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いろいろな犯罪シーンのこども用イラスト

書籍名

10歳から読める・わかる いちばんやさしい刑法

著者名

和田 俊憲

判型など

95ページ、B5変形

言語

日本語

発行年月日

2022年10月

ISBN コード

978-4-88574-466-2

出版社

東京書店

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本書は、一般向けの刑法の入門書である。一般向けといっても、『10歳から読める・わかる……』と題されているように、主な想定読者は小学校高学年の児童である。小学生に、まずはとにかく刑法の世界に入ってもらうことを目指している。そのために、本当に10歳でも読める平易な表現と分かりやすい具体例を用いている。また、絵本感覚で読めるように、子どもに受ける楽しいイラストを多用しているところに明らかな特徴があるほか、一見分かりづらいところでもパラパラ漫画や複数ページにまたがる仕掛けイラストなどを採用している。内容に関しても、おとぎ話を多角的に利用して子どもを引きこむ工夫をしており、「サンタさん・サタンさん侵入事件」は小学生のアイディアを元にしたものである。より刑法に則していえば、想像しやすい「危ない感じ」の犯罪類型――それは子どもにとって恐竜や昆虫と類似のカテゴリーのようである――に重点を置いており、粗暴犯や公共危険犯、内乱・外患罪などの割合を高くしていることが、通常の刑法の教科書とは異なる点である。なお、小学生を読者とする刑法の書籍では刑事未成年 (14歳未満) の扱いが難しいが、本書では小学生がまだ処罰されないことを隠さず、14歳になったときの刑事責任能力の獲得を、万全の態勢で目指すべき人生の通過点として位置づけた。
 
本書は、10歳以上であれば小学生に限らず、中学生・高校生が読んでも意味のある書籍である。中高生の読者には刑法的な価値を理解してもらうことを狙っている。たとえば、犯罪がなぜいけないのかの説明では、「駄目なものは駄目」ではなく、「法益侵害」を前面に出し、犯罪は単なるルール違反やマナー違反にとどまらないことを強調した。そして、法益を意識した具体的説明を豊富に盛り込み、各犯罪類型が処罰される理由に可能な限り言及するようにし、時事性の高い性犯罪や侮辱罪は「尊厳侵害」で統一した。その一方で、学問的には重要でも、処罰されない行為の扱いには少々配慮して、たとえば他人の物の一時使用が窃盗罪で処罰されないことなどには触れない方針をとった。なお、刑法の本ではあるが、刑事訴訟法が定める刑事手続についても見開きで簡潔に説明しているほか、罪刑法定主義 (法律主義や処罰の不遡及) などの憲法的価値にも触れて、公民の授業内容と関連づけられるようにしている。
 
10歳からということであれば、法学部生が読むことも排除されない。法学部生が読んでも、学問的な理解を深めることにつながりうる。本書では、一般的な刑法の教科書とは異なる視点から、法益ではなく行為態様の類似性に着目した整理をしており、すでに刑法を一度学習した人がこれに触れると、理解の立体化につながるはずである。また、法学部の授業ではあまり扱わないマイナーな犯罪類型――内乱、外患誘致、人身売買、水道損壊、信書隠匿など――についての知識を獲得することもできる。そして、何であれ、それを知らない人に説明することが一番の勉強になる――基本的な事柄であっても、説明しようとすると、自分の理解が必ずしも十分でないことに気づかされる――から、法学部生には、小学生に説明するつもりで読んでみてほしい。その一方で、専門性の高い知的刺激も隠されているので (住居侵入罪における住居権者の意思の衝突など)、そのような部分では学問的に考えてみてほしい。
 
最後に、最近の児童書の多くがそうであるように、本書も児童書の体裁をとりながら、大人の学びなおしにも使えるようにできている。その目的は、主な想定読者である小学生と同じく、とにかく刑法の世界に触れてもらうことである。現に筆者の周辺で、「刑法は難しそうだけれど、絵本なら読めるかも」という反応を得ている。そして、ひとたび本書を開けば、何らかの意味と程度において、刑法の理解が浸透すると思う。ちなみに、ある地方裁判所の刑事部では、裁判員向けの刑法の入門書として本書が推薦されていると聞いた。100頁に満たずイラストも豊富な本書は、刑法の全体像を手軽に気楽に把握するのに適しているのである。
 
本書によって刑法の裾野が幅広い年代で広がることを期待している。それが学問としての刑法学の発展にも資するに違いないのである。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 和田 俊憲 / 2023)

本の目次

第1章  刑法って何?
 
刑法って何?
もし刑法がなかったらどうなる?
刑法はいつできた?
刑罰って、どんなもの?
刑法って、だれが決めるの?
白雪姫毒殺事件
赤ずきんオオカミ殺害事件
森のクマさん刑事手続の道
 
第2章  どんな罪があるの?
 
特別な殺人罪 (1)
特別な殺人罪 (2)
火でとても危険なことをする罪
鉄道でとても危険なことをする罪
お腹の中の赤ちゃんを攻撃する罪
弱者を助けない罪
人に乱暴する罪
大勢で乱暴する罪
外国に働きかけて日本を攻撃する罪
犯罪の準備をする罪
鬼ヶ島内乱事件
人を傷つける罪
人の尊厳を傷つける罪 (1)
人の尊厳を傷つける罪 (2)
人の物を壊す罪 (1)
人の物を壊す罪 (2)
吸血鬼血液強奪事件
人の物を自分の物にする罪 (1)
人の物を自分の物にする罪 (2)
人の物を自分の物にする罪 (3)
サルカニ刑法合戦
いけないものを取引する罪 (1)
いけないものを取引する罪 (2)
仕事の邪魔をする罪
人の自由をうばう罪
人の家に立ち入る罪
サンタさん・サタンさん侵入事件
ニセモノを作る罪
えん罪を作る罪
隠す罪 (1)
隠す罪 (2)
隠さない罪
予期せぬ罪
責任のない罪
 

関連情報

書評:
窪直樹 評 (『法と教育』Vol.13、144~144頁 2023年8月)
https://www.shojihomu.co.jp/publishing/details?publish_id=5332&cd=3043&state=new_and_already

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