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真っ赤な表紙

書籍名

どこでも刑法 #総論

著者名

和田 俊憲

判型など

208ページ、四六判、並製カバー付

言語

日本語

発行年月日

2019年10月

ISBN コード

978-4-641-13939-8

出版社

有斐閣

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どこでも刑法 #総論

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本書は、刑法総論の入門テキストである。四六判で本文は180頁ほど。コラムなどを除くと実質は160頁余りのライトな教科書である。全体は2部に分けられ、前半は15章、後半は19章から成っている。したがって各章ごとに割り当てられたページ数は少なく、4頁または6頁に抑えられている。本書の特長の1つは、そのように把握しやすい分量のブロックを数多く積む構成になっている点にある。
 
各ブロックの順序も特徴的である。一般的な刑法の基本書は学問体系に沿って記述されている。しかし、その体系化は学問的な合理性を追究してなされてきたものであり、いわば刑法が一度は分かった人に向けられている。これに対して刑法の入門書は、はじめて刑法を学ぶ人のためのものである。その観点から本書では、刑法学の体系にとらわれず、より原則的な事柄から例外的な事柄へ、より単純な論点から複雑な論点へ、という順序を徹底して追求し、しかも、いま読んでいるページよりもあとで書かれていることを前提にしなくても進めるように、つまり行ったり来たりしなくてもすむように仕組まれている。
 
その結果、本書は、まず前半で刑法総論の基本中の基本を1巡させ、それを受けた後半で少し深い学習をもう1巡させる形になっている。1冊で刑法総論を2巡させるという構成は本書の最大の特長である。これは少々大げさに言えば、上記の各ブロックの順序の点も含めて、刑法総論の新たな学習体系を提案するものであり、画期的なものだと自負している。
 
具体的な事例を頻繁に示しながら解説を進めているところも、本書の特長である。1~2行の短いものから、20行を超えるものまで、全体で160以上の事例を題材にしている。本質的に記述が抽象的になる法学の教科書では、理解を助けるために具体的事例を使うのが1つの有用な方法である。しかし、これまでの刑法の教科書には、事例とその解説を細かく積み重ねていくタイプのものがなかった。事例を挙げるとしても、判例で問題となったものに限られていた。本書では、判例の有無にかかわらず、すべての項目・論点について極力、具体的事例に基づいて説くようにしており、それが理解のしやすさにつながっているはずである。
 
本書は、刑法総論のテキストとしては稀にみる分かりやすさを誇っていると思う。しかし、分かりやすい教科書がよい教科書とは限らない。<分かりやすい> には <分かった気になりやすい> が含まれるおそれがあるからである。あまりに分かりづらいと先に進めなくなるから、分かった気になるだけでも一定の意味はあるかもしれない。しかし、本書を読んで、刑法総論の基本部分が理解できたと感じたときには、さらにほかの基本書に手を伸ばして、本書の疑わしいところ、入門書だということで誤魔化し隠しているようなところを探してほしい。疑問をもち、それを解決したときにこそ、理解は格段に深まるのである。本書は、最初に刑法総論の学習を2巡させるには適しているとしても、その際にあまり疑問が生じないようにしているという意味では、とても悪い本だということになるかもしれない。

 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 和田 俊憲 / 2021)

本の目次

○第一歩を踏み出す前に
 
[1巡目 さくさく]
単独犯の成立要件
 I 犯罪の基本構造
 II 因果関係・その1
 III 因果関係・その2
 IV 故意・その1
 V 故意・その2
 VI 未遂・その1
 VII 未遂・その2
 
共同正犯の成立要件
 VIII 共同正犯の基本構造
 IX 共同正犯の因果性
 
犯罪成立の例外的な否定
 X 違法性阻却の基本
 XI 正当防衛の基本
 XII 責任阻却の基本
 
特殊な犯罪行為類型
 XIII 不作為犯
 XIV 過失犯
 XV 狭義の共犯
 
[2巡目 ざくざく]
単一の項目を深める
 I 因果関係の内容
 II 不作為犯における作為義務
 III 被害者の同意
 IV 正当防衛の前提状況
 V 続・正当防衛の前提状況
 VI 正当防衛行為
 VII 故 意
 VIII 過 失
 
複数の項目を組み合わせる
 IX 早すぎた / 遅すぎた構成要件実現
 X 誤想防衛・誤想過剰防衛
 XI 共犯と違法性阻却事由
 XII 過失犯の共同正犯
 
例外的な処罰を追求する
 XIII 因果性要件の緩和
 XIV 危険要件の緩和
 XV 主観的要件の緩和
 
犯罪成立前後のはなし
 XVI 犯罪成立後の刑の減免事由
 XVII 罪 数
 XVIII 刑法の基本原則
 XIX 刑法の基礎理論
 

関連情報

自著解説:
自著を語る:「そこでしか得られないものの価値と、どこでも学べるということの価値」 (有斐閣PR誌「書斎の窓」No.668 2020年3月)
http://www.yuhikaku.co.jp/shosai_mado/2003/HTML5/index.html#/page/29
 
書籍紹介:
Book Information: 編集担当者による書籍紹介 (『法学教室』No.470 2019年11月)
http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/BookInfo201911-13939.pdf

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