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白とベージュの表紙

書籍名

[ちくま新書] シリーズ ケアを考える 第6弾 長寿時代の医療・ケア エンドオブライフの論理と倫理

著者名

会田 薫子

判型など

304ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2019年7月4日

ISBN コード

978-4-480-07239-9

出版社

筑摩書房

出版社URL

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長寿時代の医療・ケア

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20世紀後半以降、医学・医療が目指してきた生存期間の延長は寿命革命につながった。1947年に約50年だった日本人の平均寿命は、2019年には女性が88年、男性が81年となった。日本は世界でトップレベルの長生きできる国である。
 
一方、徐々に進行する老化によって心身にさまざまな変化を抱えながら最期へ向かう過程において、医療行為がかえって本人に苦痛を与え、自尊感情や自己肯定感を損なう場面もみられるようになった。多くの人にとって人生は長くなったが、老衰の進んだ超高齢者に対し、かえって負担となる医療行為が行われ、穏やかな最終段階が阻害されることも多くなった。このジレンマにどのように対処すべきか。いかにすれば長命を長寿にできるか。
 
これは、「一人ひとりがどのように自分らしく人生の物語りを生ききるか。医療・ケア従事者はそれをどのように支えるか」を分析し考察する臨床死生学の中核のテーマであり、人生の最終段階の医療とケアに関する臨床倫理上の重要なテーマである。
 
医療に関わる事柄を議論する際には、それがどのような分野の議論であっても、その基礎として、時代に合った新しい医学的な知見を踏まえることが必須である。医学的に適切な判断が土台となることで、倫理的に適切な判断が可能となる。土台の医学的判断が不適切であれば、倫理的な判断は適切になりえない。医学的な知見は時代に沿って更新されるものであり、そのために学び続けることが必要となる。
 
しかし、医学的な新知見が語ることは、従来から「常識」とされてきた社会通念や一般的な情緒的反応から乖離していることもある。そうした場合に、臨床現場では意思決定上の問題が発生しやすい。
 
例えば、典型的な長寿の最終段階である老衰やアルツハイマー型認知症の末期においては、経口摂取が困難となる。そうなったとき、胃ろうや経鼻チューブや点滴を用いて水分と栄養分を人工的に補給すべきか否か。それは医学的および倫理的にどのような意味をもつのか。
 
筆者はこうした問いを明らかにすべく、まず文献を渉猟したが、国内では先行研究が非常に稀少であったため、社会学の方法論を用い、臨床医を対象として質的研究を行い、それによってブラック・ボックスを開け、変数を明らかにし、それらの変数によって仮説を組み、縦断調査による量的研究を行った。それによって独自性の高い研究知見を得た。これらの研究知見は関連の医学会のガイドラインに活かされ、全国の臨床現場で一人ひとりの患者の医療とケアの意思決定に活用されている。
 
同書ではこのテーマ以外にも、「点滴信仰」や末期の心肺蘇生法や抗菌薬投与が意味することや、今世紀に入り急速に展開してきた老化の科学frailtyの評価を活用し、科学的および倫理的に過少医療を避け、年齢で差別するageismの社会的問題に対して科学的に応答することや、アドバンス・ケア・プランニングなど、超高齢社会の臨床死生学と臨床倫理学に関わる諸課題について、データと理論に基づき、倫理的に考察している。

 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 特任教授 会田 薫子 / 2020)

本の目次

第1章 食べることができなくなったら―人工的水分・栄養補給法の課題
第2章 胃ろうが意味すること
第3章 混乱からガイドライン策定へ
第4章 医療とケアの選択 ― どのように意思決定を支援すべきか
第5章 いのちをどう考えるべきか
第6章 事前指示からアドバンス・ケア・プランニングへ
第7章 frailtyの知見を臨床に活かす
第8章 終末期医療とエンドオブライフ・ケアの違い
第9章 尊厳死・安楽死問題とは何か

関連情報

参照ホームページ:
東京大学大学院人文社会系研究科上廣死生学・応用倫理講座
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/dls/ja/staff.html
 
会田薫子 (臨床倫理学、臨床死生学) 長寿時代の医療・ケア――エンドオブライフの論理と倫理 (SYNODOS 2020年2月17日)
https://synodos.jp/society/23226
 
書評:
『朝日新聞』 2019年9月7日
『看護』p.111 2019年9月号
『ケアマネジャー』p.90 2019年9月号
 
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関連書籍:
会田薫子『延命医療と臨床現場 - 人工呼吸器と胃ろうの医療倫理学』 (東京大学出版会 2021年3月5日)
http://www.utp.or.jp/book/b564353.html

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