東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

講堂に着席している人々の写真

書籍名

解釈する民族運動 構成主義によるボリビアとエクアドルの比較分析

著者名

宮地 隆廣

判型など

364ぺージ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2014年1月29日

ISBN コード

978-4-13-036250-4

出版社

東京大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

解釈する民族運動

英語版ページ指定

英語ページを見る

ある民族集団が自らの地位や権利を求める運動は近現代史においても、そして現在においても世界各地に見られる。民族運動と言えば、強い団結意識やそれに支えられた行動の激しさなどの共通した特徴が想起されるが、本書はそのような見方を離れ、運動の多様性に目を向ける。分析の対象はボリビアとエクアドルというラテンアメリカ地域の2国で、両国にはそれぞれアンデス高地部と熱帯低地部の運動組織がある。2国・2地域の計4組織にそれぞれ一章が割り当てられている。
 
「ラテンアメリカ」「民族運動」「比較」という本書のキーワードは相互に強い結びつきを持っている。一般に、比較の対象は似ていることが望ましい。北はメキシコから南はアルゼンチン・チリまで、アメリカ大陸や周辺の島嶼部に広がるラテンアメリカ、とりわけスペイン語圏アメリカは比較にとって格好のフィールドである。1492年にコロンブスがアメリカ大陸に到来して以来、スペインが300年を超える植民地支配を実現した上、支配が終わった後も国際関係が比較的安定しており、ある国が隣国を長期的に支配することもなかった。共通の歴史背景を持ち、地理的に近く、かつ隣国との関係が安定している地域を見つけることが難しいのは、アジアやヨーロッパ、アフリカなどで具体的に考えてみれば分かるだろう。
 
比較の条件を整えているスペインの長期植民地支配は本書が分析する民族運動が発生した理由そのものである。植民地化によって、それより前に在住していた人々すなわち先住民を植民者である白人が支配するという、今日のラテンアメリカ社会の基本的構造が作られた。先住民は文化的に劣位なものとして扱われ、独立した後も差別を被ってきた。
 
20世紀後半に入ってようやく、先住民は差別を克服する運動を発達させたが、その運動は1980年前後に転機を迎えた。この時期、ボリビアとエクアドルを含む多くのラテンアメリカ諸国で、選挙権や政治活動の自由を著しく制限する軍事政権が終わりを迎えた。これは先住民組織にとって自由な活動を展開する機会が開けたことを意味する。興味深いのは、先述の4つの先住民組織には、民主化以後に取った政治行動に統一性がないことである。選挙に参加し、政権を取ろうとすることもあれば、そうしない場合もある。組織によっては、選挙に参加しつつも、クーデター参加や武力闘争など既存の民主体制に依拠しない権力獲得を試みる場合すらある。同じ国にある2組織、あるいは同じ地理的環境にある2組織を比べても、行動は同じではない。
 
このことは先住民運動の多様性を示すものである。すなわち、同じような歴史的背景を持つ運動組織が、同じような状況に直面しながらも行動が異なるということは、望ましい行動に対する考え方が組織ごとに違うことを意味する。このことを実際の資料を通じて裏付けることで、民族運動を単純な行動原理を持つものと見なすのではなく、状況に対して運動の主体が施す解釈に目を向ける必要性があることを本書は唱える。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 宮地 隆廣 / 2020)

本の目次

序 章 規範形成から民族運動を分析する: 問題設定と着眼点

第1章 実証的構成主義:フレームワーク
1 構成主義の特徴
2 論証手順とその理論的前提
3 先行研究の批判的検討

第2章 ボリビアI: 高地先住民運動
1 基礎情報
2 選挙参加を正当とする規範
3 先住民ゲリラ組織
4 パラレルな立法府の構想と挫折
5 選挙参加のみを正当とする規範の形成

第3章 ボリビアII: 低地先住民運動
1 基礎情報
2 陳情志向
3 高地運動との対立
4 「全国組織」の使命としての選挙参加
5 制度外的権力獲得の否定

第4章 エクアドルI: 高地先住民運動
1 基礎情報
2 政権獲得を正当としない規範
3 制度外的権力獲得の正当化
4 選挙参加と制度外的行動の同時実践

第5章 エクアドルII: 低地先住民運動
1 基礎情報
2 政権獲得を正当としない規範
3 早期の選挙容認
4 制度外的権力獲得の肯定

終 章 解釈する民族運動: 結論と含意 
1 規範形成の比較
2 エージェントとしての民族運動
 

関連情報

受賞歴:
第36回 (2015年度) 発展途上国研究奨励賞 (アジア経済研究所)
https://www.ide.go.jp/Japanese/Award/2015.html
 
第2回 (2015年度) ラテン・アメリカ政経学会研究奨励賞 (ラテン・アメリカ政経学会)
http://www.js3la.jp/prize.html
 
筆者自身による書籍紹介:
『ラテンアメリカ・カリブ研究』第21号、2014年
https://lacsweb.files.wordpress.com/2013/04/21miyachi.pdf
 
書評:
藤田護 評 (『アジア経済』第56巻第2号、2015年)
https://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Periodicals/Ajia/201506/ZAJ201506_006_46_pdf.html
 
矢澤達宏 評 (『年報政治学』2015年第66巻第1号、2015年)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nenpouseijigaku/66/1/66_1_306/_pdf/-char/ja
 
山岡加奈子 評 (『ラテンアメリカ・レポート』第31巻第2号、2014年)
https://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Periodicals/Latin/0312.html
 
岡田勇 (名古屋大学) 評 (『ラテン・アメリカ論集』第48号、2014年)
http://www.js3la.jp/journal/pdf/ronshu48/05brev_Okada.pdf
 
新木秀和 評 (『イベロアメリカ研究』第36巻第1号、2014年)
https://dept.sophia.ac.jp/is/ibero/pubia/%e7%ac%acxxxvi%e5%b7%bb%e7%ac%ac1%e5%8f%b7%ef%bc%882014%e5%b9%b4%e5%ba%a6%e5%89%8d%e6%9c%9f%ef%bc%89%e9%80%9a%e5%b7%bb70%e5%8f%b7/
 
桜井敏浩 評 (『ラテンアメリカ時報』2014年春号、2014年4月24日)
https://latin-america.jp/archives/8050
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています