復興デザインスタジオ 災害復興の提案と実践
「この無限の空間の永遠の沈黙は私を戦慄させる」。
本書は、パスカルの言葉を引用した内藤廣先生の序文からはじまる。
無限の空間に、形をもたらすことはできるのだろうか。
東日本大震災を契機として、空間計画に関与する工学系三専攻 (都市工学、社会基盤学、建築学) が中心になり、民間企業や行政の方とも連携しながら「復興デザイン研究体」が立ち上がった。研究を軸に据えながら、実践と教育を往還するプログラムを提供している。その中核は「復興デザインスタジオ」という演習科目だ。本書は、そのスタジオを履修した修士課程の学生による3年間の成果と、各スタジオでのレクチャーをまとめたものだ。
I部は、1995年の阪神淡路大震災を対象とした。20年前の復興事業が、今どうなっているのか。現地で大学教授や実務家の先生からレクチャーをいただき、踏査して、批判的精神を忘れずに、復興のプロセスを辿った。そのうえで、都市災害における新たな復興のあり方を再編する復興事業のリ・デザインを提案した。
II部は、現在進行中である東日本大震災の被災地を対象としている。津波被災地域の陸前高田における福祉居住施設の設計提案と、原発事故による複合被災となった福島の風景再生計画である。これらのスタジオは、現地での施設建設や、継続的な実践へと展開している。
III部は、これから起こる首都直下を想定し、東京を対象としている。事前復興は、被害をいったん仮置きしないと議論すらできないし、東京の将来像という捉えどころのない論点も含まれる。
空間計画に正解があるわけではないが、本書には、異なる分野から集まってきた学生同士が、多様な考え方をそれぞれ深め合い、ぶつけ合い、止揚していった成果の記録であり、一人で復興とは何かを考えるにあたって、話し相手になってくれるものと思う。空間計画を考えるにあたって、他者との対話は、現地を知ることと同様に必須な段階だといえよう。
復興という難題に対して、地域の様相を理解し、多様な情報を入手し、チームで議論を尽くしながら、何らかの提案にするという作業は、災害が生じたあとに必要とされる。非常に具体的な現場の課題を理解するためには、復興とは何かという抽象的な問いを考えなければならないし、逆もまた然りである。
来るべき「そのとき」に備える行動の一つとして、本書を批判的に読んでいただき、いつか現場で役立てていただければ有難い。
(紹介文執筆者: 工学系研究科 特任教授 窪田 亜矢 / 2019)
本の目次
復興デザインスタジオの目的
本書の構成
第I部 阪神淡路
CASE 1 阪神淡路大震災の復興事業をリ・デザインする
第II部 東北
CASE 2 福祉居住施設の計画を被災年の復興の中で考える
CASE 3 福島の風景再生計画
第III部 東京
CASE 4 復興デザインの理想と提案
CASE 5 生き延びる渋谷
CASE 6 あとがき
CASE 7 復興実践報告