東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

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書籍名

バーチャルリアリティ学

判型など

408ぺージ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2011年1月25日

ISBN コード

978-4-904490-05-1

出版社

コロナ社

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バーチャルリアリティ学

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本書は、日本バーチャルリアリティ学会 (以下VR学会) の創立15周年を記念して出版された「VRの教科書」である。執筆者はVR学会の理事、評議員を中心に、VR研究の分野において指導的役割を演じている研究者たちである。VR学会では、VR技術者の資格認定試験を行っていて、本書はその教科書に指定されている。その意味において、現在もっとも権威あるVRの教科書ということができるであろう。
 
ただし、本書が出版されたのが2011年であるため、現在の第2世代VR以前のVRについての記述である。その意味では不満の読者もあると思われるし、実際VR学会でも改訂版の準備が進められていると聞く。その意味では最新の内容を簡潔に伝える「トコトンやさしいVRの本」とは好対照をなす本である。
 
もちろん、内容の記述は本書の方がはるかに詳細であり、体系的である。カバーする学問領域も広く取ってある。VRという技術が第一期の円熟期を迎えた時代が一段落した時点で出版された本であり、落ち着いてVRを深く学習していきたいと思っている学生諸君には、是非おすすめしたい本ということが言える。第1章にはじまるバーチャルリアリティの定義や、情報技術における位置づけに関する記述は、現在においても全く変化しない内容である。社会的な意義など、応用にかかわる部分については、当時の大きなVRプロジェクトの紹介がなされて、これなどは、現在と対比的に眺めてみるべき記述であると考えられる。
 
実は日本で最初に発刊されたVR関連書籍は、当時新聞記者であった服部桂氏が著した「人工現実感の世界」(工業調査会) である。本書は昨年、ほぼそのままの内容で「VR原論」(翔泳社) として出版された。ちなみに、著者 (廣瀬) が、初めて書いたVRの本が産業図書「バーチャル・リアリティ」であり、多少遅れて刊行された。これらは、まさにVRという技術が飛び立とうとしているときの「初めての」教科書であり、より歴史的意味を持つ書籍と自負している。
 
贅沢を言えば、学生諸子にはこれらの書籍を是非読み比べてもらいたい。どの部分が大きく変わり、どの部分が変わっていないのか、それを読み比べることが、どんどん姿を変えていくVR技術をより深く理解するために必要なことである。アフォーダンス理論でいえば、動的な情報とのインタラクションの中における「不変項」の発見とでもいうことであろう。


 

(紹介文執筆者: 情報理工学系研究科 教授 廣瀬 通孝 / 2020)

本の目次

第1章 バーチャルリアリティとは
1.1 バーチャルリアリティとは何か
1.1.1 バーチャルの意味
1.1.2 バーチャルリアリティとその三要素
1.1.3 バーチャルリアリティと人間の認知機構
1.1.4 バーチャルリアリティの概念と日本語訳
1.1.5 道具としてのバーチャルリアリティ
1.2 VRの要素と構成
1.2.1 VRの基本構成要素
1.2.1 VR世界のいろいろ
1.2.3 VRをどうとらえるか
1.3 VRの歴史

第2章 ヒトと感覚
2.1 脳神経系と感覚・運動
2.1.1 脳神経系の解剖的構造と神経生理学の基礎
2.1.2 知覚・認知心理学の基礎
2.1.3 感覚と運動
2.2 視覚
2.2.1 視覚の受容器と神経系
2.2.2 視覚の基本特性
2.2.3 空間の知覚
2.2.4 自己運動の知覚
2.2.5 高次視覚
2.3 聴覚
2.3.1 聴覚系の構造
2.3.2 聴覚の問題と音脈分離 (音源分離)
2.3.3 聴覚による高さ,大きさ,音色,時間の知覚
2.3.4 聴覚による空間知覚
2.4 体性感覚・内臓感覚
2.4.1 体性感覚・内臓感覚の分類と神経機構
2.4.2 皮膚感覚
2.4.3 深部感覚
2.4.4 内臓感覚
2.5 前庭感覚
2.5.1 前庭感覚の受容器と神経系
2.5.2 平衡機能の基本特性
2.5.3 身体運動と傾斜の知覚特性
2.5.4 動揺病
2.5.5 前庭感覚と視覚の相互作用
2.6 味覚・嗅覚
2.6.1 味覚の受容器と神経系
2.6.2 味覚の特性
2.6.3 嗅覚の受容器と神経系
2.6.4 嗅覚の特性
2.7 モダリティ間相互作用と認知特性
2.7.1 視覚と聴覚の相互作用
2.7.2 体性感覚とその他のモダリティの相互作用
2.7.3 思考、記憶と学習
2.7.4 アフォーダンス

