東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

手書きの書名

書籍名

まだ、法学を知らない君へ 未来をひらく13講

著者名

東京大学法学部「現代と法」委員会

判型など

248ページ、四六判、並製カバー付

言語

日本語

発行年月日

2022年7月

ISBN コード

978-4-641-12636-7

出版社

有斐閣

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まだ、法学を知らない君へ

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法学を学ぶと、どのような興味深い課題に出会い、かかわることができるのか。文系・理系を問わず、東京大学の学部1年生・2年生を対象として、2021年度から、法学部の教員十数名が1コマずつ講義をする「現代と法」という授業を開講しています。
 
『まだ、法学を知らない君へ - 未来をひらく13講』は、2021年度の授業内容を1冊にまとめたものです。13名の法学部教員が1コマずつ担当し、全員が書籍の執筆に参加しています。
 
学部1年生・2年生だけでなく、法学部とはどのようなところなのかと関心を持った高校生、学ぶ意義を再確認しようとする学部3年生・4年生や法科大学院の学生、アンテナをさらに磨こうとする職業人など、多くの皆様が手に取ってくださるならば、ありがたく存じます。
 
高校生や大学1年生・2年生に対する法学部の関わり方については、一方に、そのような年齢では教養科目や法学の基本に力を入れるべきであり専門的な法律の勉強などすべきではない、専門的な法律の勉強は3年生・4年生に進んでからでよい、という考え方があります。実際にはそこまで極端に言わない方が多いとしても、そのような理念型は昔から存在し、多くの法学研究者・法学教育者の思考を多かれ少なかれ規定しています。そのような考え方に優れた長所があることは、もちろん承知しています。
 
他方で、次のような考え方もあり得るのではないでしょうか。基本をしっかりと学ぶことの必要性それ自体はわかるが、その基本が例えばどこでどのように活かされるのかという具体的なイメージがあれば、基本の勉学にも力が入り理解が充実する。そのような材料が提供されるならありがたい。そのように感じる若者が多くいるのも、確かではないかと思われます。
 
この授業では、オーソドックスなカリキュラムにおいてどの学年に配置されているかを問わず、広い範囲の専門分野の教員が、1コマずつ、各自が対峙している専門的課題を紹介することとしています。「現代と法」という抽象的なタイトルとすることによって、実定法学だけでなく、基礎法学の専門家にも参画していただけるようにし、現に講義し執筆していただいています。「現代の法」でなく「現代と法」とすることで、歴史に題材をとる研究の紹介にもフィットし得るようにしています。
 
東京大学の場合、1年生・2年生と法学部との間には、キャンパスの違いという地理的な壁もあります。まずこの壁を様々な工夫で乗り越えることが、高校生を含む一般社会への発信にもつながるものと考えています。
 
本書が、法学を学ぼうとする方々が教養科目や基本科目に取り組む際の視野を広げ、また、法学以外の分野で活躍しようとする方々にとって自らの関心分野と法学との関連性を意識的に考察する機会となれば、幸いです。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 白石 忠志 / 2022)

本の目次

はじめに (白石忠志)
    I  法学部のオーソドックスなカリキュラム
    II  具体的な問題から出発する
    III  法の多様な側面や多様な担い手に触れる
    IV  基本科目を学ぶ意味
    V  「はじめに」のまとめ

第1講 [憲法] デジタル社会と憲法 (宍戸常寿)
    I  デジタル社会と法の関係
    II  表現の自由とインターネット
    III  名誉毀損
    IV  プライバシー侵害
    V  SNSと憲法
    VI  SNSと表現の自由
    VII  むすびに代えて

第2講 [民法] 同性カップルと婚姻 (沖野眞已)
    I  最近の判決から―札幌地裁令和3年3月17日判決
    II  現行の法律婚の制度
    III  民法・戸籍法を見直すなら―法制度の対応
    IV  おわりに
 
第3講 [刑法] 刑法は個人の尊厳を守れるか──性刑法の改正議論を題材に (和田俊憲)
    I  性刑法の改正経緯
    II  暴行・脅迫要件は必要か
    III  配偶者間の性的行為を特別扱いすべきか
    IV  常識の枠を越える立法提案
 
