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書籍名

国家の哲学 政治的責務から地球共和国へ

著者名

瀧川 裕英

判型など

376ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年8月23日

ISBN コード

978-4-13-031189-2

出版社

東京大学出版会

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国家の哲学

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国家はなぜ存在するのか。国家という制度は、いかにして正当化されるのか。本書は、国家の存在理由を再検討し、国家の意義を解明することを目指している。
 
問いの背景にあるのは、国家に対する懐疑である。現在の地球には、課題が山積している。2015年の「国連持続可能な開発サミット」で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の「持続可能な開発目標 (Sustainable Development Goals: SDGs)」には、「地球の課題 (global issues)」が列挙されている。貧困、飢餓、保健衛生、教育、ジェンダーの平等、エネルギー、雇用、インフラ整備、格差、気候変動、環境破壊、難民、租税回避などである。ここに挙げられている他にも、移民、テロ、内戦、武器管理、失敗国家など、迅速な解決を待つ地球の課題は数多い。こうした地球の課題は、一国家の内部にとどまらず地球全体に及ぶため、一つの国家で対処することができない。しかも、こうした課題の中には、国家の存在がむしろ問題を悪化させているように見えるものも少なくない。
 
今や、国家の存在理由という古典的な問題を問い返すべき時にある。この問題にアプローチするときに本書が探究するのは、政治的責務というもう一つの古典的問題である。個人が国家に対して負う責務は、政治体に対する責務という意味で、政治的責務と呼ばれる。個人は国家に対して義務を負うか、負うとすればその根拠は何か、という政治的責務の問いは、自らが不当と考える判決に従って刑死したソクラテス以来、法哲学の根本問題となってきた。
 
この根本問題に対して、これまで多種多様な理論に基づく回答が提案されてきた。その理論の論理構造を解きほぐし、入念に分析するプロセスを通じて、本書が最終的に辿り着くのは、地球共和国という世界秩序構想である。現在の地球に欠落しているのは、地球共和国である。国家は、地球共和国へ至る暫定的状態としてのみ正当化できるというのが、本書の結論である。
 
いわゆる世界政府論は、これまで多くの批判が投げかけられてきたこともあり、お世辞にも有力な学説とは言いがたい。しかしながら、国家が正統性を持ちうるとするならば、それは地球共和国へ至る暫定的状態として理解できるものでなければならないというのが、本書の結論である。実のところ、この研究プロジェクトを開始したときに、私自身このような結論に至るとは思いもしなかった。みなさんもいつか機会があれば、私とともにその行程を経験してもらいたい。
 

 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 瀧川 裕英 / 2020)

本の目次

第1章 個人は国家に対して義務を負うか?――政治的責務の正当化根拠を問う
 
第I部 国民の共同体としての国家
 第2章 人間関係から責務が生じる――関係的責務
 第3章 国家は親か? 国民は友か?――関係的責務論
 第4章 普遍的な父の下における兄弟――原理の共同体論
 
第II部 同意によって構築された国家
 第5章 同意は義務づける――明示の同意論
 第6章 居住や投票は同意か?――暗黙の同意論
 第7章 仮説の同意は同意か?――仮説の同意論と同意の批判理論
 
第III部 人々に利益をもたらす国家
 第8章 国家は自己利益を最大化する――自己利益論
 第9章 国家の恩に感謝する――感謝論
 第10章 国家の存続に個人の遵法は必要か?――必要テーゼ
 第11章 あなたが負うから私も負う――フェアプレイ論
 第12章 一般的な遵法義務は存在しない――哲学的アナキズム
 第13章 国家は自然状態よりよいか?――自然状態テーゼ
 
第IV部 義務を果たす手段としての国家
 第14章 人間が当然に負う義務――自然義務論
 第15章 正義の制度を支持する義務――正義の自然義務論
 第16章 法的状態を実現する義務――法的状態実現義務論
 第17章 国家は分業である――割当責任国家論
 
終 章 政治的責務と遵法義務

関連情報

書評:
郭舜 評「我ら地球共和国市民」 (『図書新聞』3337号 2018年02月03日)
http://www.toshoshimbun.com/books_newspaper/shinbun_list.php?shinbunno=3337
 
横濱竜也 評「政治的責務論は何を問うべきなのか」 (有斐閣『法哲学年報 (2018)』 2019年11月)
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641126107
 
横濱評へのリプライ 瀧川裕英「法的状態というユートピア――横濱竜也会員の書評に応答する」 (有斐閣『法哲学年報 (2018)』 2019年11月)
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641126107
 
宇野重規 評「政治的責務論から国家を論じる壮大な試み」 (信山社『法と哲学』第4号 2018年7月15日)
https://www.shinzansha.co.jp/book/b372619.html
 
宇野評へのリプライ 瀧川裕英「地球共和国とその実現可能性について――宇野重規氏への応答」 (信山社『法と哲学』第5号 2019年6月30日)
https://www.shinzansha.co.jp/book/b458329.html

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