第3章 バーチャルリアリティ・インタフェース
3.1 バーチャルリアリティ・インタフェースの体系
3.2 入力インタフェース
3.2.1 物理的特性の計測
3.2.2 生理的特性の計測
3.2.3 心理的特性の計測
3.3 出力インタフェース
3.3.1 視覚ディスプレイ
3.3.2 聴覚ディスプレイ
3.3.3 前庭感覚ディスプレイ
3.3.4 味覚ディスプレイ
3.3.5 嗅覚ディスプレイ
3.3.6 体性感覚ディスプレイ
3.3.7 他の感覚との複合
3.3.8 神経系への直接刺激
3.4 入力と出力のループ

第4章 バーチャル世界の構成手法
4.1 総論
4.1.1 バーチャルリアリティのためのモデリング
4.1.2 レンダリング,シミュレーションとモデル
4.2.3 処理量とデータ量のトレードオフ
4.2 レンダリング
4.2.1 レンダリングのためのモデル
4.2.2 視覚レンダリングとモデル
4.2.3 聴覚レンダリングとモデル
4.2.4 力触覚レンダリングとモデル
4.3 シミュレーション
4.3.1 シミュレーションのためのモデル
4.3.2 空間のシミュレーション
4.3.3 物体のシミュレーション/剛体のシミュレーション/変形のシミュレーション/流体のシミュレーション
4.3.4 人物のシミュレーション

第5章 リアルとバーチャルの融合―複合現実感―
5.1 複合現実感
5.1.1 概念
5.1.2 レジストレーション技術
5.1.3 実世界情報提示技術
5.1.4 実世界モデリング技術
5.2 ウェアラブルコンピュータ
5.2.1 概念
5.2.2 情報提示技術
5.2.3 入力インターフェース技術
5.2.4 コンテキスト認識技術
5.3 ユビキタスコンピューティング
5.3.1 概念
5.3.2 ユビキタス環境構築技術

第6章 テレイグジスタンスと臨場感コミュニケーション
6.1 テレイグジスタンス
6.1.1 テレイグジスタンスとは
6.1.2 標準型テレイグジスタンス
6.1.3 拡張型テレイグジスタンス
6.1.4 相互テレイグジスタンス
6.1.5 テレイグジスタンスシステムの構成
6.2 臨場感コミュニケーション
6.2.1 臨場感コミュニケーションと超臨場感コミュニケーション
6.2.2 臨場感の構成要素
6.2.3 臨場感コミュニケーションのインタフェース
6.2.4 臨場感コミュニケーションシステムの実際
6.2.5 時間を越えるコミュニケーション

第7章 VRコンテンツ
7.1 VRコンテンツの要素
7.1.1 VRコンテンツを構成する要素
7.1.2 VRコンテンツの応用分野
7.1.3 VRコンテンツの日常生活
7.2 VRのアプリケーション
7.2.1 サイバースペースとコミュニケーション
7.2.2 医療
7.2.3 教育・訓練 (シミュレータとその要素技術)
7.2.4 エンタテイメント
7.2.5 製造業
7.2.6 ロボティクス
7.2.7 可視化
7.2.8 デジタルアーカイブ,ミュージアム
7.2.9 地理情報システム

第8章 VRと社会
8.1 ヒト・社会の測定と評価
8.1.1 実験の計画
8.1.2 心理物理学的測定
8.1.3 統計的検定
8.1.4 調査的方法とその分析
8.1.5 VR心理学
8.2 システムの評価と設計
8.2.1 VRの人体への影響
8.2.2 福祉のためのVR
8.2.3 感覚の補綴と拡張
8.2.4 運動の補綴と拡張
8.3 文化と芸術を生み出すVR
8.3.1 メディアの進化
8.3.2 高臨場感メディアと超臨場感メディア
8.3.3 体感メディアと心感メディア
8.3.4 かけがえのあるメディアと、ないメディア
8.4 VR社会論
8.4.1 VRの社会的受容
8.4.2 VRの社会化
8.4.3 VRの乱用,悪用
8.4.4 VRにかかわる知的財産権
8.5 VR産業論
8.5.1 ゲームとVR
8.5.2 アートへの展開
8.5.3 省資源・省エネルギー・安心安全に貢献するVR
8.5.4 「いきがい」を生み出す産業にむけて

索引
日本バーチャルリアリティ学会とは

関連情報

書籍紹介:
VRって何の略?VRを仮想現実と訳すのは間違っているかもしれません (VR-ROOM 2018年11月10日)
https://vr-room.jp/abbreviation/

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