第4講 [商法] 金融サービス仲介業制度の導入 (神作裕之)
    I  はじめに
    II  背景
    III  制度の概要
    IV  仲介・媒介の意義
 
第5講 [会社法] 役員報酬と法 (飯田秀総)
    I  はじめに
    II  問題の位置づけ
    III  役員報酬の仕組みの工夫
    IV  実際の役員報酬の仕組み
    V  法制度の概要
    VI  おわりに
 
第6講 [労働法] 非正規格差をなくすには (神吉知郁子)
    I  正規・非正規処遇格差の現状
    II  労働法の役割
    III  格差はなぜ生まれたのか
    IV  格差是正の法規制
    V  残された課題
 
第7講 [知的財産法] 著作権法の過去・現在・未来 (田村善之)
    I  日本の著作権法の特徴
    II  立法の動向
    III  著作権法の第三の波
    IV  寛容的利用
    V 著作権法の将来像
 
第8講 [競争法] プラットフォーム全盛時代に適正な競争を確保する (白石忠志)
    I  競争法の概要
    II  プラットフォームに対する一律規制
    III  競争法の対応
    IV  搾取規制・優越的地位濫用規制の展開
 
第9講 [競争法] ビッグテックの台頭──競争法は機能しているか? (Simon VANDE WALLE)
    I  ビッグテックの台頭
    II  競争当局の対応
    III  批判:競争当局の対応は十分か。不十分または遅過ぎるか。
    IV  今後の方向性
 
第10講 [租税法] GAFAの利益をつかまえる──経済のデジタル化と国際課税ルール (増井良啓)
    I  はじめに
    II  問題の所在
    III  一国主義的な措置の増殖
    IV  国際協調は可能か?
    V  おわりに
 
第11講 [国際法] 国家間のサイバー攻撃をどう規制するか?──国連におけるICTs規制論議の経緯・現状・課題 (森 肇志)
    I  はじめに:国家間のサイバー攻撃・ハイブリッド戦と国際的規制の試み
    II  GGEとOEWG
    III  ICTsに対する国際的規制のあり方と2021年報告書
    IV  おわりに:国連におけるICTs規制論議の現状と課題
 
第12講 [英米法] 契約とContract──比較法からパンデミック・オリンピックまで (溜箭将之)
    I  具体例から: Hadley v. Baxendale
    II  「買主よ気をつけろ」
    III  不可抗力
    IV  イギリス法の広がり
    V  オリンピック契約
    VI  おわりに
 
第13講 [法哲学] 一人一票の原則を疑う (瀧川裕英)
    I  はじめに
    II  第一の矢: 一人一票の原則の例外
    III  第二の矢: 得票数制―議員の一人一票をやめる
    IV  第三の矢: 余命制―有権者の一人一票をやめる
    V  票の配分原理

関連情報

書評:
A2Z-PickUp Books (『会社法務A2Z』 2022年10月号)
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104546.html
 
竹添嘉子 (紀伊國屋書店販売促進部和書仕入課長) 評「Book Review 目利きのお気に入り デマ拡散の裏にあるメカニズム 新たな問題に向き合う法の視点」 (『週刊ダイヤモンド』 2022年9月17日・24日合併号)
https://www.diamond.co.jp/magazine/20244092422.html
 
石飛徳樹 (朝日新聞社編集委員) 評「解決への道筋探る思考止めない」 (『朝日新聞』 2022年9月3日)
https://book.asahi.com/article/14709421
 
書籍紹介:
新刊紹介『まだ、法学を知らない君へ』――全講導入文を公開! (有斐閣 法律編集局 書籍編集部 | note 2022年8月9日)
https://note.com/yuhikaku_hhsh/n/n73ab2538781c
 
BOOK INFORMATION (『法学教室』No.503 2022年8月)
http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/BookInfo202208-12636.pdf
 
7月の新刊案内 (京都新聞『教養図書案内』 2022年7月19日)
https://pr.kyoto-np.jp/guide/kyouyou/bk2207.html
 

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