智
 ●コラム1 貯穀と早川入の村々|岩橋清美
第2章 山村の災害と歴史語り|柴﨑啓太
第3章 災害と作物被害|成畑 誠
 ●コラム2 近世山村の飢饉|山本智代
第4章 山の地震誌|寺島宏貴
 ●コラム3 山村と地震|加納靖之
 
IV 災害の幸いと祈り
第1章 災害の幸い|田中悠介
 ●コラム4 現代の早川に暮らす人々の災害の乗り越え方|柴田彩子
第2章 御普請世話人斎藤善左衛門の狂歌づきあい|鈴木 努
第3章 山村における病とまじない|赤澤春彦
第4章 災害と民俗|松本美虹
 ●コラム5 歴史学と民俗学のはざまで|西村敏也
 
V 地域史料をたどって
第1章 山村研究会と早川調査|荒垣恒明
 ●コラム6 中央大学山村研究会創立のころ|福田英一
第2章 災害跡地を歩く|中央大学山村研究会
 ●コラム7 獣害への対応|中西 崇
 
終章 災害から読み解く早川入の山村世界|早田旅人
 
早川災害史年表 近世編|高野宏峰 責任編集

関連情報

中央大学山村研究会 ホームページ
http://yamazemisince1991.web.fc2.com/
 
書評:
桐生海正 評 (関東近世史研究会常任委員会編『関東近世史研究』94号 pp. 71-75 2024年5月)
 
中央大学山村研究会紹介記事:
人口最少の町に残る古文書を追って 掘り起こす江戸時代の山村の活気 (朝日新聞デジタル 2023年6月13日)
https://www.asahi.com/articles/ASR696SJNR5RUZOB004.html
 
加納靖之|note
https://note.com/ykano/

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