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南京秦淮河の街並みの写真

書籍名

蘇州花街散歩 山塘街の物語

著者名

大木 康

判型など

304ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年7月7日

ISBN コード

9784762965937

出版社

汲古書院

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蘇州花街散歩

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吉原などの遊里を抜きにして、日本の江戸文学を語ることは難しい。それは海の向こうの中国文学についても同様である。とりわけ高度な文化の花が咲き誇った明末の江南地方にあっては、南京、蘇州、揚州などの色街が栄え、一流の文人たちと名妓たちとの交遊は、そのなかで欠くことのできないひとこまである。
 
なかでも最もよく知られる色街が、南京の色街秦淮である。南京の城内を流れる秦淮河のほとりには、数多くの妓楼が建ち並び、文人たちと名妓たちのドラマが繰り広げられた。銭謙益と柳如是、冒襄と董小宛、龔鼎孳と顧媚など、当代の一流の文人たちが、これまた当代一流の妓女たちと浮き名を流したのであるが、それは文雅な佳話として語られたのであった。当時の名妓はまた、詩人であり、書画をよくする藝術家でもあったのである。
 
南京の秦淮については、明清の王朝交替にあたって、破壊されてしまった色街をしのんで、余懐がつづった記録である『板橋雑記』、また侯方域と名妓李香君を主人公とする孔尚任の戯曲『桃花扇』などがあり、秦淮文学とでも呼ぶことができる一系列の文学作品が残されている。秦淮の色街を知らなければ、明末清初の文化と文学のかなりの部分がわからなくなるといっても過言ではない。
 
そのようなことを考えて、2002年に『中国遊里空間 明清秦淮妓女の世界』(青土社) を著した。この本では、秦淮の地理、歴史、またそこに生きた妓女の伝、妓楼での遊びのさま、秦淮の文学などについて紹介した。同書は、2007年に中国語版が、台湾の聯経出版から出版された。
 
その南京秦淮とならぶ色街があったのが蘇州 (また揚州) であるが、蘇州の場合には、南京といえば、ただちに秦淮が思い浮かぶといった具合には、その色街の場所も明らかではなかった。本書は、いわば前著『中国遊里空間 明清秦淮妓女の世界』の続編にあたり、蘇州の色街について調べてみた成果である。蘇州の色街は、その多くが、蘇州城西北の門である閶門から、西北郊にある名勝虎丘に至る山塘河とその運河に沿った山塘街にあったことがわかった。
 
山塘街は、南京の秦淮と同様、書店や、書画を扱う骨董店、レストランなどが多く集まる文化地帯であって、妓楼もそこにあった。本書の執筆にあたっては、明清の詩文集、地方志、文人の日記、小説作品など、さまざまな文献にあたるとともに、何度も蘇州をおとずれ、古い地図を片手に、閶門から虎丘に至る山塘街を何度も歩いて、実地の距離感などをたしかめた。ばらばらな情報が、蘇州、山塘街、色街という磁石に引きつけられるように集まってきた時には、文字通りの知的興奮を味わえ、研究者冥利につきる楽しみであった。
 
本の中では書かなかったが、いまでもしばしばカバーされる西條八十作詞、服部良一作曲の歌謡曲「蘇州夜曲」の舞台になっているのも、寒山寺にほど近いこのあたりである。
 

(紹介文執筆者: 東洋文化研究所 教授 大木 康 / 2018)

本の目次

第一章 虎丘
第二章 閶門
第三章 山塘
第四章 蘇州の妓女たちの居住地
第五章 山塘の名妓たち
第六章 妓女の技藝
第七章 山塘の船遊び
第八章 三文人の日記から
第九章 蘇州の妓女の遊び
第十章 その後の山塘
終 章 『紅楼夢』から
 
索 引
 

関連情報

書籍紹介:
著者からの紹介 大木康 著『蘇州花街散歩: 山塘街の物語』 (東洋文化研究所ホームページ)
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/news/pub1707-1_oki.html
 
『新しい漢字漢文教育』第65号 2018 に平井徹氏による紹介
 

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