東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

茶色いアウトラインで描かれたイラストにエメラルドグリーンの帯

書籍名

明清文人的小品世界

著者名

大木 康 (著)、 王言 (訳)

判型など

209ページ、並製

言語

中国語

発行年月日

2015年9月

ISBN コード

978-7-309-11313-6

出版社

復旦大学出版社

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明清文人的小品世界

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2015年に上海復旦大学出版社から刊行された『明清文人的小品世界』は、2004年集広舎から刊行された『明清文人の小品世界』の中国語版である。著者であるわたしは、中国の明末清初、江南地方の文学、文化と社会を専門にしている。研究の中心は、明末の蘇州で活躍した馮夢 (1574~1646) という人物。馮夢龍は、短篇白話小説集「三言」の編者として名高く、明末当時盛んに出版されるようになった『三国演義』『水滸伝』などの通俗小説や戯曲、民間歌謡など、俗文学に深く関わり、「明末通俗文学の旗手」とされる文人である。この馮夢龍をめぐって、彼が編んだ蘇州の民間歌謡集『山歌』について (『馮夢龍『山歌』の研究』勁草書房)、また当時の出版文化 (『明末江南の出版文化』研文出版)、色町の文化 (『中国遊里空間 - 明清秦淮妓女の世界』青土社) などの著作を世に問うてきた。
 
こうした研究を進めるにあたって、明末清初の蘇州を中心とするさまざまな文献を渉猟しているわけだが、その過程で、必ずしも一冊の著書、一篇の論文にならないまでも、深く心を動かされた文章にいくつもめぐりあった。本書は、これらの文章に詳細な注を加え、その背景を考え、作者の思考の跡を追いながら、精読を試みたものである。文章の内容はさまざまで、戯曲『西廂記』のさわりの句を問題にして作られた、旧時の科挙の答案のための文体である八股文。こんな文章を書いたところで、科挙の試験にはまったく関係ない。しかしながら、作者は精魂込めて、さまざまなレトリックを用いながら、この八股文を作っている。純粋な遊びの精神が産んだ作品である。また、日本のこっくりさんのように、死者と話ができる扶乩を行っていたところ、愛する恋人の少年の後を追って亡くなった若者の霊と話ができた。それに感動して歌にした、馮夢龍の「情仙曲」。科挙の不正事件に、心ならずも連座させられ、恐ろしい思いをしながらも、自分のことを心配しているであろう父母を思いやる手紙を書く、心やさしい秀才、呉兆騫の手紙。若くして亡くなった侍女の思い出を記した「呉姫扣扣小伝」など、すべて八篇である。これら八篇の文章は、中国を含む世界の中国文学史研究のなかで、正面から扱われるような作品ではない。逆にその点をおもしろいと思ってもらってか、中国語版が出たのであろう。
 
外国文学である中国文学の研究者である著者は、常日頃から、中国の文献をできるだけ深く精確に読むことを心がけ、それこそが作者たちの精神世界に迫る唯一の道だと信じている。作者とわれわれとの間には、時間的、空間的、二重の隔たりがあるだけによけいにそう思うのである。本書はかならずしも体系的な叙述を持つものではなく、研究余滴風な著書に見えるかもしれないが、文章を読むことそのものを何より愛し、研究の中心に据えてきた著者にとって、本書は研究の基礎であるとともに、中国明清文人研究の核心ともいえる書物なのである。
 

(紹介文執筆者: 東洋文化研究所 教授 大木 康 / 2016)

本の目次

中文版自序
第一章 笔墨烟波——唐寅 <我是个多愁多病身,怎当他倾国倾城貌>

一、科举
二、八股文
三、唐寅
四、<西厢记>
五、唐寅之西厢八股
六、出处与真实作者
七、再说唐寅
八、<红楼梦>
第二章 雅俗之间——陈继儒 <文娱序>
一、媒体时代
二、"山人" 陈继儒
三、小品宣言
四、文学新潮流
五、销愁的文学
六、<文娱> 之价值
七、<花史跋>
第三章 生死相依——冯梦龙 <情仙曲>
一、扶乩术
二、与死者之沟通
三、冯梦龙 <情仙曲>
四、<情仙曲> 序
五、惜春长怕花开早
六、美少年? 美少女?
七、一往情深深几许
八、文人反响
九、"情" 丝万千
第四章 有美一人——卫泳 <悦容编>
一、中国女性论
二、作者卫泳
三、<枕中秘>
四、文人趣味教科书
五、<悦容编> 之结构
六、<悦容编> 序
七、因缘际会 (<随缘>)
八、起居之所 (<葺居>)
九、学问才识 (<博古>)
十、神态情趣 (<寻真>)
十一、李渔之美人论
第五章 薄命才女——陈维崧 <吴姬扣扣小传>
一、"风流遗民" 冒襄
二、<影梅庵忆语>
三、萤窗心语诉情真
四、信是慈航再来人
五、怀抱旧什冰与璧
六、风前雨里一销魂
七、春朝一日
第六章 秀才家书——吴兆骞 <上父母书>
一、才子吴兆骞
二、与父母书
三、<金刚经>
四、吴伟业之同情与愤怒
五、宁古塔
六、友人之援
第七章 市鄽桃源——宋荦 <重修沧浪亭记>
一、苏州沧浪亭
二、宋荦之修复
三、浓密的人文空间
四、宋荦心声
五、维持庭园之努力
六、仕途骄子——作者宋荦
七、与沧浪亭比邻而居
八、沧浪亭一日
第八章 赴考之旅——林伯桐 <公车见闻录>
一、诗人之旅
二、谁在旅途
三、林伯桐 <公车见闻录>
四、约人同行 (<约帮>)
五、至北京之路线 (<就道>)
六、雇船之注意事项 (<行舟>)
七、乘坐马车与投宿旅店之注意事项 (<升车>)
八、换乘交通工具之注意事项 (<度山>)
九、出关之注意事项 (<出关>)
十、仆从及旅途健康 (<工仆> <养生>)
十一、旅途携带物品 (<用物>)
十二、到达北京后的注意事项(《至都>)
后记

関連情報

東京文化研究所ホームページ書籍紹介
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/news/pub150910.html
 

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